2006/01/09

第45号

新年あけましておめでとうございます。
数字の上で経済回復したかのように見えるが、デフレ真っ最中は誰もが認めるところ。ところで、経済は金融や財政学だけではない。個人消費拡大政策による税収増加見込みの話題がない。いずれにしろ、日本経済の豊かさは今後の課題である。
本年もよろしくお願い致します。


製造業に於いて、業務請負から労働者派遣への転換が進んでいる。
製造業派遣が法律で認められて、この3月で1年を迎える。この3年間は、とりわけ不法・不正な派遣元業者を追いつめることに政府の政策重点が置かれている。請負要件を整えずに業務請負と称して労働者派遣を行っている業者を根絶したうえで、製造業派遣の全面解禁を実施しようとの(甘い)考えに基づくものだ。ただ、目先の行政指導で転換をしたところで、いずれにしてもその場シノギだから、そのしわ寄せはコストや品質不良となって発注元にのしかかってくる。中には労働者派遣に切り替えるとともに約23%の社会保険料等の負担分を派遣料金に上乗せして、将来リスクを回避する発注元も存在もするが、その数はまだまだ少ない。
発注元が、にわか仕立てに作成した「労働者派遣基本契約書」によって、出向(職安法違反)、直接雇用(職安法違反)、請負などが余計に混同したケースもある。大手有名企業でも多く存在している。とりあえず、労働局の職業安定課に言われるままに労働者派遣に切り替えようとした結果である。
もとより、口八丁手八丁だけで事業を行っている偽装請負業者ならば、この2?3年は労働者派遣に切り替えて、時が過ぎるのを待とうという次第である。彼等の言う「一期一会」は、「二度と会う機会はないから、適当にその場をしのぐ」類のものである。このような取引関係のもとに、発注元企業の安定した発展は存在しえない。そこには偽装請負業者に、発注元企業現場担当者が弱みを握られているとか、誘惑に乗せられてしまった状態が見受けられる。そして、これらの同一線上に、不祥事温存とかコンプライアンス・個別企業の社会的責任においてのマイナス面が存在し、ある日一挙に吹き出すこととなるのは最近よくみられる現象である。
良く考えてみれば、今から25年前、第二次オイルショックを契機に、日本の多くの製造業は「下請け企業と腐れ縁」を断ち切るために、工場閉鎖までした。今や偽装請負の経済的必要悪も無くなりつつあり、「腐れ縁」を断ち切ったうえで、グローバル化に向けての労働力確保方策が必要となった。


近年、安全・安心な社会の崩壊は日本経済の重要基盤を揺るがしつつある。昔のよき時代に比べて3倍にも達する刑法犯認知件数の警察庁関係の分析は、平成3年ごろからの不法滞在外国人急増、その次期平成14年ごろからの失業・雇用不安を原因としている。その対策として一般には、ニューヨーク市の「割れ窓理論」が有名ではあるが、その背後の街路清掃や早朝ごみ回収などを、失業対策事業として行ったことはほとんど知られていない。要するに失業・雇用不安の解消であった。警察官増員の話題もよく出るが、ニューヨークは警察だけでは手におえる状況ではなかった。日本も同様に警察だけで手におえるものではない。
ところで、身近なところの対策としてであるが、割れ窓、ごみ放置、落書きなどに狙われることから、犯罪多発する場所に共通点があるという。
要約するとこういうことだ。
共通するのは「入りやすく・みえにくい」場所。そこへ、ロープ1本、窓側の点灯だけでも大きな防止効果がある。最近の小学生傷害事件発生現場では、やはり、ごみ放置や落書き場所が存在する。今までの、いわゆる不審者をどこで見かけたかに関心を払っていたことは間違いだった。効果が出るのは、犯罪の発生しやすい場所を無くすこと。そうだからこそ様々な犯罪抑止運動が効果を発すると、現実的に考えることである。
ところで、落書きについては、百本ものスプレー缶を車に積み、広域に落書きをする少数の犯罪者の仕業である。被害に遭う場所は、「入りやすい」に加えて、市街地では「弱い者いじめ現象」となっている。銀行やデパートなどの、「ちょっと強いところ」に落書きは少ない。被害者は落書きを消せば「仕返しをされる」と思い込んでいるケースが多いので、被害者では落書きが消せない。落書き犯は、この足元を見て、「書かれた相手は、おとなしく泣き寝入りするだろう。」とタカをくくっている。だから、街ぐるみ一丸となって、落書きなど、一斉に対応する必要があるのだ。
以上が専門家の分析である。ところで、ひょっとすれば、これは企業内の不祥事にも共通することかもしれない。今にも増して、アングロサクソン系のグローバル社会が浸透して来れば、事業所内やその周辺地域での犯罪増加もさることながら、それにも増して従業員の業務遂行過程での犯罪増加が見込まれるからである。日本が既に選択し終えたグローバル化であるから、いまさらグローバル化を拒絶するわけにはいかないこともあり、犯罪発生率に歯止めのかかっている欧米での「犯罪機会論」(人は機会がなければ犯罪を起こさない)を学ぶ必要があるだろう。(事実、犯罪の原因は犯罪者の性格や境遇にあるとした「犯罪原因論」では効果が上がらなかった)。犯罪に限らず、精神論・道徳や愛を語るだけでは社会荒廃を追い越すことはできない。何らかの日本独自のパラダイム転換こそが、再び日本を豊かな国に導くのである。


特定社会保険労務士の制度は、個別労働紛争の合意調整のための専門的代理人として、平成19年4月1日から始まる。この制度は、事実上、個別労働紛争の合意調整分野においては、ほぼ弁護士と同じ権限・業務をもつもの、とまでの評価も出るくらいだ。今年6月17日には国家試験が実施される。この特定社会保険労務士についての関心が、個別企業の人事・総務の専門職や担当者の間で高まっている。やはり、書類作成が中心なせいか、街で開業している社会保険労務士では意外にも関心が少ない。個別企業の現役で社会保険労務士試験に合格した人たち、その数は6?7万人、の間で関心が高くなっているのだ。それも、あちらこちらでの現役部・課長での話題であることから、単なる資格マニアの人気ではなさそうだ。
この現象のひとつに、 「特定社会保険労務士完全攻略マニュアル」(日本法令)の書籍の売れ行きがある。主要都市の大型書店では平積み、B5判の大きさだから目立っている。労働省出身で日本の賃金問題研究の第一人者である学者の孫田良平先生も「単なる特定社労士用の知識に止らず、労働問題についての心得、労働相談労働紛議さらに日常の問題についても、本質、現象、形態として理想まで暗示され解く示唆を書かれていることは大へん類書にない特色と感じます。技術論を当然とするノウハウでなく、背後にある人間としての労使に配慮されていることにより、本書が広く読まれ実践されることを期待しています。」と、この本に向けてコメントを寄せた。
労働紛争解決といえば、もっぱら白黒の判定決着をつけることに重点を置き、労働判例の紹介本ばかりであるが、これでは個別企業内職場での「話し合い解決」手法には、あまり役に立たなかった。ところがこの本は国家資格の攻略本ではあるが、紛争の合意調整解決の法的裏付けも含めて、労働問題のあっせん機関の活用やあっせん解決ノウハウなど、これらを日本で初めて解説したものとなっているところに特徴がある。
日本の社会構造が、「労使を問わず、権利を主張する者は浮かばれ、黙っている者は底に沈む」へと近年の法体系変更によって整備されつつあることから、どうやら、ここに一般個別企業の人たちにも関心が高まっている理由があると思われる。
http://www.horei.co.jp/book/shinkan/shousai/17nenn/12/71967.htm