2007/09/04

第65号

内部告発は、ここにきて活発になりそうな様相である。
そもそもの内部告発は、裏切り者や労使紛争の謀略手段とは趣を異にする。だからこそ、公益通報者保護法も、経済活動における重要意味をもつものとして、406本の法律を対象とする通報の擁護を定めて、平成18年4月から施行されたのである。アメリカ語で、Whistle‐blowing といわれるが、これは「口笛を吹くことで危険を知らせるもの」ということなのである。イギリス語では、Public interest disclosure となる。とはいっても、通報するとなれば法令詳細などはどこ吹く風で、通報が実行されるのである。
こういった意味では、内部告発は、マスコミに取り上げられた食肉のミートホープ、北海道土産の白い恋人などの、企業にとどまるものではない。日本社会では、経済活動にとどまらず、今回の参議院選挙において、政権与党内部から、次々と大臣クラスの金銭問題がリーク(leak)されたと言われているが、これが「党内支持率10%強の総裁」と皮肉られる状況が的を射ているならば、こういったリークも、いわゆる内部告発と言えることになるのだ。

ある学者に言わせると、内部告発を次のように整理している。
(1)組織の了解を得ないで
(2)組織ぐるみ、組織の一部、あるいはトップによる
(3)違法行為を中心とした不正行為について
(4)社員等の内部関係者が
(5)公共の利益の擁護のために
(6)情報提供や資料提供によって
(7)行政機関やマスコミ等の部外者への、不正の暴露
としている。今現在では、行政機関などに持ち込まれないだけ、「幸運?ラッキー?」であったとされるのである。
確かに、数年前内部告発が話題になった際には、何人かの大学教授が、「内部告発者は裏切り者だ!」との著作を出版した。変に社会遊離した勇気があったのか、学問よりも観念が優先したのか、学者生命が消えてしまったらしい。今どき専門家が、余りに無知無能な学説を発表すれば、アホ・馬鹿・間抜けと論評されても、名誉棄損の判決は出ない。

このグローバル経済社会では、世界同時に様々な物事が共通した課題として発生している。昔は、資本主義・自由主義といえば、イギリスやアメリカがリードして、その後にフランスやドイツが後を追って行くといったパターンが存在もした。経済成長などおぼつかないと思われていた発展途上国において、資本主義を無理矢理動員した場合には、その反発で社会主義政権が登場し社会主義経済が採用されたのであった。また、その当時先進資本主義国になることを阻まれていた、例えば日本が戦争期に社会主義計画経済:経済〇ヵ年計画を戦前戦後に採用したのは有名な話(日本経済は社会主義国といわれる由縁)であり、もうひとつ例を挙げればドイツではヒットラーをはじめとするナチス=日本名:国民社会主義ドイツ労働者党が失業対策や戦時経済を行ったのである。戦後、これらの世界の経済秩序が国連から始まってWTOなどへと整備されていたのである。

こういった世界の経済秩序に、ピッタリ当てハマったのが、いわゆる「ピラミッド型組織」なのであった。「ピラミッド型組織」が経済活動や軍事活動の主な手法として導入されたことによって、戦後の経済秩序を形成することができたのかも知れない。特異な例かもしれないが、中国やインドでは、実のところ、このピラミッド型組織が形成し切れない途上の段階なのである。名称や図面ではそうであっても、実態は別のところにある。そして今や、このピラミッド型組織による経済活動の弊害や悪用が蔓延するに至ったのである。その原因はインターネットなどのIT技術発展と社会共同体のあり方(倫理や社会思想)の変化によるものと考えられている。すなわち、ピラミッド型組織を維持するための利益追求に異議が唱えられ、社会共同体にあっては弊害や悪用を蔓延させる世間体は排除されるのである。異議を唱え排除を行うのは、今や経営者であり人生を明日に託す人たちなのである。もっと簡単いえば、後進国並みの食肉偽造販売とか、金融機関が迫る在庫調整の賞味期間変更は、日本経済が、「高付加価値製品や高水準サービス商品の提供」の道を進む上では、「足を引っ張るもの」といった発想となるのである。折しも、韓国・中国・台湾などの製品と熾烈なツバ競り合いを繰り返す日本の個別企業としては、きわめて切迫した経済問題となるのである。究極には、経済活動において、「公正な事業間競争を維持するための役割を果たす!」といった社会通念に至るのは時間の問題なのである、実にアメリカがそうであるように。

3年後の銀行貸付金利上昇(年5%メド)もあり、日本経済の生きる道である、「高付加価値製品または高水準サービス」の商品提供を考えたときに、業務改革を進める個別企業にとって内部告発は、災い転じて福となすところの、Whistle‐blowing(口笛で危険を知らせる)そのものなのである。



ホームレス?ネットカフェ難民?の労働力としての事情
経済回復基調?デフレ続行といわれる中、失業率も低下してきているとの発表がなされている。ところが、この失業率の評価をめぐっては、従来の概念では計り知れないものがある。パートや非正規社員への就労も含まれているため、昔ながらの就業率アップ=生活の安定といったイメージとはかけ離れているのだ。その中でも、極めつけは、ホームレスなどといわれる人たちをめぐる状況は、ほとんど把握されていないのが実状で、マスコミの報道もほとんどない。
ホームレスといえば、野宿生活者のイメージが出てきそうなのであるが、まだ気づかれてない実態がある。ネットカフェ難民は姿からは判断出来ない。Yシャツにネクタイの背広姿も数多く存在する。深夜のアーケード街で横たわっている都市部でのホームレスは有名ではあるが、実は衛星都市や地方都市にも存在し、無理矢理これを住民も行政も認めようとしないといった姿もうかがえる。加えて、もとは自宅であった競売物件での生活者も含め、もうすぐホームレスとなる人々は相当存在しそうだ。大阪の釜ヶ崎といわれる一帯(行政用語ではあいりん(愛隣)地域という)の中心部には、アパートや一晩1000円の宿住いの人たちがたむろしており、野宿生活者は意外と釜ヶ崎の周囲の場所に居るといったことも、現地に行ってみないとわからない。昼間から夕方は強気な様相の人たちや、ヤクザでも目つきの飛んでいる者がたむろしているから、深夜の野宿生活者の実態には気がつきにくい。確かに、深夜と雨の日は釜ヶ崎に近づくと危険極まりないのは事実である。が、それ以外の日にネクタイを締めて行っても危険を伴うものではない。にもかかわらず、ここを訪れるマスコミ関係者は少ないのである。ここでは敢えて、ホームレスあるいはホームレスになりかけている人たちをまとめて、求職状況をレポートする。

まず、一昔前であれば、ホームレスになるのは特徴的な個性の持ち主といった見方が強かったが、今日では、誰もがふとした失敗からホームレスに転落しているといった変化である。ホームレスの自立支援対策に携わる人たちへのインタビューからすると、借金や借りっ放しなどの芸当が出来ない生真面目な人が多いとか、極めて内気で自分を責めるタイプが多いといった話が出て来る。

最大のネックは、就職にあたっての身元保証人のようだ。形式的に書面提出を求める企業が多いのであるが、これがかなりの心理的圧力となって、就職をあきらめる原因となっている。フトしたことから切羽詰まった状況に陥ったことにより、身元保証人を頼める知人がなくなるとか、恥ずかしくて頼めない心理になっているのだ。もとより、個別企業からすれば、事故が起きても身元保証を拒否するケースがほとんどの紙きれだけの身元保証人が実態であるのだが、なぜか形式にとらわれて求人の障害になっていることが気づかれていない。今の日本社会において、「ほんとうに身元保証をするのは、暴力団だけだ」と断言する人もいるが、それが本当だろう。実際には、社員寮に入居させて、人事部門が生活のケアをして、様子に注意している方法こそ、実効のある身元保証対策と言えるのだ。

警備員の職業(警備員は懲役・禁錮刑の執行から5年を経過している身分証明と本籍の記録が必要)を除けば、誰も本籍をいう必要はない。もちろん住民票は会社が用意する社宅や寮の所在地で取得可能である。住民票の有無は、生活保護申請にとっては極めて重要ではあるが、就職して自立するだけなら、ほとんどどうでも良いと言える。本名だろうが、ペンネームだろうが、労働力の提供だけであれば名前なんかどうでも良い。

生活基盤のベースに欠かせないのが健康保険である。住民票がなくても政管健保などの保険に入れる。→保険証のカードがあれば預金口座が持てる。→預金口座があれば、少しずつでも貯金をすることがたやすくなる。→そうすると、自らの努力で自立の道が歩めるといった具合だ。

ビッグイシューという雑誌を路上で販売しているAさんにインタビューすると、1日仕事であるならば日雇いの建設現場の方が1万5千円から2万円になると話す。それでは安定した生活はどうなるの?と質すと将来不安があるという。健康保険や雇用保険の話をすると非常な関心がある。だが、今日明日の金が必要なことから、金額の高い日雇いに目がいってしまうらしい。別のBさんに聞けば、日雇いでは雨の日が休みとなるから、収入があったり無かったりで不安も多いらしい。インタビューを続けていると、どうも不安定な職種ばかりの求人が来ているので、そういった日雇い仕事などを前提に、何事もあきらめざるを得ない就職イメージとなっているようだ。

女性のホームレスを収容する施設は比較的多数存在することから、ホームレスで女性が少ないのはそのためだと、事情通は語っている。夫婦で、ホームレスになる人も急増して、今や珍しいものではなくなった。

大阪の釜ヶ崎では精神疾患や傷病疾患による救護施設は、法的な支援もあるので、比較的整っているようだ。道で倒れている患者をすぐさま入院させるといった外来診療受付の無い民間医療機関も存在する。住民票は病院内で生活保護申請をして医療費に充てるのだ。ホームレス生活で体力を失い、いっそのこと病気で収容されたいと願う考えまでが、当たり前となっているかもしれないのだ。

釜ヶ崎周辺では、キリスト教と称するグループがそれぞれの思惑をもっての、施設や活動が乱立しており、どこかのキリスト教の「集会」に出席などして「主イエス・キリストを信じます。アーメン」と言いさえすれば1日1食を食べることは確実に出来る。その弁当や炊き出しを拒絶さえしなければ、餓死することはない。したがって、生きようとする人が最後のよりどころとして、一度はより集まって来ることにもなっている。

ホームレスの人たちは内気であるから、個別企業の人事労務管理の不手際による職場の人間関係や摩擦によって、離職を繰り返して来た人も多い。ホームレス対策に関わる大手企業はほとんどない。その多くが中小零細企業であり、行政機関入札受注条件としてホームレスの不本意な受け入れを強制されている場合も多いので、職場の人間関係を円滑に保つ人事労務管理の方法を知らず、就職者の定着にまでいたっていない実態がほとんどなのだ。労働力の定着のために、偽装請負業者や労務供給業者に労働力を頼る個別企業が存在することからすれば、一考してみる価値は大いにあるのだ。

ホームレスの自立支援対策に携わる人たちの間でも、実際にホームレスになる前と、なってから1ヵ月以内の対策に効果があるとのことである。野宿生活などをした人は、ひと冬越すと意識が変わるという。2年〜3年にわたってホームレスを続ける順応性の持ち主は、川辺や公園のブルーテント生活にも順応しているという。公園の水、自家発電の電気、卓上コンロが整えられ、エアコン完備のテントまである。したがって、労働力として有効なのは、事前か初期の手当てのチャンスを逃すと、難しいということである。ホームレスになりきってしまったのであれば、本人の意思によって通常の就職への障害が極めて強いのである。

いよいよ次の研究課題は、実際の求人開拓、募集、面接、求職誘引、雇用契約、就労相談、生活ケア相談その他の付帯する業務にまつわる受け皿と運営ノウハウとなる。これからの労働集約型産業は、こういったノウハウの蓄積によって、個別企業の成長と崩壊の見通しが立つことになるであろうことは間違いない。