2010/10/05

第102号

<コンテンツ>
労働者のやる気:モチベーションの激変
「会社に通いつつも…」目的や理念のない毎日の生活。
時代の混乱がメンタル疾患急増
就労適応不全:メンタル対策は社会的急務!
片や、ちっともメンタル疾患が発生しない職場
うつ病の原因は長時間労働とする珍説
メンタル疾患:増加阻止の水際作戦がある!
早期発見方法
早期発見の社内体制
医師への受診をさせる根拠
2週間の通院治療
経営管理の視点からのメンタルヘルス対策とはどれか?
抜本的経営対策の結論は
アカデミックのメンタルヘルス議論
アカデミック色の強い学習訓練手法だが


労働者のやる気:モチベーションの激変
が急速に進んでいる。企業の資金需要を、銀行を通じた(利回優先)金融資本に頼った時代は終わり、新しい経済環境のなかで、労働者の意欲の源泉は日本においても激変した。
1.活動自体から、もたらされる内的な満足感
2.仕事で成功を収め、
3.プライベートを充実
の3項目を一体とさせる為にやる気を出すとの研究(モチベーション3.0:ダニエル・ピンク著:講談社)成果は、日本でもこの数年で一挙に自然定着した。
「信賞必罰」(外的な名誉や金銭といった報酬を中心に構成)は、大規模生産を行うためのルーティンワーク(科学的管理法:テーラー)の仕事方式には有効であった。が、それは今やお題目となってしまった。アメとムチは短絡的思考、依存性、倫理観欠落を助長するばかりにもなった。かの有名な、「マズローの欲求五段階説」でさえも、現在のICT産業革命のもう一つ前の産業革命期(20世紀初頭)を基盤にしていたから、グレードアップした解説をしない限りは、老人が説いたところで、若者はフィクションと受け止めてしまっている。


「会社に通いつつも…」目的や理念のない毎日の生活。
戦前からの計画経済(日本政府:歴代の官僚たちが真似た旧ソ連の経済計画方式)に、どっぷり漬かって抜け出せないばかりか、「失われた10年×2回=20年」を過ごした現時点でも、大半の人たちが、政府をあてにしないとする、「自力更生」の経済や豊かさのあり方に挑戦出来ていないのが現実である。
だから、ほとんど関係無いはずの尖閣諸島の事件ショックが、経営者のモチベーション低下の口実にもなっている現象が出るほど、これが巷の現実なのだ。携帯の通話数量は極東地域が断トツに多く、メールでの意思伝達やKYへの気遣いは日本が最高とのことで……。これを日本人の自由意思の薄弱さと依存性の高さから来る現象とする学説もあるのだ。
そういった社会や経済の混沌とした中で、親や子供への優しさがあるのだから…日本の技術者や技能者は海外へ出稼ぎに行って仕送りをする経済対策!と、真面目に論説する某女性経済学者まで出現する始末である。それは、労働輸出と言って、昔の中国、北朝鮮、ベトナム、そしてフィリピンのお家芸。労働能力の違いはあっても、単にその後追いである。労働輸出を迫られる場合とは、個別企業にシステムとしての技術やノウハウ蓄積が行われておらず、システム販売(今話題なら、原子力発電、新幹線など、このメルマガ前101号で紹介)が出来ないことによるものだ。家電の技術者数百人、町工場の技能者数百人、金型技能者数百人と、今後も増加するであろうが、これは頭脳流出とは全く異次元の事柄である。
ついでの話だが、日本国内において、システム販売を苦境に立たせた政策こそが、1997年の職安法緩和、1999年の労働者派遣法緩和である。とにかく、官僚も学者も、それを報道する大手マスコミ記者も、どこまで依存心が強いのか、時代の混乱によって右往左往するのはインテリの「業&性」なのだろうか?


時代の混乱がメンタル疾患急増
の要因、これが最も妥当な話である。では、この時代の混乱とは何かといえば、様々な論説が混在しているが、経営管理の視点からすると、個別企業が「時代や経営環境に適した働き方」を運営&組織化することが出来ていないから、労働者に混乱が生じているところに根幹があると見ておく必要がある。すなわち、大局的に解説すると、20世紀初頭から開発され進められてきた、大規模生産を行うためのルーティンワーク(科学的管理法:テーラー)の仕事方式、これの変更を迫られている事態に、個別企業が対応出来ていない運営&組織で頻発しているのである。そんなことでは、日本経済が進むべき、「高付加価値製品&高水準サービス」を組織的に商品提供が出来ないと解っているにも関わらず、実態は(戦略や戦術、その準備を整えた上で)個人プレーの労働力に頼ってしまうから、有能な人材の労働力毀損続出となっているのだ。これがメンタル疾患急増の原因である。


就労適応不全:メンタル対策は社会的急務!
経済(市場)・経営環境の急激変化による「就労適応不全」が、各々の個別企業内で起こっていると見るべきであって、これは社会や経済構造に翻弄されて発生しているから、メンタルヘルス対策は社会的急務なのである。20世紀初頭のアメリカでの、農業労働者から工場労働者の労働力異動期に見られた、産業心理学の開発、禁酒法の社会実験、科学的管理法の発明、そういった時代を思い起こさせる。この時代に翻弄されている社会から浮かび上がったのが、フォード自動車(学説はフォーディズム)であった。小説:「怒り葡萄」にも、その心理描写が満載である。
これを世界的に見れば、戦前戦後を経て、浮かび上がった戦勝国・先進国と、結局は浮かび上がった敗戦国や発展途上国に区分けされたのも、このあたりの社会的急務の解決であったとも言えるるのだ。旧ソ連でも、革命家レーニンが、この科学的管理法を取り入れ、小集団活動と合わせて、「НОТ(ノット)」という生産労務管理システムを作って、農業から工業国にと奇跡の無理矢理:経済転換を図ったのだ。日本では、世界に類をみない寺子屋制度→戦前の学校制度、戦後は科学的管理法の論理に依拠したマニュアルの読解と改良に適した学校制度が、それなりの役割を果たし、官僚主導の計画経済(ソ連を真似た)を繰り広げてきた。が、そういった程度では敗戦国になり、戦後は先進国になれたところを、よく認識しておくべきなのだ。
現在のICT産業革命の真っただ中で、結果的に日本が何処へ向かって行くのかは、はなはだ不安といったところだ。
社会的急務であるから、アカデミック色の強い学習訓練手法に頼っていては解決出来るはずもない。その中身と理由はこのメルマガのインテリジェンス巻末で解説する。


片や、ちっともメンタル疾患が発生しない職場
が存在する。今述べた急増原因に基づけば、発生しない職場の説明も簡単に出来るのである。科学的管理法を大枠で徹底し、その実に良好な人間関係を保つための不合理な行為を織り交ぜている職場では、とりあえずのところ発生しない。たまに、業務上外に原因があるとしか考えられないメンタル疾患が、忘れた頃に発生するにすぎない。共感やルールに基づくチームワークでビジネスをこなしている職場も発生はわずかであり、北欧をはじめ欧米には数多い。各国に文化の差はあるとしても、このメルマガの冒頭で述べた、「一体となった3項目のやる気」が存在している。
メンタル疾患が特に多発しているのはICT業界と思われる。あふれる中堅・中小零細のICT個別企業にあっては、業務管理や人事管理など無為無策、現場は、まるで高校3年生が高校1年生に向かって熱狂的に叫んでいるに過ぎない実態である、納期を目指して「太陽に向かって進め!」と。
大手ICT企業を先頭に、協力会社の傘下に総動員してメンタル対策を進めているようである。ところが、参加者の評判といえば、「明日から、どうすれば良いのだ?」に対する解説は全くなく、単なる知識の披露にすぎないといった批判が大多数である。今時、WEBを見れば、様々な情報は流れ、それを加工してメンタル対策の報告書を製本するぐらい、いとも簡単である。確かに、対策のための勉強会などに参加しておれば、下世話な話ではあるが、裁判所に訴訟が提起されたときの安全配慮義務違反での自殺事件対策にはなり、労働基準監督官への顔を向けも多少はよくなる。


うつ病の原因は長時間労働とする珍説
は完全な論理の的外れと構成間違いであり、全くの噂話や迷信の類である。時間外休日労働の労使協定(36協定)の内容とか、就業規則整備などは、メンタルヘルス対策からすれば、関係がない。うつ病の原因が長時間労働にあるとか、衛生委員会でとかの対策などは、長時間労働を規制するための労働時間短縮政策の監督行政あたりから湧いて出た、単なるおとぎ話である。個人情報保護の重要性ともなれば、うつ状態などの疾患の疑いとなった者が、解雇その他排斥されないための防止策そのものである。労働局あたりから出ただろうと思われる、噂話や迷信に、アマチュアや若者たちが乗ってしまったと思われる。当の厚生労働省から発信される書面では、そんな類の話は言っていない。
厚生労働省はメンタルヘルス指針を出している。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/03/h0331-1.html
ところが、何が言いたくて、何がしたいのか、先月の本省の検討状況をみても、実際の対策にまで落とし込むには、意味不明としか言いようがない。公共職業安定所における自殺対策まで飛び出してきて、社会性トピックスに敏感な社会科学系の、個別企業のアマチュア人事担当者向けの政治的配慮なのかもしれない。だが、昭和50年代ごろからの、こういった労働省官僚たちの、「バランス&世論誘導」手法が、噂や迷信の発生要因になっていると言わざるを得ない。
そういったものの受け皿が、アマチュア人事担当者やアマチュア社会保険労務士である。彼らがWEB検索して、うつ病と長時間労働と安全衛生の文章検索=プリントアウトすれば、「よくぞ、ここまで研究したね」と誰からも褒められる数センチに及ぶ資料の製本ができあがる。この分厚さで勝負、他人を煙に巻く者が幾人も存在する現象が現れる程に、うつ病などを防ぐ実務ノウハウが定着していない現実があるのだ。


メンタル疾患:増加阻止の水際作戦がある!
今述べた急増原因を前提に、筆者が実行している作戦は次の通りだ。人を育てるには莫大な投資が必要であり、実戦配備にはその事業所なりの教育訓練と経費が欠かせないのだから、なおさら、メンタル疾患者の職場復帰は経営にとって必要なのだ。

早期発見方法
人間は生まれてから、軽いうつ病を繰り返し、その都度治っている。だが、要因が重なり重度に再発、医学的に薬物等で治療しなければならない。この一線に踏み入れた時点の発見方法が重要である。
朝4時半に目が覚め再び寝られない:早朝覚醒は顕著な再発現象、意外なことに、この時期は寝付きが良いのである。これを一つのポイントとして、仕事のパフォーマンス激減、周囲を歩き回るといったWEBによくでてくる一般的兆候を観察することである。
中間管理職や監督職が、雑談のうちに早朝覚醒に耳を傾けるだけで、水際作戦は相当成功している。

早期発見の社内体制
業務の工程管理を改善促進する中に、早期発見体制を組み込むことがコツである。そもそも、工程管理がズサンであるとか、工程管理のやりようがないと知識も持たないのに豪語しているとか、こういった管理職?や監督職のもとにメンタル疾患は発生しやすい。
知識ばかりのメンタルヘルスを提唱すると、経営者や管理職は、これを「工程管理:納期との矛盾」と勘違いするのが当然の帰結である。業務・効率・労働意欲の改善と一体になった対策を建議するまでに、メンタルヘルス対策は立案を落とし込まなければならない。「メンタル戦死者」の発生阻止方法こそを、経営者や管理職は、今知りたいのである。(メンタル負傷者が、現に非効率に働いているのだが…)

医師への受診をさせる根拠
メンタル疾患を個人的問題ととらえていると、受診させる根拠は見つけ出せない。事故原因はすべて個人の自己責任といった論調と同じだ。
ちょっと難解な話にはなるが、現在の社会共同体を維持するために、契約の自由が根幹となっている。その中には、私的自治の原則が存在するのだが、経営側には、個別企業の統治権並びに統治義務が存在する。これとともに労働者側には、労働契約に基づく正常な労働を提供する義務があるからこそ、賃金を支払ってもらう権利が存在するといったルールである。そうなると、期待された労働提供義務が履行できない場合は、経営側は履行催告をすることが出来るルールだが、これが受診をさせる根拠なのだ。労働契約がなければ、労働提供義務も受診催告の権利も存在しない。
もう一つの根拠は法律制度としてではあるが、労働契約法第5条に定められた安全配慮義務である。法定法理であるから、契約履行義務である。そもそもの考え方は私的所有権の権利に基づいており、すなわち提供された「労働力のみ」を所有する権利は存在しても、労働力の源である心身までを私的所有していないから、これを破壊・毀損させてはいけないとの注意義務である。言い換えれば、人間の心身まで所有するのではなく、心身から発生する労働力を提供され、この労働を所有する契約であるから、その範囲での私的所有権なのである。家族等の保護責任、公序良俗、信義則、権利の濫用などと比べ格段の違いが実務上も出るのである。
だから、労働提供義務不履行の疑いがあるから、医師の受診を業務命令することが出来、「受診しない場合は解雇になるかもしれない」との最後通牒も可能となるのだ。ただし受診は、会社の産業医とか精神科でなければならないといった医師の指定だと違法性があり、医療機関は本人に選ばせる必要がある。社員数名が付き添って受診に行くことに問題はない。数年前からメンタル疾患を内科でも受け付けており、心療内科と言われていても内科の一分野であるから、受診先はいくらでもある。

2週間の通院治療
多くの医師によると、こういった早期発見の段階であれば、仕事を離脱する必要もなく、早ければ2週間で医学的治療が一段落するとのことだ。ところがうつ病の場合は、本人が受診を拒絶することもあって、相当の段階を経てしまうことがある。ところで、「新型うつ」の場合は、ことさら自らがうつ症状であると主張するケースが目立ち、既に医師の受診を受けているといった特徴がある。
筆者が多種多様年中扱っているケースからすると、
うつ病・うつ状態により「診断書が1ヵ月」の自宅療養の場合、職場復帰プログラムを厳格に完備できたならば、半年程度で元来の労働生産性は回復可能だ。
「診断書が3ヵ月」ともなれば、残念ながら筆者の見てきたすべてが、ほぼ人生は台無し状態である。
「診断書2ヵ月」の場合は、やってみなければ分からない。3ヵ月に延長となると、それでおしまいである。微妙な2ヵ月からの復帰には、外部の専門家を張り付け、その厳格な指示のもとで職場復帰の成功を祈るしかない。その場合の職場復帰プログラムも特殊となり、1日3分間出勤、通用口のタイムカードを押すだけで帰宅させる程の行為から始めるのである。
親として、配偶者として何ら打つ手はないことから、家族は生き地獄の生活と不毛な争いに突入しやすい、もしかすれば突入するのが当たり前なのかもしれない。このきわめて微妙な時期に、労働紛争とか人権侵害事件に進展する要因となる、「怨念」が形成されるから注意が必要だ。
うつ病発生の一報を聞けば、親御さんに連絡をする…といった対策は30年前の学説、定年前の労働者の親御さんの年齢を考えるまでもない。障害年金、生活保護、労災保障、傷病手当金などのセーフティーネットに、経営管理の一環としてメンタル疾患者の保護を載せる必要がある。


経営管理の視点からのメンタルヘルス対策とはどれか?
豊かな日本の社会や経済を再生するには、「高付加価値製品&高水準サービス」を商品として、世界中に直接提供することでしかなし得ないことは、現代社会の共通認識だ。個別企業の再生も個人生活確保も、このポイントから外れれば、きわめてマニアックな道である。だが、共通認識があっても、的を絞って経営管理とか業務運営が進行しているわけではない。
ことに、労働者一人当たりが生み出す価値の質量が増加しつつあるものだから、これに対する労働者の育成投資も増加、そこに労働者の責任負担の気遣いが重圧となっている、さらには、空回りしていたとしても精神的気遣いで乗り越えようとしていることは確かである。
ところが、この責任負担の気遣いを軽減するためのシステムが、業務運営や作業に組み込まれていないから、きわめてストレスが掛かることになっているのだ。うつ病などになりやすい人物の性格が取り沙汰されているが、要するにこういった経営管理の不具合なのだ。またストレス解消法を個人習得したところで、それにも増して「気遣いの重圧」が、輪をかけて増えて来るのが現場の現実である。ストレス解消の極論は無責任、こうなれば、うつ病に陥る心配はないが、労働契約の意味もなくなる。悟りを開いて、「出家」でもされようものなら、個別企業としては、泣いて良いのか自慢して良いのか?……優秀さがゆえに変わった宗教?に走るケースも後を絶たない。


抜本的経営対策の結論は
気遣いを軽減するためのシステムとは、
工程管理であり、業務運営基準であり、合理性がある職場秩序であり、無駄な作業の排除といった諸施策である。業務推進が二の次となっている事が目白押しなのだ。コントロールの原則から外れて、空回りを起こすに留まらず、採算割れでもまだ走っている現実もある。
人間性回復だとか人間疎外論を持ち出す以前の無駄作業に無駄会合、成り行き作業、これらを中止して、「業務改善」を図ることから始めれば良いのだ。こういった諸施策のためにコンピューターをはじめとするICT機器を活用することが大切なのだ。ある学説だと、PCといえども十数年前のスーパーコンピューターの能力を超えている、にも関わらず、ソフトを含めた設備投資効果が最悪だと断言しているのだ(サービス産業生産性協議会会報)。個別企業の会議でも、間接部門であれば、「自由出席制度」を導入して、後で希望者に議事録をメール配信しておけば成り立つケースである。
なによりも、個別企業の経営管理にあたっては、
その企業、その事業所の目的や業務運営を円滑に進める上で、その事業所に応じたメンタルヘルス疾患を如何に食い止めて、労働力の毀損や損失を防いで、労働生産性を高めることなのである。極論すれば、軽度のメンタルヘルス疾患者の割合が多ければ、世の中には繁盛する事業もあるかもしれないのだ。A社でうつ病になったとしても、B社ではちょうどよく働いていることになのだ。要するに、その事業所の目的や業務運営によって線引きされた、メンタルヘルス対策が重要なのである。
メンタルヘルス水際作戦を成功させるコツは、
ひとえに、水際作戦の実務アプローチを、社内職場で納得させる中身の解説が出来ることである。出来なければ、上滑りを起こし理解されない。ちょっと知恵を使って、社内行事のセレモニーとして、外部の専門家を導入し個別企業内の認識を変えるといった手法も活用すべきである。旧来の人間関係だけで意識改革をしようとしても、社長の決断をもってしても不可能なのである。そのうち日が暮れてしまうのだ。
水際作戦のその後に
初めて、経営管理の視点からすれば、「収益・生産・効率・労働意欲の業務改善」を目的とした予防対策の計画実行の着手が可能となる。水際作戦も無しに予防対策などとは、アマチュアの空理空論もはなはだしいのである。


アカデミックのメンタルヘルス議論
は、経営管理の必要性若しくは視点からすれば、まるで的ハズレの対策、無為無策である。それどころか、水際作戦でメンタル疾患発生の防止から目をそらしてしまい、目前の「戦死者・負傷者」の続発、現場の第一線への復帰に時間的ロスを与えることにもなる。アカデミックの世界とは、時間との勝負のない世界のことである。個別企業の経営管理は、アカデミックとは次元が違うのである。アカデミックなストーリーを題材に精神医学系群、産業心理学系群、営利目的群といった縄張り争いを繰り広げているのが現状と言ってもさしつかえがない。巷の紙誌には、縄張りが重複する図面が描かれ、この重複こそに個別企業の責任を負わせるとの学説がはびこっているが、実態は縄張り争いが発生しないよう重複箇所には相互不可侵が行われ、無為無策の空白地帯が生まれているのだ(アカデミックの限界だ)。アカデミックな話を聞いても、益々、明日から何も出来ないことになって当然である。
精神医学系群は、
医科大学を先頭に百花繚乱の学説が繰り広げられているが、「ゆりかごから墓場まで」を対象にアプローチすることが前提で、その事業所の目的や運営と程遠く、合理性がある職場秩序の形成までを、治療の目的としているわけではない。増加傾向にある大手企業かつ若年層を中心とした「新型うつ」などには、職場秩序の混乱がもたらす要因は否めないのだが、精神科医や産業医では理解が出来ないようで、アカデミックの未熟かつ限界なのだ。
産業心理学系は、
産業心理カウンセラーと称しての活躍が期待されているが、所詮はカウンセリングといったメンタル疾患者や疑念者の事後処理であって、予防や集団的対策に至っていない実状である。せいぜいが、産業医や衛生管理者の選任、職場巡回?とか衛生委員会、挙げ句にはメンタルヘルス・マネジメント検定といった、成功している水際作戦と比較すれば、暗中模索の夢物語といった実状だ。巷の占師よりも、社会の施策としてカウンセラーの配置に意味がある。
営利目的ともなれば、
講演会の後に終身所得保障団体保険(うつ病で廃人に…?)の販促があるとか、「メンタル診断アンケート」などと大げさな品物を売りつけるとか、時流の「メンタルヘルス」と称して客寄せを図るとか、金銭が介在しなければ存在し得ない代物である。
どれもこれも個別企業の切望する水際作戦及び、予防対策を含めた業務・効率・労働意欲の改善にはつながっていないのが共通点だ。メンタル疾患の増加で潤う悪徳商売とまでは言わないが…。
アカデミックに乗せられてしまったのか、単に新知識を得て舞い上がったのか、理由はどうであれ経営管理や経営労務を進める上で、疑問視をされる手法も有る。あの対策から、この対策へと次々に新しい対策に目移りして、「対策の貧困」そのものである。それは、コミュニケーションスキル、メンタルスキルケア、ワークライフバランス、コーチングと言われるようなものだ。WEBを検索すれば、掲載されているものだけでも読みきるまでに数週間もかかるほど種類は豊富である。さすがにうつ病対策との案内はないが、ゴルフスクールのメンタル強化まで登場してきた。
ところが例えば、本来の「うつ病」ならば、こういった学習訓練の手法を集団で行った場合、強靭な者はより強靭に成長するが、強靭でなかった人物が対等な強靭精神を身に付けることなど考えられない。また、こういった手法によって、うつ病発生の病原と言われる中間管理職の動きを抑え込んでしまえば、目先の売り上げとか実績の低下に陥ることは確実である。どう考えても、業績向上の現実路線を可能とする根拠にもならない。あくまで、こういった学習訓練は、自由個人の単位で行われるから、手法の効果に期待出来る意味があるのだ。
加えて、「新型うつ病」に、これらの学習訓練手法は逆効果とさえ言われており、前号のメルマガで述べたように、WEBなどで流れている労働者レジスタンス(当メルマガ101号)のネタを人事部自ら提供するようなものだ。これでは益々、職場での不毛な刹那的な秩序混乱を醸成することになる。……「新型うつ病」の多発流行地域は、ほぼ大手企業に限られている。
これらの学習訓練手法は、豊かな学識経験を根拠に伴って紹介されるものだから、素人は一瞬立ち止まって耳を傾けるのだが、元来うつ状態発生後の代物なのだ。新型うつは、米国の診断基準(DMS-Ⅳ-TR)を用いることで、初期うつ状態の早期概念を比較的広く捕えることが出来る発見診療手法の功罪のうち、罪の部分だと指摘する主張も強い。とにかく、深刻度の高いメンタル疾患事例は、そのほとんどの相談が外部機関に寄せられ、社内にカウンセリングコーナーを設けても閑散としているのが現状のようだ。
こういった対策の現状は、人事労務の真の専門家からすれば、単純に納得の行く話なのである。


アカデミック色の強い学習訓練手法だが
どうしてもやりたいのであれば、国家の義務教育として、抜本からこういった学習訓練手法を、小学校1年生から導入して意思疎通能力の向上を図る道を選ぶべきだ。フィンランド:メソッドの事例は、当時35歳の文部大臣が、研究し尽くされた教育手法を突然導入したから、林業と造船業でしかやっていけなかった貧窮国を、携帯電話のノキア社をはじめよみがえらせたのだ。この事例は、スウェーデンに、デンマークに、現在はノルウェーに拡大し、500万人から1000万人の国がよみがえりつつあるのだ。
日本の一般社会人向けには、今更成年に達してからの全人格的な意思疎通能力の向上は困難を極めるから、営業販売、研究開発、スーパーバイザー、間接部門などの職種ごとに、意思疎通メソッド訓練であるとか、素質養成のケースメソッドを行ってみることが1丁目1番地だ。ライバル同士を一同に会してとか、マニュアルの型どおり実施すると効果は激減する。だから、外部機関・公的機関における社外労働者混在の学習訓練から進めるべきだ。これを、現場非正規労働者を対象に考えられた実施例を紹介すると、次の通りだ。
http://osakafu-hataraku.org/contents/training/communication.html
http://osakafu-hataraku.org/contents/training/talk.html

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