2004/07/06

第27号

 年金問題は、日本の社会経済の将来をよく考えさせられた課題であっ
 た。出生率1.29問題。ところが、2007年問題というのがある。これは、
 人口の多い団塊の世代が60歳定年をむかえ始める年が2007年で、その
 うちの、日本の雇用者数約5000万人のうちの約500万人が3年のうちに
 リタイアする事態のことである。個別企業においては、自然減という
 形でスムーズに人員削減が進み、人件費の大幅な削減で経常利益は増
 加し、資金に余裕ができるとのプラスの見方がある。その半面、この
 年代の雇用による所得額は比較的多く、これが縮小されると、個人消
 費の落ち込み、所得税とか社会保険料の落ち込みとなり、経済をデフ
 レの方向に大きく引っ張る。一例をあげると、従来の年金制度だと、
 団塊の世代が年金を受給しだすと年金財政バランスが崩れ、年金財政
 の破綻が分かっていたから、年金の受給年齢を65歳へ向けて引き上げ
 を行ったのだが、2007年に60歳定年を迎える人は64歳になる2011年ま
 で基礎年金の受給ができないことになっており、退職金などの資金を
 取り崩すにしても4年間の空白は長すぎるのである。2007年問題とい
 うのは、このように一触即発の危機を抱えている。団塊の世代の人達
 に、65歳まで働いて収入を得てもらって、社会保険料も払ってもらっ
 て、子や孫のために多額の消費をしてもらわなければならないな?と、
 短絡的に発想してしまえば、日本経済は沈没していく。「出生率1.29」
 よりも、背筋が寒くなる夏のひとときでした。

 65歳以上の高齢者(現在は60歳)のための「生きがい対策」と、大義
 名分を立てて行われている。シルバー人材センターには、意外な落と
 し穴があった。シルバー人材センターは、旧労働省が肝いりで設立さ
 せた社団法人で、高齢者政策の柱である。
 つい近所の最近の事件は、今年の6月14日、植木の剪定業務を請け負
 った大阪のシルバー人材センターが、いわゆる業界用語で言う「職人
 がケツをまくった」ことに対して、二名二時間分の賃金支払いを発注
 者に請求したものである。シルバー人材センターは請負業務であるの
 で、仕事の完成がなければ代金請求できない。そこで、シルバー人材
 センターは請求根拠がないため、請求姿勢で、いわゆる「すごんだ」
 (すごむとは相手を威嚇すること)のである。シルバー人材センター
 の責任者は道路に刈り込んだ植木の枝葉を散乱させた状態で、時間分
 手数料の「金を払え!」と大声を出し、発注者側のおばあちゃんから、
 「お支払いしますぅ…」の返事を聞くや、後片付けもせず自動車で走
 り去ってしまった。発注者の苦情申し立てに対して、その後、電話を
 かけてきて、「請求はしない」とだけ通告し、暴言を吐いたり大声で
 すごんだりの弱いものイジメについては、「金を請求しないのだから、
 もういいだろう」と、反省などまったくしない。厚生労働省本省の調
 査や大阪労働局から、「職業紹介ではなく請負業務を行いなさい」と
 の指導を受けて、やっと謝罪文書を出した。
 さて、いつもは「身内の親戚」には甘いのかと思いきや、今回は頑張
 った。シルバー人材センターは、生きがい対策といっても労働してい
 ることには間違いない。労災保険の適応をされた事例もある。また社
 団法人であれば無料職業紹介となるが、その場合手数料は(例えば現
 行の7%のように)取ることはできない。秋から労働者派遣事業を行
 おうと許可申請を予定しているシルバー人材センターも少なくない。
 だが、そもそもの原因は、20数年前にシルバー人材センターを全国各
 地に作った時に、「65歳以上は労働政策の対象ではない」だから「生
 きがい対策」と、その当時の、その場しのぎの拙速な大義名分を、未
 だに政治も社会も変化したにもかかわらず、相変わらずそのままにし
 ておいたところに原因があるようだ。なので、シルバー人材センター
 の現場は法的社会的根拠が薄いことから、就業態度が悪くても許され
 てきたし、すごみ、ごまかし、横柄になるのだ。さて、シルバー人材
 センターの民法や厚生労働省法令無視の横柄な態度は、まだしばらく
 続きそうである。周りに迷惑な話。高齢者就業の受け皿にもならない。

 「是正勧告対応マニュアル」(著者森紀男、日本法令)という本が、
 6月10日に発行されたが、書店からの撤収回収となった。是正勧告と
 は、労働基準法違反を起こしたときの労働基準監督官の監督指導であ
 る。折しも、サービス残業や労働時間の管理をめぐって、書類送検や
 逮捕と日本国中が上を下への大騒動をしている時期である。売れ行き
 は好調で、二週間もしないうちに約2500冊が瞬間的に出回ったようだ。
 回収の名目は本文中の引用部分についての著者森紀男氏と、引用部分
 版元(TK社)との争いのようである。ところが、異論を唱えた版元
 (TK社)は、筆者も経験があるが、著作文の法令上のミスを指摘さ
 れても感謝することもないズサン性のある出版社で、今回に限りどう
 したことか?と驚く。この本は撤収回収となったが、著者のセミナー
 はとても好評のようだ。大手企業担当者をはじめとして、全国から約
 400人が詰めかけているそうだ。
  http://www.horei.co.jp/seminar/

 個人情報保護法の全面施行は、平成17年4月1日からである。ところ
 が、情報漏洩対策として、単に「機密と個人情報守秘」とのことで打
 たれている現場の対策だけでは、民間の損害賠償事件には、大きな手
 抜かりを生じる。巷でよく例示・論議されているものは、個人情報保
 護法や情報公開法理からだけの対策(4ポイントなど)ばかりに目が
 向いていて、企業経営に一番大切な損害賠償事件とか基本的人権トラ
 ブルの対策には欠落(瑕疵)がある。所詮、国家または官僚は民間の
 経済活動にとやかく口出しすべきではないのだが、法律に基づく国の
 アドバイスが無いからといって、民間企業では対策を忘れてはいけな
 い。個人情報保護法とプライバシー侵害の不法行為(民法709条)は別
 建てである。
 特に、秘密を取り扱う末端の従事者が、「どれが機密か分からない」、
 あるいは「具体的に個人情報かどうか区別できない」、さらには「情
 報を漏らして良い人と悪い人の区別が分からない」、と主張されてし
 まえば、「知らなかった(法律上は善意となる)」ということで悪意
 が無いことになり、個別企業は末端従事者の責任を問えなくなり、重
 ねて教育をしてこなかった責任も問われることになり、いわば事件が
 起こったときには踏んだり蹴ったりとなるのである。末端従事者に、
 就業規則上の処分が出来ないのはもちろん、「知らなかった(法律上
 は善意となる)」と言われ、民法上の損害賠償も求められない。外注
 や派遣ではさらに複雑になる。法律上の手抜かりで、事業者の過失責
 任ばかりが問われる。
 そこで、決定的ポイントを含めた具体的対策を誓約書の形で作成した。
 このメルマガの巻末に例示掲載。
 誓約書以外の形式でも自由。これを従事者に示すだけでも、法律上の
 効果には、「善意なのか悪意なのか」の大差が出る。ほとんどの「ウ
 ッカリ漏れ」は未然防止できる。ところで、IT関連業務のパスワー
 ド自体は機密事項でパスワードを悪用して個人情報を故意に漏らすこ
 ととなる。医療関係のカルテなどは個人情報かつ病院にとっては機密
 事項であり、病院が守秘項目としてカルテを機密に特定する必要があ
 る。と言う具合である。