2010/11/09

第103号

<コンテンツ>
今この、内需経済の落ち込みは
日本の戦前戦後にわたる労働経済の研究で
「競争力の強い企業が
 若年労働者を集めて、
 新技術・新市場で
 発展するのが経済成長である」

そこで、有能な若年労働者を集めるには
 ★色々な求人手段の特徴
 ★求人の募集文面も工夫が必要だ。
 ★面接で人物を見抜くノウハウとは、
 ★女性労働力が狙い目だ!
 ★女性労働者が扶養家族の状態で
 ★実は、いわゆる賃金理論において、
留意点、中小企業の経営者の心とは

【映画評論】「武士の家計簿」


今この、内需経済の落ち込みは
激しさを増している。それは、円高による不況ではなく、いわゆるリーマンショク以来の、落ち込んだ内需部門の回復が遅れていることに原因があるようだ。円安になれば景気回復するかのように思わせるニュースが毎日流されているが、実態はそうではない。2008年6月、世界の主な金融機関が、金融資本を撤収させると発表して以来、世界の大手企業は徹底して現地生産の方向に向かった。日本の大手は半年余り遅れて現地生産の方針に切り替え、今や国内生産物を現地市場に運んで輸出する方法は最小限にとどめている。また、どうしても Made in Japan 製品の代替品のない製品は円高など関係がない。だから、円高による影響というのは意外と少なく、円高での不況といった結論には至らないのだ。
現在の国内経済や生活環境は、
1.新商品・新市場に向けての投資萎縮、
2.資金回収目的の安売り競争やダンピング、
3.個人や家計所得の低下による買い控え
といった状況である。本来の「デフレ」によく似た現象であるが、デフレ経済とは異なる。そもそも「デフレ」などと語句の定義によって現象を当てはめてみたところで、どうしようもないからだ。インフレと不況が重なる=スタグフレーションは、1970年代から時折発生したが、インフレでもデフレでもなく、今やこれがデフレのような表情を現しているにすぎないとするのが妥当である。
大胆な金融政策で切り抜けようとの議論も盛んではあるが、経済学の視点から身も蓋もない話をすると、日銀をはじめ銀行には通貨が蓄積されているのだが、資本として貸し出せる資金量が把握出来得ないのが、銀行業というものの本質なのである。


日本の戦前戦後にわたる労働経済の研究で
有名な、孫田良平氏は
「競争力の強い企業が 若年労働者を集めて、 新技術・新市場で 発展するのが経済成長である」
と今年の労働経済白書を書評している。加えて、「相対的に労働生産性が劣化して行く産業は、同時に労働者の老化を伴う」との指摘だ。さらに、労働者世帯の所得税は11%減となった家計調査や女性の3分の1が月収18万円以下といった現状からは、旧来の「デフレ対策」すら取られていないと指摘している。(日本労働ペンクラブ10/10)
平成21年度の労働力調査によると、女性パート労働者が961万人となり過去最高、男性パートも470万人となり、派遣労働者減少の中でのパート労働者が増加傾向である。
こういった背景から、9月に入り景気の足踏み、
そして今、肌で感じる所は将来不安と買い控えによる急速な落ち込みである。人を採用するどころか、如何に削減するかが課題となり、その整理解雇の失敗(四要件の欠如)からトラブルを起こし、賠償金を払わされている個別企業は増加傾向にある。筆者への相談も、人員削減や指名解雇(能力がない?との不満)といったものばかりである。
ただし、残念なことに、まだまだ職業能力やモチベーション向上、新しい労働力との入れ替えといった、今切に前向きな経営労務方針に至っていないのが現状だ。いわゆる放心状態である。
だからこそ、尖閣沖の漁船衝突事件ビデオとか、TPPとかの経済外交問題に多くの国民が目移りし、個別企業での目前の地道な積み重ねがおろそかになりかねない現象が出ているのだ。
ひとえに、「高付加価値製品&高水準サービス」の商品提供を行うしかないにも関わらず、…。


「競争力の強い企業が
 若年労働者を集めて、
 新技術・新市場で
 発展するのが経済成長である」

との戦後一貫して、調査活動(労働省ほか)を基にして雇用、賃金、労働生産性を研究してきた孫田良平氏の発言には重みがある。この言葉から離れて成長した個別企業は、統計調査その他、存在しなかったという訳である。
要するに、競争力の弱い企業はもとより駄目。
競争力があっても若年労働者を集められなかった企業も駄目。
種類はともかく新技術・新市場を開拓出来なかった企業は駄目
との、統計数値にもとづく指摘なのだ。
もう一言付け加えれば、今は、市場変化によるICT産業革命の真っただ中、市場のニーズにこたえられる新技術と人材と、実行する労働力部隊を組織する必要があるのだ。
厳しい話をすれば、旧来の働き方しか出来ない人物は、東南アジア、インド、アフリカへの進出とともに、家族ともども現地に溶け込み、適材適所で活躍することに幸せを生み出すしかないと言えるのだ。ところが、ここに中国は入っていない。それは、近いうちに軍閥経営に傾く中国の経済バブルは弾けるであろうし、現に日本からの中国進出企業は、そのほとんどが赤字転落を余儀なくされているのである。


そこで、有能な若年労働者を集めるには
  (11月5日開催=募集・直採用能力のセミナーの内容の公開)
色々な求人手段の特徴
公共職業安定所=ハローワークの信頼度はなんといっても、労使双方共に高い。労働者の定着割合は他の求人方法よりも良い。
個別企業の柱として人を求める場合に限って、紙面スペースの多い求人誌紙は有効である。求人誌紙は広告料金の効果が低すぎる。
WEB媒体は意外にもあてにならない。
本格的にパート・アルバイトを集めたいと思うのであれば、その地元での新聞折込やタウン誌である。
人数が少ないのであれば、店先の求人貼り紙で十分である。住宅地域の駅やバス停近くに求人の貼り紙を出し、市街地通勤者を狙うのも効果的だ。なぜなら、これからの時代は地元密着型の技能を有するパートが当たり前に必要となるからだ。ICT社会であるからこそ、地元の人が働いていない企業は信用されない。
新しい時代に向けて、高卒採用は重要であり、純粋な新卒ではなく、学校紹介の出戻り生徒も狙い目である。
厳しいようだが、中高年労働者にはセーフティーネットが少しは存在するから、若年労働者の確保に努める必要があるのだ。
ところで、大量採用もするための知人紹介制度にもとづく求人は別として、絶対に友人、フィアンセなどのコネ採用は厳禁、必ず事業の重荷になる。

求人の募集文面も工夫が必要だ。
業務請負(旧来からビルメンテナンス業、警備業、IT開発などがある)と定義づけられる業種は、労働者派遣業とは異なって成長過程にある。適正な業務請負であれば、厚生労働省は規制をかけることはない。こういった企業では、「真面目な人には残業が沢山あります」のようなキャッチが募集の成功ポイントとなる。
「賃金の日払い可能」といった文言は社員登録者募集とともに、有能な労働力を確保する手段でもある、それは消費者金融にも走らない生真面目な人物にとっては助かるからだ。
どんなことがあっても、「明るい職場です!」とか、「やる気のある人募集!」や「いっしょに働きませんか??」といった、若者から意味不明と判断される文言は書かないことである。
とにかく、職種と作業内容をより詳しく明確に、そして時間と賃金を書くだけで募集効果としては良いのだ。そのうえで、キャッチフレーズを考えるのが定石である。

面接で人物を見抜くノウハウとは、
それなりの特技があるわけではない。そういった特技があると自負する採用担当者こそが、実は怪しい。
履歴書とともに職務経歴書の二つを見て人選をすることから始める。一名の求人に対して何十人を人選しようとするには、ハローワークの求人票や求人誌に「履歴書と職務経歴書を送付、不採用の場合には返却いたします」と記載すれば良いことである。
面接票は必ず使う。個別企業の事業に適した面接票を使い、より精度の高い面接を行っている企業も意外と少ない。仕事が出来る人ほどよく知っておくことが重要なのだ。
http://www.soumubu.jp/download/template/template2/jinji/mensetsu.html
個別企業の事業の柱になってもらおうとする人物には、何のテーマでも良いから400字以上の作文を提出してもらい、論理性があるかどうかを見極める必要がある。なぜなら、近代の仕事というものは、職制には論理で納得させ、作業者には監督者の人柄で納得してもらって、初めて実のあるものになるからだ。
面接の時は、履歴書の内容を空で説明してもらうことで、経歴詐称だけではなく、嘘をつく人物を排除することが出来る。
そして、指揮命令をする者(店長、課長など)との波長が合うかどうかをチェックし適材適所を図ることも重要である。
採用担当セクションの専業として、採用後3日目のチェック、10日目のチェックを現場に対して行うことで、試用期間14日以内(解雇予告手当不要期間)の労働契約解除も忘れないことである。
管理職の採用は、必ず社長が夜の食事をして見極める、これは社長の仕事である。
古今東西「平社員から将来は幹部に…」といったものは、励ましにすぎず、そういった人事政策を用いて成功した個別企業はひとつもない。
さらに、専門的業種の場合には、その業種の取扱商品の好きな人は採用してはいけない。人材派遣会社で成功した企業は、女性が特別好きな人物を排除、その手段としてスタッフとの恋愛禁止を倫理としたのだ。学習塾で子供が好きという人物は排除しないと、児童わいせつ事件を発生させる。子供が嫌いな保育士は有能な保育をすることが出来る。などなど、要するに組織的かつ専門的かつ高度な作業を行うためには、趣味・嗜好・興味に陥ることなく、なによりも事業として成り立たせるには、冷静・トラブル回避の指向を持った仕事集団を作り上げなければならないからだ。

女性労働力が狙い目だ!
女性就労人口が今より10%増えれば、それだけでも国内の個人購買力は大きく変化する。それよりも家計収入増加のために短時間働きたいとの女性が増加している。
週に3日であるとか、1日4時間であるとか、多忙な時間と曜日だけといった組み合わせである。
現時点で、人に困っている個別企業は、少々の工夫をしても有能な人材は来ないと推察されるから、そこは思い切って(安易・簡便に)、短時間女性労働者の採用を狙うと良いのである。
そこには、理想を追求する採用方針ではなく、同業他社よりも一歩先を行く方針で十分だからだ。そのために、12時間操業の工場であれば、三交替4時間労働にするとか、来客数にリンクした短時間採用もすれば良いのだ。
そのためのICT機器の活用である。そして、専業主婦などの中には、四大卒、短大卒の学歴の高い女性が多く含まれており、やはりその分の成果は認められるからだ。
女性労働力に反対する雰囲気を封じるには、保育所、子育てママ、女性障がい者の採用を手始めにやってみて、ICT在宅ワークなども導入して、女性に対する労働観を変化させれば、差支えはなくなる。
ここでの注意点は、女性が女性を差別するから、現在いる女性の労働観を変化させることがキーポイントである。

女性労働者が扶養家族の状態で
働き続けるには、年収103万円以下に維持することが現実的対処だ。
これを超えると世帯主の配偶者控除38万円が無くなることで、年収141万円を超えて働かないと、家計がプラスに転じない。
さらに、年収130万円を超えると、健康保険に入らざるを得なくなり保険料分を合わせると、本人の手取り&家計収入は少なくとも年収160万円を超えないと、家計収入がダウンすることになっている。
源泉徴収はしない、市民税も払わない、社会保険も免れる…といったことを受け入れる女性労働者は、その95%ほどが有能な人材であるはずがないことを考えると、103万円は課題なのである。
女性パートの人たちは、同僚、親戚、友達の間で、こんなことをいつも研究している、にも係わらず、シフトを編成する個別企業の監督者クラス(店長、係長、人事課員)が、企業規模の大小を問わず全国的に、これをよく認識していないのが現実だ。
こういった女性たちは、有能であるからこそ時間給も高く、仕事の効率は高く、労働時間も少なく、長期間働きたいという希望がある…この希望と事業のマッチングをICT機器を活用して成り立たせれば良いわけだ。

実は、いわゆる賃金理論において、
女性パートタイマーの時間給決定がなされている論理的根拠はここにあるのだ。世間相場だの、統計資料を追いかけても何も出てこない。
年収103万円を年間52週で割って、週の労働時間を30時間とすれば、660円という時間給が出て来る。実態は、この数値がすべての基本となっており、年間52×30=1560時間も働かないことや、最低賃金法での下限制限が織り込まれているにすぎないのだ。
労働者派遣業が解禁される昭和61年までは、この660円の時間給そのままがパート大量募集の時間給となっていた。そこに、当時13職種の技能パート労働が派遣として認められると、660円の倍近い千数百円の時間給パートの需要と供給が一致(派遣会社の仲介)して、技能女性フルタイムパートが現われてきたのである。
その労働政策は、それまで300万人程度のパートといった状況に押し込められていた女性労働力が、男女雇用機会均等法施行と相まって、当初の派遣法の趣旨通りに社会進出を果たすことになったのである。1997年の職安法改正、1999年の労働者派遣法改正により、技能・職業能力が低下する政策に政府が走ったのだが…。
派遣法を制定当時の背景には、当時の厚生省と大多数の国会議員との力関係による政治課題が存在したのだが、現在の法改正案に反対する大きな政治勢力は見受けられない。現実に派遣業者の経営は赤字転落ひっ迫状態、派遣労働者実数もみるみる減っており、さらに派遣元の不当利得を労働者から追求されているといった末期的症状なのだ。


留意点、中小企業の経営者の心とは
とりわけ、たたき上げの経営者の歩んできた人生に注目すると、実は起業に至る秘密の中には、企業組織に馴染んで生きることが出来なかったから、組織から飛び出して事業を興し、必至で頑張ったといった苦労が存在するのである。
そこで有能なのは、失敗にもめげず、叩けば埃が出る体であっても、意志を強く強くして会社を創り上げた逸材人物なのである。
この点をよく理解認識して、作戦参謀である総務人事部門は仕事をする必要があるのだ。
新しい時代、新しい経済成長へと開拓的講座や研修を実施中である。この事業では、株式会社総務部が講座や研修をプロデュースしている。すなわち口先だけの理論ではなく、実践の事例である。(大阪府=働く環境整備推進事業)
・使用者向け:なんでも相談
http://osakafu-hataraku.org/contents/personal/index.html
・募集・直採用能力の人事労務担当者教育
http://osakafu-hataraku.org/contents/training/index.html
・メンタルヘルス対策管理者育成講座
http://osakafu-hataraku.org/contents/mental/index.html
中小企業経営者に対する、その視点があるからこそ、こういったプロデュースが可能となるのだ。今回の募集・直採用能力のセミナーは、毎年5月と11月の半年ごとに実施予定である。それは、半年もすれば、刻々と変わる雇用情勢や採用ノウハウ、あるいは労働力適材適所に対応するためなのだ。セミナーの内容は足が速いので、11月5日に開かれた分のビデオも近日頒布することも予定している。すなわち、刻々と変わるシリーズもののノウハウ提供だからだ。


【映画評論】「武士の家計簿」12月4日(土)ロードショー
この映画は、168年前の武士(加賀藩)の家計簿をもとに、再現された時代考証豊かなコメディータッチのものである。この武士の仕事と株式会社総務部の仕事がよく似たものであるのではないかとのことで、映画配給会社の紹介により筆者は試写会を訪れたのである。
時代は幕末から明治維新にかけて、「家」を維持するために生き抜いた、三代にわたる武士の姿を、ただ単に現しているだけではなかった。安定的に出世をした祖父、機能不全を起こした加賀藩にあって内部告発により藩主直属となった父、官軍に敵対する徳川側として京都伏見まで派遣されたが、官軍側からのヘッドハンティングにより官軍のために働き、後に海軍のために働いた子らの、三代にわたる技能伝承と、時代と共に事務能力(パソコンの代わりに算盤)を発揮した活躍が源流に流れているストーリーなのである。
算盤が出来るから家族を守ったとの軽薄な筋書きではない。仕事が出来るとはどういうことか、仕事をやり遂げるとはどういうことか、「家」を守るとはどういうことかといったことを問い掛ける作品である。
それは、これからの時代の幹部社員と一般社員の明確な差異を、誠実な職業観の視点から呼び掛けていると思われる。家族を守るのか、「家」を守るのかのいずれかの目的性には、やや曖昧さを感じた所ではあるが、岐路に立つ現代人の人生を勇気づける芸術性も汲み取れる作品である。