2006/04/03

第48号

公益通報者保護法、労働審判法、新会社法、総合法律支援法(司法支援センター)など、社会の仕組みを変える制度が相次いで実施される。


ウィニーをはじめ情報漏洩事件において、その他の情報漏洩事件の対策に直接かかわっている経験からすると、ここには、いくつかの致命的共通点が見られる。
・情報をCDなどに取り込み事業場から手で持ち出していること。
・手で持ち出すことに対して、それを感知・防止する出入り口設備などがないこと。
・機密情報であること自体を理解していないので、気軽に持ち出すこと。
・個人情報の、開示可能先と漏洩開示禁止先の区分が周知されていないため、善意で開示。
・パソコン熟練者の、ウィニーなどを使いこなせると過信している重大な過失事故であること。
である。
パソコンを使えない者は情報漏洩に手を染めていないのは確かである。問題はパソコンの熟練者に対して、パソコンの技能・熟練より以前の、ごく初歩的基本的情報取扱の教育訓練がされていないところにある。一部のパソコン熟練者は「情報取扱訓練を免除されている」と錯覚している者さえいた。パソコンの使えない者も熟練者も次のような初歩
的基本的教育訓練が必要である。
1.いわゆる業務を遂行する過程で知り得る一切の情報につき、機密資料としての区分、機密資料名の具体的列記及び機密資料の守秘期 間などの機密若しくは秘密である旨を明示するなどして漏洩又は不当開示をしてはならない物を示し教育訓練すること。
2.いわゆる個人情報につき、これを取り扱う者に対して漏洩又は不当開示をしないための措置を、具体的に示し教育訓練すること。
3.法律上、個人情報を開示しても良い相手とその方法を明確にするなどの措置を示し教育訓練すること。
4.機密情報若しくは個人情報が漏洩又は不当開示がなされないように、これらの情報を取り扱う者(この場合、派遣労働者や外注業者の従事者も含む)に対して、就業規則整備、誓約書提出、その他契約などの方法で、担保措置をとり、その具体的内容を教育訓練すること。
5.施設、設備、機器並びにネットワーク環境等についての漏洩又は不当開示防止の措置を示し、それらの具体的な取扱を教育訓練すること。
以上のことの教育訓練後に、ここで初めて、誓約書など(例:無料ダウンロードHP)を提出させることが効果を生む。また、単に短い文章の「情報は漏らしません」とする程度の誓約書では、何れが機密情報や個人情報であることを、「知らなければ漏らしても構わない」ことを意味するものとなるのである。
得てしてパソコン熟練者ほど、内容を読まずに署名をしている。とりわけ、弁護士や経営コンサルタントの作成した規定には、漏洩や開示に関わる施設、設備、機器並びにネットワーク環境等について定められているものはほとんどなく、この部分を事故原因とする漏洩が大半を占めているのである。


近ごろ、製造現場などでは、業務請負や人材派遣が、品質悪化等を顕在化させているとして見直しが迫られている。made in Japan を支える技術の伝承とか安全性確保がなされなくなっている現場の実情を踏まえると安定した正社員の雇用を増やすことに傾きつつある。政府も2004年11月10日の参議院の「経済・産業・雇用に関する調査会」で経済産業省経済産業政策局長が、「コストだけで派遣を増やしたというのは、…強い製造業を作るという意味ではマイナスだ…強い競争力を持つためには終身雇用に戻した方がいい」と答弁していて、今もその考えに変わりは無い。業務請負よりも定年延長が、出荷製品には有効なのだ。(ただし、新卒正社員採用増加の動きとは別物)。
1986年に、初めて業務請負という形態が開発されたが、品質と地域密着の労働力需給に基盤をおいていたところに急成長の理由があった。それが一転して1997年ごろ(橋本内閣の時代の政策で終身雇用に終止符を打つための政策材料に派遣業界が話のダシにされた)から業務請負会社はコストと人工(にんく)の頭数に終始(=人材派遣と変わらない低品質)ばかりを追求したがために、「安かろう悪かろう」との社会評価を受けてしまったのだ。その結果の矛盾とホコロビだらけの業務請負と派遣業界は、果たして社会のニーズにこたえられるだろうか?


個別的労使紛争をどう解決するかの潮流は変わってきている。昔のように労働組合が関与する傾向(企業別組合方式と中間管理職の活躍)はますます低下傾向にある。
アメリカやイギリスでは、個別的労使紛争に対する制度的充実がADR方式で図られているが、このほど日本のADRの主力をなす紛争調整委員会のあっせん代理人の「研修(その後の国家試験=特定社会保険労務士)」に本年度分約9300人の応募があった。あっせん代理人の能力水準や試験合格率はともかくとして人口比率での研修応募者の人数は多い。人口は、アメリカ:2億8000万人、イギリス:6000万人だが、あっせん専門の代理人制度は両国ともに無い。これは、世界に先駆けての人事労務最先進国の日本における大実験である。一挙に数千人の代理人が出現し制度が充実することとなる。来年度以降は個別企業の人事・総務担当者に広がることが予想される。司法の場では労働審判も始まっている。
最近アメリカでは、人事労務に関するMBA取得者が急増しているようだ。個別的労使紛争激増に対して需要が急増しているのだ。じつは、ペンシルバニア大学、ダートマス・カレッジ、ミシガン大学が、アメリカMBAのトップ3とのこと(ハーバード、MIT、スタンフォードは研究重視型)だが、研究科によると、ペンシルバニアとミシガンで人事労務MBAが置かれているとのこと。就労先は大手企業、公務員、労働組合にわたり、女性の比率が多いとのこと。カリキュラムの内容、労使関係(labor relations or collective bargaining)や人事労務(human resource management or personnel)の重要性は、彼らなりに日本のものを学んだことは間違いないとのことである。
日本においても、昨年あたりから個人加盟の労働組合(コミュニティーユニオン)が、個別労使紛争を取り扱う発想が出て来た。それまでは、「組合員を増やす目的に沿って個別労使紛争のトラブルを扱う」としていたのだが、一転、「組合員増加よりも個々の要求実現が重要」との着想が発生し、 それまでの企業内組合一辺倒とか、 それまでの「企業内組合を階級的組合に変える方針」に対する理論的な徹底批判がされてきているのである。ここまでなら昔からあった話だが、47都道府県に組織があり政党までが絡んでいるから、注目に値するのだ。折しも、この4月1日から内部告発者保護法が施行されているが、この法律のきっかけとなった勢力と個別労使紛争への進出勢力は重なっていることを忘れてはならない。加えてこの動きは、先進国での潮流でもあるのだ。