2004/04/06

第24号

 年金国会の真っ最中である。
 視野を広くして考えてみた場合、福祉なるものが次の3つの分野に、
 どのように配分されるか。そしてそのバランスはどうなるのか、と考
 えれば、「保険料と給付バランス」というのはいかに理屈にもならな
 い幼稚な話かが判断できる。
 1.社会、コミュニティー、国家が行う福祉
 2.企業が従業員のために行う福祉
 3.家庭内で行われる福祉
 人口が急増した団塊の世代の人たちは、将来は国の厚生年金が面倒を
 みてくれると思って、せっせと貯金のつもりで保険料を払った。ちょ
 っと裕福な家庭の妻は国民年金もそうだと思って払っていた。その人
 たちにとって福祉の中心は、会社がいろいろと用意をしてくれる企業
 内福祉であったし、男だけが外で一生懸命働いて専業主婦が夫の手足
 となり身体介護を行うかのような福祉を担っていた。完全雇用が前提
 であった企業の福祉が期待出来なくなり、国家に福祉を頼らざるを得
 なくなったときに、いままでためていた厚生年金の資金は官僚たちに
 よって使い果たされていたのである。「お金が無くなってびっくり。
 さあどうしよう」というのが年金問題の本質である。
 平成14年の総務省統計を見てみると、正社員3500万人、パートなどの
 非正規社員1450万人、会社役員400万人、個人事業主と家族1000万人
 である。とくに会社に勤めている人の30%が非正規社員である現状は、
 現在の厚生年金や健康保険の「法律の想定」した状態ではない。平成
 14年の秋からは、日本がアジア経済戦争に負けて、労働力の転換がこ
 れ以上に進んでいるので、法律の想定とは一段と乖離した現状に至っ
 ている。なのに、厚生官僚は「3500万人+400万人の保険料収入と、
 給付のバランス」のことばかり主張し続けるのである。
 昭和36年、国民皆年金制度と称して、当時、専門家の「将来財政破た
 んは免れない」との指摘を無視し、内外の反対を押しきって国民年金
 を開始し、これらをどんぶり勘定にし厚生年金の資金をはじめとして
 年金資金を使い切ってしまった官僚たちの責任を問いただすときにも、
 この3つの分野とバランスの視点はとても重要である。

 労働者派遣法の改正が、全般的には労働力政策の大きな転換を示すと
 の実例が飛び込んできた。製造業に限っての今回の改正はこのメルマ
 ガの1月号で述べたとおり。改正の大きな効果には、正社員を補完す
 る労働市場の形成によって、正社員を取り巻く半専門的半技能的労働
 者層の形成を作り上げることになる。派遣先が労働社会保険や人事管
 理に原則的責任を持つようにしたり安全管理義務を徹底させたりする
 ことは派遣先企業の直接的影響力をもとに派遣労働市場を安定化させ
 ることになる。人材派遣会社の許可単位を変更することで業界の再編
 と新陳代謝を加速することになる。戦後一貫して国家主導で行ってき
 た職業紹介行政の半専門半技能部分での一部民営化である。人材派遣
 業は吹けば飛ぶような業界で、またもや付加価値機能形成やノウハウ
 蓄積基盤が遠のいてしまった。
 さて、その事例とは、4月1日の日経新聞は一面トップ記事に、トヨ
 タが派遣社員を大幅に導入することを報道した。13面には製造業を解
 禁した労働者派遣についても関連記事を載せている。製造現場の派遣
 期間の条件も、2007年3月からは3年になると、まだ正式には決まっ
 ていない内輪話も報道してしまった。派遣会社の営業トークとは別に、
 よく読んでみると、自動車関連の「期間従業員」よりも労務コストが
 安いと言っているだけである。自動車産業のように1本のラインが大
 きい場合には、法律的な請負要件がそろわないので業務請負に仕事を
 発注することが出来ない。トヨタ式生産システムでは合法的に人材派
 遣業を受け入れられなかっただけのことである。ボルボ方式なら問題
 なかった。ところが、自動車産業の多くには偽装請負業者が非合法に
 活用されてきた実態がある。
 社会保険や労働保険を管理する担保を整え、安全衛生について派遣先
 が責任を持つのであれば、製造業の労働者派遣も認めようというのが、
 今年3月1日の製造現場での労働者派遣規制緩和である。非合法派遣
 からすると、労働社会保険料の会社と本人負担のコスト(給与の23%
 ほど)および安全管理費用を、とどのつまりが派遣先で負担するので
 あれば合法化しようというものであった。これらを免れて非合法派遣
 したり、業務請負と称して実態は労働者派遣であったりした場合には、
 強制力を伴った指導をし企業名を公表するとしている。労働局は本年
 度から派遣労働者の労働災害発生動向の把握と防止を行政項目にあげ
 た。旧来から本省職業安定局では内部文書を廻し悪質企業をリストア
 ップして全国の職安に通知をしていた。職安によっては事業所にアン
 ケート調査を行い「□□会社との取引はありますか」と洗い出す方法
 や、「利用している派遣会社を教えてください」と企業名を出させて
 許可業者一覧とすり合わせ派遣先を指導する方法であった。今回、企
 業名が公表されれば「□□会社は違法な労働者派遣ですから使わない
 でください」とはっきり郵便で知らせたり掲示することもできるので
 ある。それを押して違法会社との取引を続ける派遣先は、陰ひなたに
 安定所や監督署の圧力を受けることになるのである。
 派遣業界唯一の業界団体である日本人材派遣協会と、派遣労働者など
 を組織する全国ユニオンらは、3月1日、団体交渉を行った。個別の
 企業との団体交渉よりも業界との団体交渉を優先させるのは、ヨーロ
 ッパでは常識的なことである。日本の春闘方式とはイメージが大きく
 異なっている。この労働組合は悪質業者に対しては徹底して戦ってい
 るようである。

 75年以上にわたって、小売業のイメージを花形リードしてきた百貨店
 が大変容している。4月4日、大阪ナンバの高島屋の74年前に東洋一
 の大食堂とコマーシャルをしてオープンした「百貨店の食堂」が終了
 した。ライスカレーは、これも75年前に大阪梅田の阪急百貨店で客寄
 せのために出されたものだ。今から75年ほど前、今の百貨店のイメー
 ジが出来た。それまで全国で300ほどあった中小規模百貨店が、昭和
 恐慌のときに現代のような大型ビルを建設などして、今のように切り
 替えた。ところが本質は、客引き商品や大型ビルだけではない。それ
 までのイメージはやはり市場や公設市場だったのである。百貨店で働
 くデパートガールやエレベーターガールなどの計画的育成教育で販売
 技能を向上させマーケティングを行ったところに大きな違いがあった。