2005/12/06

第44号

古今東西、太古の昔から、天災、疫病、飢饉などで、「国」が潰れたことはない。社会の対応力の無さや社会秩序の崩壊によって、国がつぶれてしまった…これが歴史学の定説である。


鳥インフルエンザは、H5N1型の人体感染となれば、日本経済に相当大きな影響力を与えるのは間違いない。38度の発熱と肺炎症状が特徴であるが、通常のインフルエンザとは異なり、肺炎症状が出たときは50%の死亡率である。予防措置は、人ごみを避ける、過労を避ける、粘膜からの侵入阻止(マスク、手洗い、目鼻洗い、うがい)に限られるので、感染の危険は非常に高い。タミフルは、中国産八角を原料に作るか、化学合成によるしかないのだが、数量が少なすぎるから、一般人に回るかどうか分からない。感染すれば指定病院に行くしかない。個別企業や個人に防衛が任されているのが現状である。
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/


耐震強度設計偽装事件。まず、一戸建て住宅建設の町場とビル・マンションの野丁場とでは状況が違うのだが。設計図面通りに工事をしないこと、すなわち、鉄筋の量を抜く、セメント配合率を減らす、見えないところの柱を抜くなどと、施工業者が手抜きをするのは昔から存在した。大がかりに柱の本数を減らす場合は、施工業者が「責任?」を持って構造計算を行い安全性を確保した。阪神大震災で多くの建物が倒壊したのは安全率を下げたことによる。いままでの建設業界の手抜き工事の問題点は、ここまでである。
ところが、今回の事件はそうではない。発注業者、施工業者、設計事務所、構造計算事務所のすべての関係者が団子になって、「安全性を無視した設計と施工」をしたところにある。まさに、「想定外」である。「設計通りに作った、検査通り作った」と無罪を主張するが、そもそも良識ある建設業者であれば危険な建物は作らない。比喩的にいえば、(不正)設計書の通りに工事を完了したから、建設業の業界常識と異なる事件なのである。一皮むけば、単なる「まやかし」である。犯罪者集団は建築士が建築基準法に違反するだけで、刑事責任が問われないように仕組んだつもりである。会社法人を倒産(施工業者は早々倒産)させて民事上も損害賠償の責任を負わなくてもよいように逃げられると思っている。法律の専門家ではないから、素人ながらに「犯罪者」にはならない、「うまくすり抜けられる」と、犯罪者集団は錯覚しているようである。
マヤカシや詭弁が横行したとしても、設計事務所の所長が行方不明になり、死体が発見されたとの話を聞いて、「自殺に見せかけて、口封じをされたか」と判定する部分の、その場面に現に建設業界の常識・良識が生きているのである。
だから、マヤカシの部分をはっきりさせれば、住民の生存基本権の救済範囲や国家の援助範囲がおのずと定まるのである。ヒューザーと立場を異にするとしても、事件発覚早々からマヤカシを放置して「国家の援助を!」と叫ぶ政治家の裏には、疑惑があると言われても仕方がない。


景気回復、カネ余り現象と報道される中で、消費経済の伸び悩み、商品開発の停滞、文化的経済の後退が進んでいる。銀行には調達利率の低い資金が貯まるも貸し出しが伸びていない。投資の行き先は、快楽追求商品もしくは問題解決商品の極端な二方向商品へと、限られて向けられているから、経済が豊かにならない。まだまだ投資は、高付加価値製品や高水準サービス商品には回っていない。
インターネットやネットビジネスに陰りが見えてきているが、このビジネスは流通・効率部門業種であるから、肝心の「大量・安定・豊かな商品の流通」が存在していない中での陰りは当然なのだ。事業活躍の場を求めてスポーツ界やマスコミ界に進出しても、肝心なところを見逃しているので、いずれは陰るだけなのだ。ここでは、経済の基本原則に無知なストーリーが、まかり通っている。
ある家電グループPのごとく、消費者からクレームが寄せられても、ごまかすだけ。いったん、「消費者センター」とかPL法による訴訟で詰められると、一転して製品の無料取り換えや他社製品代金弁済まで行う。このような企業姿勢の道具にされているだけではインターネットやネットビジネスの発展はない。片や、昔ミシンメーカーであったプラザーは、徹底して価格を抑えたIT商品を販売するのみならず、不具合が生じたときは宅配便やインターネットをフル活用してケアーをするし、翌朝には代替機を配達し修理を施す。J航が未整備の飛行機を離陸させていることは昔から有名であるが、予約システム、安全運航、身障者ケアーの確実な全日空との哲学の差である。
ここでボケとツッコミの経済漫才。
ボケ:「中国でもインターネットが普及して、経済が、自由で活発になるに違いない」
ツッコミ:「何を馬鹿なこと言ってるんだ。中国の場合、インターネットは国家統制の道具やで!」
ボケ:「なるほど、そうか。中国かぶれの大手企業は、自由経済よりも統制経済なのか」
ツッコミ:「そう、そのうち、地上の楽園!と言い出すかもよ?」


折しも、来年4月1日から、公益通報者保護法と労働審判法が施行される。この二つともが、強行法規であり、強行が良いかどうかは議論のあるところではあるが、「権利を主張する者は保護され、主張しないものは見捨てられる」社会の形成に向かうことには間違いない。過去の日本のような世間体に柱をおく統制社会をやめて、グローバル社会に通用する社会共同体へ移行しようとするのである。したがって、国民生活保護のポイントは基本的人権の優先と拡張に切り替えることとなる。
公益通報を行った労働者の解雇無効(解雇がなかったものとして扱うこと)とか、不利益あつかいの禁止・損害賠償を担保することによって、国民の生命、身体、財産その他利益の保護に関わる法令規定の遵守を図ろうとするのが狙いである。通報の対象となる法律は400余で、もちろん、感染症、建築基準法、労働基準法や社会労働保険に関する法律も含まれている。来年4月1日以前の法令違反も対象とする徹底ぶりである。権利主張促進政策である。
 http://www5.cao.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/taisho.html


労働審判は審理が3回と、要するに、形骸化した労働裁判の時間短縮版ではあるが、制度的に注意しなければならない点がある。とりわけ、次の3つの課題については、紛争の兆候が出た段階で、「審判制度」それとも「あっせん制度」のいずれかの解決方法選択の専門的判断が必要とされる。いずれにしても、時間的にのんびり構えているわけにはいかなくなるので、労働の現場と各種紛争解決制度に詳しい専門家のアドバイスが結末を決定することになりかねない。アドバイス情報は重々しいものではなく、より初期の段階での、専門家の電話アドバイス程度で十分である。無知とか早とちりは個別企業が紛争解決制度の歯車に押しつぶされる危険をはらんでいる。ちなみに、優秀なあっせん代理人が確保できるのであれば、「審判が提起」される前に、経営側から労働者に「あっせん解決」を呼びかける手段の方が人事管理では有効なのである。
1.従前の裁判であれば、原告と被告が提出した証拠のみが採用されたが、労働審判では刑事事件のごとく職権事実調査が行われる。「まずは裁判所に行ってみて、じっくり検討してから…」との姿勢は、きわめて不利になる。
2.世間知らず?の裁判官が判定するではなく、実情を知る経営側と労働側の審判員が審判を下す。顧問弁護士よりも審判員の方が、事情の理解が早いかもしれない。
3.審判に対する異議申し立てで地方裁判所への訴訟を起したこととなるので、手抜かりは当初から許されない。したがって、経営側弁護士の着手金が安くなるわけではない。


世の中の変化は早い。グローバル基準に適用しようとすれば、徹頭徹尾、社会共同体を定着させなければならない。10年前の日本は「世間体」重視であり、今の社会現象は「アメリカ流社会共同体」の猿真似のようなものである。システムの中に日本の独自性が活かされなければ、アメリカの二番煎じとなるだけである。個別企業においても独自性を生かした社会共同体の導入が必要となる。これに失敗した例が、ここに示した偽装設計、ネット?ビジネス、統制経済(経営)である。ましてや、多国籍展開でもって高付加価値製品や高水準サービス商品の提供でもって、経営を推し進めようとすれば、とりわけ人材確保の面から、この動きを他山の石としなければならない。ちなみに、多国籍展開や経営管理水準の高いスウェーデンは、人口640万人で、北海道より少し大きく、大阪府より小さいのであるから、小さくとも自信は持てる。