2006/08/07

第52号

社会保険事務局・社会保険事務所の国民年金にかかる指揮命令系統を使っての組織的不祥事には、「新人事評価不良職員」とか、「業務命令違反者」とかのレッテルを貼られれば、将来発足する「ねんきん事業機構」と「全国健康保険協会」などへの採用がされないのではないかとの職員の不安が背景にあったものと思われる。すなわち、国会議員の年金情報をマスコミにリークしたのは社会保険職員であると決めつけ、「閲覧で処分を受けた職員は辞めさせろ」の圧力をかけて、「業務目的外閲覧による処分を重視しつつ勤務成績等に基づき公正な任用・採用を行う」などとする採用方向が固まりつつある中での「不良職員は採用拒否されるぞ!」との脅しの暗示が併用された組織的不祥事の疑い。国民年金の不正事務に関する「2000人懲戒処分」がなされれば、今や、社会保険庁内は、「不採用に脅かされ不正を行ったうえでの懲戒処分なのか?」をはじめとした、切った張ったの殺伐とした状況になることには間違いない。
社会保険庁の適用怠慢は、約3年前に当メルマガ(2003/09/09)に掲載した通りにその後も継続しており、例えば、いまだ非正規労働者を主力とする業務請負業者への適用促進は方針として出されていない。その数は全国で100万人強と推定される。この業務請負業界は、ほぼ全員が低賃金労働者であり、責任感のない事業主も多いことから、社会保険庁としては保険料回収に魅力がない!と、社会保険庁がこの30年ほど行って来た裏技行政から、そう判断せざるを得ない。パートタイマーは適当に書類審査、そこで今回の事件である。であるから、国民年金の事務不祥事で有名になった大阪社会保険事務局管内における職員のモラル&モラール低下のはなはだしさは肌で感じられていた。春からの被保険者加入状況調査は、大阪の主力社会保険事務所では単なる形式だけといった様子。
・源泉徴収納付書と人数を合わせるだけで、昔のような踏み込んだ調査なし。
・パートは居ないと言えば、それで調査は終わり。
・事業主が社会保険庁批判の抗議をすれば、調査時間短縮?
・調査期日を3回程度先送りの申し立てをすれば調査自体が消滅。
・「調査に来るな!捜査令状を持ってこい!」と暴言をはいた事業所にも調査消滅。
・VTRや写真撮影に逃げ惑う調査官、定時刻になれば調査終了。
・手土産を、労働保険の調査は必ず拒否するが、社会保険は持って帰る。
・未加入者は事業主届出をさせるので、届出保留しておき、そのうち退職。
このような大阪での腐敗混乱は、「大阪の長期不適切温床」の存在に関係することでもあるが、このままでは全国に波及・増加することになるかもしれない。「悪貨は良貨を駆逐する」。
ところで、厚生労働省本省が関与する労働者派遣事業のスタッフには加入促進を義務づけ、労働局も調査対象としている(「注目DATA」に関連記事)。この例が示すとおり、社会保険庁には、今や政策能力もなく実行する職員も居なくなった程度は通り越し、「倫理感を当該行政組織が破壊し続ける」と言わざるを得ない。
中坊公平の住専整理回収機構のときのように、約20,000人弱の職員のうち、トップから300人程度を裁判官、検察、弁護士、民間人、警察官などに入れ替えることでもすれば、社会保険庁や「ねんきん事業機構」の倫理感を回復することができるのかもしれない。


離職票発行手続きにおける退職労働者本人欄の署名押印については、本人との連絡が取れない場合は、事業所の代表者印鑑を押すことで運用されて来た。ほぼ全国的にこのような基準で行われている。ところが、この7月から大阪の安定所では本人記載欄への本人署名押印を義務づけ、連絡が取れないなどの場合は詳細な報告を求めることとなった。その理由として不適正な事件の急増が挙げられている。たとえば、本人の知らぬ間に自己都合退職の離職票が届けられるとか、退職届の偽造、退職していないのに離職票が届いたとの極端な事例もあるとのこと。従来からこのような問題が指摘されており、この動きは全国に波及する可能性が高い。7月26日現在、厚生労働省雇用保険課は、原則は「本人欄は本人が記載」との認識を示しており、間違いがあった場合は失業手当受給段階で本人が異議申し立てをすれば、ことは足りるとしている。
なお、退職届の偽造は有印私文書偽造となり、一度安定所に提出すれば公文書となるので返却はされない。離職票に本人署名押印欄があるので、これに手を加えると有印公文書偽造となる。失業給付の段階で、失業者本人からの失業給付を受給する安定所に対する「異議申し立て」によって、離職票発行を安定所の適用課が事業所に対して調査を行うこととなっている。この手の事件は単純な偽造程度から複雑な労使主張対立のものまで多岐にわたるが、単純な段階で違法アドバイスを行っている者は、意外にも社会保険労務士(不正には専門的知識が必要)の中に存在する。平成15年の、大阪西安定所管轄の事件で、ある社会保険労務士Aが会社の犯意に応じ偽造を教唆、訴訟になれば会社は一転して社会保険労務士Aの単独犯を主張、民事裁判は労使の和解が成立したが、有印公文書偽造の刑事訴追とAに対する損害賠償は未だ残っている。
この大阪でのニュースは、個別企業の現場では、いよいよトラブルが続出している現実を示すものだ。


国際労働機関(ILO)の報告によると、職場での暴力は欠勤や病欠、生産性の低下につながるとしている。威張り散らすことやセクシャルハラスメントも含まれる。欧州、開発途上国などでは増加傾向にあるとのことだが、一方、アメリカ、イギリスでは、物理的暴力が減少傾向にあるとしており、アメリカでは職場での殺人件数が93年の1000件から10年後の03年には630件に減少、イギリスでも、職場の暴力発生件数が、95年の130万件から03年の85万件に減少。増加傾向と減少傾向の差がどこにあるかは、最終的には研究を待たなければならないが、アメリカにはADR(労働問題の裁判外調整機関)、イギリスには仲裁局(労働問題の合意調整機関)の存在に注目しても良いのではないかと思われる。また、アメリカ、イギリスでは解決が必要とされる労働紛争には労使紛争に加え労働者間紛争も含まれている。これに対してフランスやドイツでは労働裁判所の制度が主流であり、発展途上国では労使紛争解決への理解や意識がまだまだ弱いのが現実である。


日本経済は内需・豊かさ・個人消費の脆弱さに加え、まだまだ「高付加価値製品と高水準サービス」商品の提供(日本沈没での、唯一個別企業の浮き輪)に、力を注ぎきれていない為に、景気回復とはいいながら危険な側面が現れてきている。景気回復論調とは異なる点をいくつか挙げてみると、
(1)アメリカの経済先行き不安で輸出の伸び低迷
(2)外資資金引揚げで株安により設備投資に陰り
(3)石油高騰で消費者物価上昇、医療費、介護料などの負担増で、個人消費の減退
(4)日本企業の外資系多国籍企業への転換、財界総理の経団連会長までが外資系(御手洗氏)
(5)世界中がアメリカ経済やドルの先行き不安を予想、日本経済への打撃の可能性
といったところである。これらを見据えて、小企業といえども個別企業の戦略を組み立てなければ、大手企業や時代に翻弄されるばかりなのである。「聞き心地の良い話」には注意が必要であるし、経済指標数値や金融は結果であり、豊かさの反映でもないのである。
とりわけ、内需・豊かさ・個人消費による抜本的な景気回復の立ち遅れは、格差や貧困の問題に現れ出ている。6月30日に発表した労働力調査によると、1953年の調査以来初めて、雇用者数は、5500万台に乗った、にもかかわらずである。
(1)OECDの05年2月公表、日本の貧困率は15.3%、先進国ではアメリカ17.1%に次ぐとのこと。
(2)国民生活基礎調査04年、世論調査でも「生活が苦しい」と答えた世帯は55.8%。
(3)日本銀行調査05年、貯蓄ゼロの世帯比率は23.8%
(4)生活保護世帯100万戸突破、年収が生活保護未満の収入者は最近のNHK調査400万人と推定
(5)総務省統計局の可処分所得の対前年比は、05年平均はマイナス0.8、だが06年1?4月はマイナス4.0、2.7、5.9、4.6と減少率が急増
加えて、職場や現場での現象は、熟練技能継承の停止、技術者養成の遅れ、職場での士気低下、指揮命令系統の崩壊、業務上精神疾患の増加、商品の品質低下、リコール激増、基本的安全管理の欠如が、特に大手企業でこれらが目立っている。
このような現象は、確かに世界的に起こっているものである。だからと言って、個別企業で、仕方がないとか身を任せて漂うのでは無為無策である。これでは経済学や歴史学を学び研究することを否定するもので、振り返ってみると、
(1)産業革命と機械打ち壊し運動、
(2)19世紀イギリスで工場法が制定、
(3)第一次大戦後アメリカのニューディール政策、
(4)第二次大戦後の連合国(国連)の枠組みなど、
(5)今、歴史構造が変わる動きが起こっていることは間違いがない。
物事を見据える必要のある個別企業の人事総務担当者は、研究者とまではいかないまでも、これを見過ごすことは致命的落度となる。そこで、物事を冷静に判断するための比喩的情報提供。…最低賃金引上運動(英国、ドイツ、スイス、スウェーデン、エストニア、リトアニア、スロバキア、ポーランド、韓国、タイ、ベトナム、ニュージーランド)、クールビズ要求(英国の労組)、新雇用法反対(フランス)、不安定雇用規制(イタリア)、日曜労働拡大反対(スイス)、労働条件をサービス労働者の出身国に合わせることを反対(EU諸国)、解雇自由・スト禁止などの労働法制改悪反対(オーストラリア)、労働時間弾力化反対(EU諸国)、労働法制改悪反対(EU諸国)、委託・外注化反対闘争(カナダ、メキシコ)、労働法改悪反対闘争(メキシコ)、契約社員制度廃止(フィリピン)、医療制度改悪反対(タイ)、年金改悪反対闘争(英国、ベルギー、ポルトガル)、社会保険制度改悪反対闘争(ギリシャ)、民営化反対闘争(インド)、郵政事業民営化反対闘争(EU諸国)など。


ところで、経済のグローバル化と言いながら、見落とされがちなのが実際の社会制度の内容である。グローバル化の先頭を走っているアメリカの場合、契約書など法的効力を持つ文書とか法令の中に、曖昧な文言が用いられていると、憲法上の自由の行使を抑制する傾向を生じることもあるとして、社会制度だけではなく社会習慣として、曖昧な部分が「文面上違憲無効」とされる。用語として使われるのは、Vagueness=法令の文言が「あまりにも一般的・抽象的なため、その命じる又は禁止する内容を一般人が読んで判断しえない」との概念である。本来の契約書や法令は効率的合理的なものであると考えられており、それにもかかわらず契約や法制度の制定に曖昧な文言が存在するため、一層の混乱や当事者関係の複雑性を生じる場合には、解釈の違いとか事情変化の問題と位置づけずに、もとより無効と考えてしまう概念である。
したがって、日本の個別企業の、経済商習慣、就業規則、その他社内規定においても、グローバルな社会制度への対応と人材育成が必要となってくる。旧態依然の意識や感覚では、物事は通用せず、いわゆる「曖昧さ」は、いくら日本的経営とか、日本の社会風土とかの弁明を付け加えたとしても、個別企業の経済の足を引っ張り、個別企業を社会不適合に陥らせることは間違いない。

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