2005/10/03

第42号

(仮)労働契約法の立法化が、いよいよ日程に入ってきた。法案(労働契約法)を平成19年の通常国会提出の意向。「紛争が生じた場合に最終的には民事裁判を通して当事者がその権利を実現し紛争を解決することを目的とする。」としているが、今のところ関係者から異論が出ていないところのものは次のものである。それは国会成立の暁に制度化されるとみてよいものである。
1.労働判例(判例法理)を法律(法定法理)とすること。
2.法律の履行のために労働基準監督官の監督行政は行わない。
3.行政関与する場合は紛争調整委員会のあっせん制度など。
4.労使の一方が白黒の判定を望むときは、裁判所で決着する。
としている。すなわち、最低労働条件については監督行政を行ない、それを上回る部分の労働条件でトラブルになった場合は、労使当事者の話し合い解決自体を行政関与でもって応援するシステムにしようというものである。金銭解決解雇制度や継続中条件変更については、国会成立するかどうかは不明。
要するに、10年くらい前までの、「職場内のトラブルは中間管理職が責任をもって紛争解決すること」との概念を、中間管理職削減の折から、「労働行政の公共事業として解決」するとのものに変化をさせるものだ。今や、グローバル・ボーダレスの時代に入り、それまでの紛争とは「武力解決を裁判に置き換える」との理念から、「裁判による判定から調整・合意形成へ」とのADRなどの理念が、一挙に世界的に広まりつつあるからだ。国際経済関係、技術開発関係もその道を歩んでいる。
今日までの日本は、社会共同体の中で、新しい事態に遭遇した時点に新しいルール(義務)を作るとか、対立解消のためのルールを決めておくような社会でなかったこと&そのようなことに対応する適切な教育を受けたことがなかったことから、一般の人ではイメージが難しい。そして、世間体の克服は日本経済の国際化を伴う経済発展の上での重要な社会的課題と言われている。ここまでは、マスコミ発表の中にも書いてある。
ところが、マスコミの気づいていないもうひとつの注目点がある。
請負契約や委託契約であるとして労働基準法上の労働者として扱われなかった者でも、経済的従属性があれば、労働契約法を適用させるとしたことだ。現行は契約名称にかかわらず使用従属関係があれば労働者としている。これも関係者の間で異論はないところなので、成立する見通しだ。この「経済的従属性」は、労働契約法施行とともに期間契約途中の解雇の場合の期間終了日までの損害賠償(現行)を周知徹底させるとしていることと相まって、経済構造に大きな影響を及ぼす。昭和63年に「1日8時間労働制」を「1週間40時間」としたことによって、小売業を皮切りに経済の24時間化が始まったが、これをも上回る経済構造変革かもしれない。
新たに適用される人たちは、次の要件をすべて満たす者として例示している。
1.個人であること。
2.契約に基づき役務を提供していること。
3.当該役務の提供を、本人以外の者が行うことを予定していないこと。
4.役務提供の対償として金銭上の利益を受けていること。
5.収入の大部分を特定者から得、生活している者であること。
注意しなければならないのは、この者たちの就業場所を事業所とか自宅とかを問題にしていないことである。よほどの短時間臨時でない限り、適用となる。情報産業、流通、建設、製造、サービスその他の業種を問わず、とにかく「五つの要件」を満たす者すべてが対象となることである。
要するに、現在の「労働者」イメージが変更されるのだ。したがって、現行の労働関係諸法律が人材派遣業を除き事業所で働くことを前提としていることから、労働契約法制が施行されて以降は法律の改正が相次ぐこととなる。(現行の労働者派遣法では、就業先を派遣先・派遣元・自宅などのいずれでも適用できるように、17年前から制度化しているのである)。そして……
日本経済は「高付加価値製品と、高水準サービス商品」の提供に活路を見いだそうとしているが、この経済活動に資する人事・労務管理が必要とされ、そのための日本文化や社会共同体への変化を歩もうとしている。その先には、たとえば、コンビニの競争相手は流通業者であるが、便利な店に客を呼ぶよりも通販・配達するとか、街の酒屋がコンビニ転業するのではなく宅配便の下請配達をするような、「経済構造の変化に労働力需給も整合」させようとするものである。それは意外にも、国内主力産業を支える周辺の芸術性業種も大切で、国内外での食品加工サービス、すなわち料理店・ファーストフード・スローフードだとか、世界へ向けてのコンテンツ産業なども有望で、そこへの労働力の育成に資することにならなければならない。


ところで、紛争トラブルの直面する種類として、アンフェア・トリートメント(不公正な取り扱い)が多発している。従来は外資系企業で起こっているものとされていたが、日系企業でも増えてきている。就業規則等の規範的部分が最低基準に設定されているなかで、事実上個々の労働契約が主流となることによって、労働条件の決定方式が個別交渉に重きを置かれている場合には、アンフェア・トリートメントが発生しやすくなる。もちろん、最低条件の情報公開をしないことで、最低基準を満たさない事件も含まれる。いくら何でも自由意思と言えども、ある程度の公平な規範的労働条件は経営管理の上からは必要なのである。
外資系に限らず、人材派遣業、業務請負業、IT関連企業に横行?と思えば、中小の製造業でも最近は多いのだ。労働者からすると、「約束が違う」とか「どうして規則を隠すのか!」ということになる。すぐさま、労使間の不信感と敵対心の発生につながる。熱意がある若者に限って寄り付かないのは当たり前のことで、高付加価値製品or高水準サービスの商品提供など、社長が躍起になっても、それは「白昼夢の又夢。」
外資系の企業の人事管理は、規定の退職金を払わなければ人事部の成果にカウントするところもあるくらいだ。とはいえ、日本の人事・労務管理水準から言えば、とにかく日本での20?30人の中小企業なみなのである。優秀だと言っても、やっと中堅企業なみ。外資系企業の人事部は所詮「社内クズ?」あつかい。その原因は、管理する理論も手法もないからだ。これが企業本体の業務遂行の足をヒッパッテいるのは当然のこと。それすら分からないのが外資系Top。生粋の外資系となれば弊社がWEB公開しているような書式集の英語版自体がない。意思の疎通を間で止めている者も多い。


社会保険庁改革の流れはこうだ。公的年金と政管健保の運営分離する新組織を平成20年の秋に設置。政管健保は公法人設立だが財政運営は都道府県単位。関連法案は平成18年の通常国会に提出。政管健保と年金の実施組織の分離に伴うコンピューターシステムの設計開発に最低2年との理由で「公法人の設立時期」が平成20年の秋とのこと。民間個別企業の総務担当者なら、本末転倒の改革(時期設定理由がシステム開発?)であることは一目瞭然。改革目的を度外視しても、組織運営上失敗するのは今から分かる。年金専門家抜きの有識者会議&第一線職員無視の業務計画の抱き合わせと、近年の「厚生省」運営は、そのまま固執する予定。
国民年金事務の社会保険事務所の国民年金課の残酷物語。
「職員全員、早朝出勤、残業居残りでサービス残業、鞄に詰めての風呂敷残業までやっている。おまけに、誰が設計したか分からないコンピュータは動かないし、手でやっていた時代の方がよっぽど早い。次から次へとセンターからプリントアウトされた書類が到着。職業安定所や区役所からも書類がどっと押し寄せる。どうしても緊急なものから処理をするが、それでも日にちが遅れてしまうから、苦情の電話が殺到する。保険料納付期限までに保険料免除通知が発送できない事態も。これを社会保険事務局や東京へとすべて報告するが、返ってくるのは、「コンピューターシステムの中身は分からない」とか、「こちらも鋭意努力している」の一点張り。「本省庁の中にはいい人もいるんです」と自分の心と部下やアルバイトに言い聞かせ、毎日を乗り切る。
さて、年金、健保での物語はいかに?