2009/03/10

第83号

<コンテンツ>
個別企業が、如何に成長分野に進出するか。
バブル崩壊(キッカケは:89年秋に日本政府は政策転換)
産業構造の転換を、政策が如何に促すか。
ところが、政府の雇用調整助成金は、
自由に変化できる労働市場とは何か
マスコミの「派遣切り」の一斉報道は静か?になった。
労働契約法の解説 第15条 懲戒


¶個別企業が、如何に成長分野に進出するか。
ここが、雇用問題をはじめ、総務人事部門の重要な仕事なのである。
輸出型産業が昨年のような業績に回復することはあり得ない。まずは状況分析が必要である。
とりわけ、内需に関連したサービス分野の効率(生産性)が、先進諸外国と比べ、あまりにも低い水準に放置されていた、このいびつさが大きなあだとなっている。
たしかに、如何に成長分野に進出するかは、誰も正確に予想することはできない。
だが、要するに、経済危機→大恐慌の原因とメカニズムが分かれば、個別企業こそ、小回りがきき危機対策を早く打つことができるのだ。
そこで、「風が吹けば桶屋が儲かる!」といった方式のマーケティングに役立つ議論を、日本国の政策論議を借りて紹介・取りまとめてみた。


¶バブル崩壊(キッカケは:89年秋に日本政府は政策転換)
と同じように、今回の金融危機の引き金(昨年7月のイギリスの金融政策の転換がキッカケ)がインターネットであれだけ流されても、サラリーマン経営者では情報を読みきれなかったのである。
学者の中でも、終戦直後の経済に比べれば大丈夫との認識を、先週末の時点でも示す人もいるが、それは違う。終戦直後は、リュックサックに野菜を詰めて都会の駅にたどり着けば、改札を出たところで野菜は完売したそうなのだ。叩き上げの経営者、代々事業に携わる家系であれば、理屈抜きに経験則で金融危機の判断を教え込まれている。
頼みの輸出型産業はグローバル経済の競争にさらされていたのだが、だからといって政策が目先の輸出産業に無為無策で偏ってしまっていたことで、加えて、その政策が金融資本の輸出型産業の投資に保障効果を与え、投資を誘発、アメリカの金融危機の到来を読み誤って、輸出型メーカーの生産が軒並み80%減という大打撃を受けたのである。
事実、つい数年前からの景気回復の明るい見通しが話題となっていた地方での大打撃が目立つのである。激変でダントツに中部が危ない、次に北関東、そして広島・岡山である。


¶産業構造の転換を、政策が如何に促すか。
といった論議が、有識者の間から始まっている。その議論の中心は、産業構造が変化する場合には、自由に変化できる労働市場や金融市場が必要だとのものである。マーケティングの原則から、サービス分野であっても、今の客先に新しい商品を売ること(アンゾフの成長戦略)となる。
だから、個別企業で一挙に、「真のリストラ」が必要となるのであり、そのための人員整理も成長には欠かせないのである。正当に道理を通して労働力を流動化させ、生活費保障の職業訓練で、能力を向上させ、成長戦略と成功の見通しがある個別企業に雇用調整助成金を投入することなどが重要なのである。すなわち、失業者の自助努力とか自己責任、セーフティーネットといった議論では紛争や不幸が多発するばかりなのである。先送りが皮肉にも、小説漫画:蟹工船(漫画本もあり)、漫画:資本論、マルクス経済学入門(漫画と図解)がベストセラーになるのも、ここにそのマーケティングの背景が存在するからだ。
ところが、新聞テレビなどは、こういった議論の紹介をしない。話題性がなければ、購読部数拡大や視聴率アップにはつながらないからとする編集が、その理由である。


¶ところが、政府の雇用調整助成金は、
困ったことにうなぎ登りに急増している事態。ということは、本来淘汰されるべき企業が銀行や政府の援助によって生き長らえ、これにより収益力の高いはずの企業の拡大を妨げ、有望企業の新規参入を抑え込んでいる、この実態にあって、追い銭のように助成金を投入しているのである。
実は、円為替レートを支える資金投入も本来淘汰されるべき企業を政府が援助していることになるのだが。
やっと、与党のプロジェクトチームは、雇用調整助成金の支給対象企業を見直し、雇用創出に使えるように検討しているとのことだが、それでは極めて遅い。出荷販売数が伸びている企業(価格値下げで数値では判別できない)に、雇用調整助成金を投入すれば、自動的に内需拡大や成長分野における能力開発や労働力確保に効果が出て来るのだ。
コーポレートガバナンスと称して、正社員の解雇を防ぐ一方で、ことごとく非正規社員を解雇し、会社側敗訴の裁判結果を招いている実態も、よく裏側まで観察する必要があるのだ。労働者派遣法改正で、上手に非正規社員を活用したつもりが、企業の信用度からすれば裏目に出た。日雇い派遣は、単純作業労働者の、ただのピンハネであったから規制もかけられた。コーポレートガバナンス(企業統治)の実像は無秩序と言われかねないのだ。


¶自由に変化できる労働市場とは何か
を考えてみる必要がある。規制緩和といえば自由変化のことか!と錯覚したのが良くなかったのか、実態は無法無秩序だけだったのだ。そこで、現実的な自由に変化できる労働市場は、
A.男は、終身雇用保障してやるというだけで、残業もいとわず、だらだら非効率な仕事をして、一生過ごそうとする。だから労働市場は硬直化。いっそのこと女性をたくさん雇って、業務改善をやった方が速い。女性はだらだら残業できないから、業務効率も良くなり労働市場は流動化、物分りの遅い男を説得する手間も省けるのだ。
B.来年(平成22年)4月1日からは、月60時間(注:法定休日の労働時間は含まず)を超える時間外労働の割増率が50%となる。中小企業は企業単位で人数を数えるから、週40時間労働へ移行した時代のような緩和措置もない。法定休日に出勤すれば、35%の割増で済むという逆転現象も起こる。が、通常の経営管理をしているとすれば、時間外労働を削減させて効率アップを図ることに行き着くだろう。昔、企業内組合結成が華やかな時代、多くの経営者は労組の時間外拒否闘争を逆手にとって、実はサービス分野の効率アップを図ったのだ。月額2万5千円(春闘最高記録)のベースアップも十分吸収しえた企業さえあった。
C.現代成長分野に必要な労働者と成長企業のための職業紹介事業の民間拡大が待たれている。日雇い派遣のような詐欺師が介在する業態は止めて、毎日紹介(1日ごとに適切職場と適切人材を仲介:職業紹介)すればよい。これは、今から3年内に、派遣以上に大流行する。


¶マスコミの「派遣切り」の一斉報道は静か?になった。
あまり法律問題がとやかく言われない雰囲気ではある。が、実態は整理解雇四要件が整っていないこと(四要素説と誤って解雇したケースが多い)に留まらず、労働者派遣法違反どころか、職業安定法44条に違反する労働者供給を行っていた実態が浮き彫りになっている。労働者派遣を装いながら、派遣先と派遣元担当者が派遣労働者を、仕事探し・生活する寮・給与の支払いをめぐって支配従属の関係に置いている実態が少なからずある。松下プラズマディスプレイ事件のように派遣元が職安法違反を誘惑した例もあれば、某大手部品メーカーが職安法違反を強行しているケースもある。派遣先が事前面接、派遣先社員登用を約し、賃金支払いの糸を引き、派遣先が月の半分以上休業させ、その休業手当を払わない、解雇を決定・指示までしているといった、事実上の派遣先との労働契約関係の形成である。
そもそも労働者供給事業禁止の趣旨というのは、
1.中間搾取が行われる可能性
2.安全配慮がおろそかになる可能性
3.労働者の雇用が不安定になる可能性
の三項目なのである。したがって、合法かつ推薦されるとはならないが、この三項目が十分に確保されておれば、検察に書類送検されることはないのである。まして、職安法違反が歴然としていても、その時代の社会・経済・産業などの発展に資すると判断されれば、1986年当時の労働者派遣法の如く法律は整備されて行くのである。86年当時、最初に許可を得るには、安定所に申立書を添え、そこに「労働力の需給調整に資するので、一般労働者派遣業の許可を配慮願いたい」と、派遣事業の意思を明確にした企業は、対象業務その他で有利な許可を受けられたのである。ところが、(正確には)1997年以降の労働力流動化政策は無法無秩序状態、「発展に資する裏目」に出てしまっている。
経済合理性の粗利益は、決して中間搾取とは言われない。労働力を効率的に確保するための募集・配置・教育訓練であるとか、生産効率を向上させるための工程管理や生産技術に携わる職業紹介で、自由平等の社会共同体秩序に役立つものであれば、様々なアイデアの宝庫も犯罪には問われないのである。
思いつきの事業では、ビジネスが大きく展開された時点を見計らって、労働局が弾圧に入る。日本の職業紹介のはじまりは、奈良・東大寺の大仏建立であるが、現代のイメージとは大違いなのだ。すなわち、労働市場にまつわる事業は労働力流動化政策の先駆けに時代を開くチャンスがある。

大恐慌は、ほんの一部の超大金持ちを生み、後は収入減の一途をたどるといわれるが、現下の日本系税構造では、衣食住&サービス分野の「生産性」を上げれば、個別企業はまだまだ成長するのだ。
課題は、頭の切り替えと視点である。



¶労働契約法の解説 第15条 懲戒
ここ最近、どこの個別企業でも懲戒処分の事案が増加している。その原因は解明できないが、筆者の30年以上にわたる経験からすると、時代の変化による増加と思われる。
第15条
「使用者が、労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒にかかる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」

「客観的に合理的な理由を欠き、……」のくだりは、
解雇権濫用禁止の第16条とほぼ似たものであるが、この第15条の懲戒の規定は、始末書(経過報告書などを除く)、減給、出勤停止、懲戒解雇その他実質的懲戒状態(客観的不利益性の有無)への処分に対する、懲戒権濫用禁止の条文である。
労働契約とは、使用者が組織する業務組織に労働者を組み込んで、他の労働者とともに共同作業に従事させることによって、初めて実態が成り立つことから、企業・職場の秩序維持が必要になってくるのである。この秩序を維持する手段として、経営側が行使できるものは損害賠償と懲戒処分に限られており、損害賠償では現実の損害発生が要件事実として必要となるため、有効な欠如破壊に対抗する手段として、労働契約のもとに懲戒処分を行うこととなるのである。ここが肝心であり、この前提に立たない懲戒処分は、好き嫌いによる恣意的判断、感情的判断、支配独善的判断として無効とされてしまうのである。
「労働者の行為の性質及び態様」の意味は、
秩序を破壊した具体的内容・動機、業務への影響、損害の程度並びに、その労働者の態度・情状の余地・処分歴のことなどを指している。
「その他の事情」の意味は、
経営側の落ち度などを指している。すなわち、中間管理職も含め使用者側原因の有無、別件を用いて本件の処分をしようとしていないか、他とのバランスも考えず重い処分になっていないか、懲戒処分の手続きに曖昧さがないかどうかである。秩序を乱した者とはいえ、本人に弁明の機会を与えることは最低限必要なことである。加えて、経営側が不法行為(民法709条)に手を染めた結果とならないかの注意も必要となる。これからの新時代、不当解雇で未払い賃金を支払った取締役が、今度は善管注意義務違反や忠実義務違反で株主代表訴訟を起こされ、未払い賃金相当額を取締役個人が支払わされる裁判例(渡島信用金庫事件)などが多発するかもしれないのだ。
「客観的に合理的な理由を欠き、」の意味は、
第16条の解雇と同じであるが、客観的とは外部の第三者が確かめられる事実で証明できるかどうか、合理的とは懲戒理由の事実が真実で道理をもって(合理的とは法律用語)証明することができ、その裏付けとなる証拠が存在して、その時点の就業規則の懲戒規定に該当しているのかどうかを指している。
「社会通念上相当」の意味は、
社会(世間体や常識とは異なる)で広く受け入れられるであろう判断のことを指している。ただし、極めて専門的であるから、重大な懲戒事件となれば専門家の判断を仰ぐ必要がでてくる。
ところで、そもそもの懲戒の意味や目的は、
秩序を乱した労働者に対するダメージを与えることに加えて、いわゆる「見せしめ」を行ない再発の防止をするところにある。したがって、懲戒処分の発表をしたくないのであれば、懲戒目的に反することとなり、ひいては「その他の事情」を考慮したときに、不正な懲戒処分と結論づけされてしまう可能性もあるのだ。例えば、普通解雇であれば、就業規則の普通解雇規定(旧来の六~十項目では立証不能)に該当さえすれば、個別企業内で闇のうちに解雇してしまうことができるのであるが、そこに普通解雇と懲戒解雇の差が存在する。したがって、懲戒処分全般にいえることだが、刑罰に類する制裁であることから、刑事法並の扱いが必要となる。(普通解雇は、労働契約法・民事法の扱いの範疇)。すなわち、懲戒事由と手段を就業規則に明記する必要があり、それ以外の懲戒処分は許されないことになる。使用者が懲戒処分をする場合に、軽い処分にしろ重い処分にしろ、厳格な意味で就業規則違反を行ったのであれば、すぐさま懲戒権根拠の欠如となってしまう。だからと言って、曖昧な包括的懲戒条項を作成すれば、厳格性とか該当性の欠如となってしまい、懲戒処分ができなくなるのだ。
この法律のいう合理性とは、この程度の固い話の展開が用意されていなければならないことを必要としているのだ。もちろん、不遡及の原則、すなわち新しく懲戒規定を設け、それ以前の事案に適用することはできない。また、一事不再理の原則(二重処分の禁止)、過去の懲戒対象事案の行為について、重ねて懲戒処分を行うこともできない。例えば、本来懲戒解雇にすべきところを、始末書の提出をさせたばかりに、二重に処分ができなくなり、懲戒解雇が無効となったとの事例、これはよく発生する事例で、労働組合との事件になれば約3年分の賃金を支払わなければならなくなるものである。

なお、懲戒処分の形式的な種類は一般的に軽いものから、
戒告→譴責(戒告+始末書)
→減給(一件は1日分の半額、10分の1を超えれば翌月回しの制限)
→出勤停止(賃金不支給、勤続年数不算入)
→(懲戒処分としての)降格
→諭旨解雇(退職金の支給がある)
→懲戒解雇(退職金の支給はない。解雇予告手当は任意)
自宅待機は賃金や休業手当の支払い義務があり、支払いを怠れば懲戒処分と判断され、その期間をめぐって懲戒処分無効とされるケースが多いので注意が必要である。
懲戒処分となる事由は、
個別企業の産業・業種・職種によってさまざまとなる。
それによって、経歴詐称、職務怠慢、業務命令違反、職場規律違反などの詳細が定められることになる。毛染めが許される職場と禁止の職場、飲酒が認められる職場と禁止の職場、衣服、言葉遣い、来客者への応対、その他は、すべて個別企業や職場の秩序維持の目的によって異なる。
なによりも、必要維持のための禁止事項を労働者に周知徹底しなければならず、周知徹底は予防効果であるのだが、処分効果(周知して処分も可能)も存在することとなり、これが労働契約に基づく経営側の懲戒処分権となっているのである。解雇や懲戒の規定参考例は、次のURL。
http://www.soumubu.jp/download/template/template2/syugyo/kisoku.html