2004/03/09

第23号

 4月から労働基準監督署に「(仮)就業規則等点検指導員」を配置す
 る。1月施行の改正労働基準法の解雇規定部分の指導に乗り出すこと
 になった。全国の主要労働基準監督署に配置し就業規則などの記載内
 容を精査、違反是正などの「点検・指導・助言」を行うようだ。就業
 規則変更を促進させるなどするのだろう。地域の社会保険労務士、行
 政OB、学識経験者などに委嘱するとのこと。ところで賃金不払とか
 不当解雇などの労働基準監督署への申告は今年になってからも急増し
 ている。厚労省としては労働基準法の空文化傾向は絶対に許さない方
 向のようだ。
 ところで経済構造との絡みで分析すると、国内で唯一、名古屋地方は
 経済が成長しているといわれているが、サービス残業不払の摘発は名
 古屋がとても多い。人数で最大記録の中部電力や最近は売上好調の百
 貨店の松坂屋でも発覚した。名古屋の労働基準監督署が特別ハッスル
 したわけでもないしそんな力もない。名古屋の経済成長に薄っぺらさ
 があると見てよい。

 厚生労働省のサービス残業の取り締まり方は、前回のメルマガでのと
 おり。また、サービス残業で監督官が指摘する内容は労働基準法の次
 の条文を用いる。厚生労働省の発表の文言を借りると、
 「24条は、賃金の支払いについて全額を払わないなどのケース」
 「37条は、時間外休日に深夜の割増賃金を払わないケース」
 「110条は、報告の義務。虚偽報告の疑い」
 「109条は、記録の保存」となる。

 では、現場の個々の労働基準監督官はどのように認識しているのか?
 ほとんど多くの監督官は、次の4つのポイント+オマケでもって、サ
 ービス残業発生のからくりが存在しているのではないかと考えている。
 1.始業時刻や終業時刻の記録がはっきりしていない。記録しなくて
   も罰則はない。通達(平成13年4月6日基発339)が出されていて
   も行き渡っていない。
 2.法律制定の当初からの問題でもあるが、管理職の範囲を定める規
   定が曖昧である。裁量労働者の範囲についても曖昧である。擬似
   管理職等と言って免れようとする。
 3.定額制の時間外手当が支払われている。「計算作業に煩雑さが在
   る」と言って実態を隠そうとしている。定額の根拠となる一定時
   間を超えたかどうかが曖昧である。
 4.自己申告制とっていても「申告しづらい仕組」。自己申告と実際
   の労働時間の記録とは別物。業務体制、業務の指示、その他人事
   管理全般に問題が波及しているがサービス残業の違反理由になら
   ない。
 +オマケ (主要な問題としてないが事実上の注意の勧告)社会保険
   労務士が36協定を数十枚から数百枚一度に提出して、その中身が
   コピーされたような同一内容のものが存在し、法律の主旨に反し
   ている。
 これらは、厚生労働省本省関係の考え方とは異なっているが、全国最
 前線の監督官ほぼ全員にフィードバックされ、直接臨検をする監督官
 は相当影響を受けている。
 労働基準監督官で組織する労働組合(全労働)は、「行政の手続きを
 正確にすることで国民の信頼を得る」との方針を取り、サービス残業
 の監督行政では労使一丸となっている。

 年金制度の大改革がなされたとでも言うのなら、旧厚生官僚の作戦が
 外れて、「赤字補てん目的のパートタイマー保険料が5年先送り」が
 第1で、第2は「国庫負担が、3分の1から2分の1になる見通し」
 の2つである。最近は旧厚生官僚の気持ちを代弁して「景気が良けれ
 ば年金は黒字なっているはずだ」などとうそぶいている者までいる。
 労働生産性が上がらないというのは確かに「持たない」のだが、それ
 は年金ではなくて日本経済の話である。国庫の年間収入は、法人税収
 入が9兆円、所得税収入が19兆円、そこへ「いったん入ったお金は私
 のもの」とのわらをもつかむ錯覚もあって厚生年金保険料収入は44兆
 円は資金ぐりに使いたくて仕方ない資金とでも言いたいのだろう。
 ところが根本は昭和36年の無謀な国民階年金の仕組みが問題なのだ。
 その点の追求が少ないことから、社会保険事務所は社会保険の適用を
 (強制適用であるにもかかわらず)加入を外しているポイントが浮き
 彫りにされていない。35歳未満のフリーターは417万人といわれるが、
 このポイントに社会保険は手つかずである。そのうち百万人ほどは業
 務請負会社に勤めているとのことだが社会保険事務所はここにも手を
 つけることはない。又、いよいよ国民年金だけでなく厚生年金も加入
 者が減少している統計数字がはっきりと現れて来た。社会保険事務所
 は、「こうすればもうかる社会保険の営業」(昨年9月のメルマガの
 記事)のようなことを続けているので、すべての与野党が何を言って
 も実態は反映していない。
 事業維持には保険料未納をしてでも社会保険には加入し続けることが
 必要で、そうしてでも事業経営の石垣である人材を大切にしなければ、
 個人も会社も日本も経済も発展はあり得ない。この経済学、財政学、
 経営学でも立証済みの、基本原則を思い起こそう。

 実質経済成長率7%の記事は波紋を呼んだ。実感のない問題とは別に、
 デフレなので、実質成長率は何もしなくても上がる時代である。昔は
 名目成長率ばかりで実質成長率のことは話題にされなかった。でも見
 る人は見ていた。名目成長率(水増しか?)2.6%とすれば、4.4%は
 何もしなくても伸びた分である。これやあれやの話題でマスコミ情報
 があてにならないとの議論が盛んになってきた。テレビも新聞も本当
 のことを言わないとかの事である。昔と違って、政府の官僚たちもマ
 スコミを使っての世論操作に躍起になっている。「生意気なこと書く
 とニュースを流さないぞ」とマスコミ記者は官僚に言われっぱなしだ。
 三文小説ならぬ「三文記事」を書いて読者を増やせと言っているよう
 なマスコミ三文編集者と言われても仕方がなさそうだ。日本経済新聞
 をはじめ新聞記者は文学部出身が圧倒的に多いから、ツブシも効いて
 三文記者への転職も瞬時に出来るのかもしれない。年度末恒例の3月
 株価操作、中国経済仕掛バブル、ヤフーBB詐欺的商法のDATA流
 出、年金まやかし討論など、経営管理においても「(@_@。ハマりそう」
 な話ばかりである。今の時代は、成長企業を目指そうとすれば、物事
 の本質をつかむキッカケとなる情報と理解判断する弾力的思考方法が
 モノをいう。

 紛争調整委員会の制度が充実してから労働紛争のあっせん制度は件数
 もうなぎのぼり。それとは別の「労働審判制度」が国会に提出された。
 地方裁判所の裁判官である労働審判官1人と労使双方の2人の労働審
 判員の計3人で組織する労働審判委員会で行う。調停でも審判でも
 「和解」の扱いとのこと。今の裁判所は「攻撃と防御」のゲーム世界
 であり、審理は3回以内で、としていることから、今まで「労働紛争
 は複雑なので和解のチャンスが来るまで時間を稼ぐ」との裁判官姿勢
 のうち早期和解可能分だけ「入り口でさばく」様になるだけだ。同じ
 司法改革でも大きな質の差だ。時間的に早くなるので失業手当受給中
 決着の可能性から労働者の利用は多いかも。失業状態の弁護士が多い
 から労働者向けの営業開拓は増えるかも。経済団体は裁判所での解決
 を望んだのだが希望どおりではなさそうだ。対決型紛争処理とすれば
 「ひとつの選択肢」かもしれない程度で各界の本質的意見は入らなか
 ったようだ。国会でどうなるでしょうか?
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/houan/16index.html