2004/09/07

第29号

 労働関係諸法令の時代にあった整備が進められようとしている。現実
 には、法令も行政解釈も今の時代の変化にはついていけない状況であ
 る。だがしかし、労働基準監督官の一部には、時代についていけない
 のではなくて、もとより学習不足のために、民間企業に対して、何を
 言うやら分からない監督官が存在する。
 サービス残業の監督指導については、厚生労働省本省が、マニュアル
 めいたものを作るまでは、労働基準監督官個人の関心の高さ、関心の
 低さ、未熟さや熟練度によって、是正勧告書の内容が大きく違ってい
 たのだ。手練手管に一杯食わされていた若年監督官がとても多かった
 のである。今年、労働基準法第18条の2の解雇条項が施行されたが、
 この法律改正が取りざたされるまでは、「平均賃金の30日分さえ払え
 ば、いつでも解雇できる」(これは間違い)と、口頭説明していた監
 督官が何人もいた。これを信じた民間経営者は、「何人もが煮え湯を
 飲まされた」のである。
 つい先日は、政令都市の中央労働基準監督署が、大きな間違いをした。
 事案概要は、36協定の届出が社長と社員会の間で締結されて届けられ
 た。この社員会は労働組合であるとの証明書が添付されていた。労働
 組合の機能を持つかどうかは届出時に窓口確認されていたにもかかわ
 らず、「協定不適格当事者」と言って、監督署は空論法を繰り返し、
 つき返したのである。会社からの猛烈な抗議に対しても、労働組合法
 条文の読み間違いと間違った解釈を披露するものだから、協定当事者
 問題根本からの大論戦になった。結果は監督署がことごとく間違って
 いたのであって、最後には「労働局が悪いんです」と責任逃れをする
 始末であった。当該監督署挙げて結論に達していたにしても、上級機
 関の労働局の間違った指示に気がつく能力がなかったにしても、監督
 署の組織も監督官も理論水準の低い限りなのである。
 時代にあった法律整備が必要ではあるが、本省としては、それを待つ
 間にも労働基準監督官の、「せめて、正確な法解釈」をする程度の理
 論指導は、当然のことではないだろうか。監督署に聞いて、それを信
 じて実行すれば、裁判に負けて、監督官からは、「裁判のことまで知
 りません」と言われる始末であれば、誰も監督官を信頼しない。

 普通解雇と懲戒解雇の区分けや記載方法での質問が、私どもに相次い
 でいる。次回のメルマガあたりで、手抜かりの出ない作成・運用・実
 務方法を解説する予定でいる。
 今年から、労働基準法第18条の2の解雇条項が施行されたことで、解
 雇法理が判例法理から法廷法理に変更された。これに伴い就業規則の
 大幅変更がされないと解雇無効となるケースが続出する。(規則を変
 更せずに解雇無効となる事態を招くのも事業主の自由との論理に立つ)
 とくに、「客観的に合理的な理由」を就業規則で表現する必要がある。
 客観的とは外部の第三者が確かめられる事実で証明できるかどうかで
 ある。合理的とは理由の事実が真実で、解雇の正当な事由を証明でき
 るかどうかである。よく見受けられた、普通解雇の4?5項目規定で
 は「客観的に合理的な理由」に欠ける。普通・懲戒共にそれぞれで重
 複した解雇条項を挙げておかないと理由に欠けることになる。「悪質
 なときは懲戒解雇」との規定も「悪質」の部分で理由に欠ける。「こ
 れはこういう意味です」と説明しないと判読できないものは客観性に
 欠ける。作成技術の側面に限定すると、想定される普通解雇条項を列
 挙し、その中から、事業社会共同体の秩序維持のための「見せしめ」
 および「ダメージ」の必要な条項を拾い挙げて懲戒解雇条項とするの
 だ。ただし、中間管理職一般に理解してもらうには、これだけでは不
 都合を続発する事になる。規則とは「踏み外せば罰する」ものではな
 い。世に言う証拠と手続きも必要。裁判になってからでは取り返しが
 付かず、判例の合否では社員の納得は得られるはずもなく、働いた経
 験がなければ就業規則を書ききれないなどの課題をクリヤーした解説
 を書きます。

 個別労働紛争の「あっせん」を申請されたときの会社の対応について
 の、原稿依頼があいつぐ。(マニュアル的にまとめますので、少々お
 待ちを)。「あっせん代理人」の書籍(日本法令刊)は1ヵ月半でビ
 ジネス本のベストセラーに突入。あっせん申請への対処の方法やあっ
 せん代理人の選び方が読み取れるとのことで好評らしい。トラブルや
 事件が発生しそうでも、一般的弁護士は裁判所から「訴状が来たら連
 絡ください」と話にも乗ってくれない。こんなことから「あっせん」
 は広がりを見せているのだろう。

 ビジネスマンなら、産業業種そして職業を問わず、誰でも知っておか
 なければならない経済の話。世界経済はどちらを向いて走っているの
 か。アジア経済戦争に負けた(平成14年末)日本はどちらを向いてい
 るのやら。
 中国経済バブル、拡大EUの誕生、インド、ブラジルなどアメリカ中
 心の世界経済は急転換していることは確か。これに対して、小泉はア
 メリカ中心の経済戦略一辺倒。片や経団連などは、「東アジア自由経
 済圏」確立と、異なった方向で走っている。いまの日本は、どっちつ
 かずの状態である。
 来年3月末の不良債権処理計画期限まで、六ヵ月と少し。金融庁は地
 方銀行や信用金庫に手を付けてきたので、その面から中堅中小企業の
 リストラや企業再編が本格的になる。これに加え、アメリカ大統領選
 挙の結果如何にかかわらず、選挙後は景気後退するのは間違いない。
 中国経済バブルもあと4年(北京オリンピック)で終了するが、すで
 に鉄鋼分野の来年予想では「大幅落ち込み」となっている。
 とはいえ、「どっちつかず」の上にマイナス要因ではあるが、「高付
 加価値製品」または「高水準サービス商品」に軸足をおいた事業経営
 を行っていれば、「どっちつかず」には巻き込まれることはない。こ
 れを基本に、大手も中堅も中小零細企業も「多国籍企業展開」を考え
 ているのであれば、アメリカか?東アジアか?とのどっちつかずの論
 戦は、知識として知っている程度で十分である。「どっちつかず」を
 克服すれば、東ヨーロッパやアフリカも視野に入ってくるというもの。
 二つの軸足での事業経営と現有人材のベクトルが一致すれば、マイナ
 ス要因の影響も、そよ風程度に感じるだけである。
 失敗事例の三菱で説明をするとわかりやすい。テレビ東京系列で、三
 菱自動車水島工場の研修風景が放映された。水島工場の幹部らしき男
 が最初に社員に話しかけたのは、「ただでさえ忙しいのに、なぜ、企
 業倫理か」とめんどくさそうな顔であった。もうずれている。テレビ
 東京側には「従業員には話を聞くな」との取材規制があったと報道し
 たが、TVクルーに三菱が辛酸を舐めさせたから報道されたものだ。
 アメリカでも東アジアでも「ブラ下がって経営をしておれば」と考え
 るから「ほっかむり」しようとなる。そこへ、巷の評論の中での、三
 菱系列には「高学歴の人材さえ抱えていれば技術が?というものの、
 チームワークもないので…」では技術発揮も疑わしい。企業の倫理観
 に問題があるというよりも、そもそもが、遠い昔のままの時代錯誤の
 経営戦略。世界経済動向にかけ離れ、「高付加価値とか高水準サービ
 ス」など眼中に無いから、ますます企業倫理など気にもとめない。三
 菱の行為は日本経済の足を引っ張り続けている。財閥系といっても明
 治以降の新興だから気づくKNOW-HOWすらない。

 月100時間を超える時間外労働には、事実上の罰金政策か?
 過労死や過労自殺につながる過重労働による健康障害発生を防ぐため、
 月100時間を超える時間外労働を行った場合、労働者自身が健康に不
 安を感じた場合、周囲が異常を疑った場合などに、医師による面接指
 導の実施を制度化する方策。厚生労働省は18日、「過重労働・メンタ
 ルヘルス対策の在り方に係る検討会」の報告書を発表した。現行の時
 間外を長時間させたときの健康診断も事実上の罰金政策である。
  http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/08/h0818-1.html