2007/04/10

第60号

職場秩序や社会を変化させる兆しのインテリジェンス:あれこれ
「労働力の仕入れ」ともいえる労働契約、これを締結する際において、勤務地を限定するのかしないのか、職種を限定するのかしないのか、労働時間を何時間とするのかなどを、明確にすることが、とても重要となり、合法性を確保する上で必要不可欠となって来た。これは昨年からの個々人と会社との労働紛争の増加とともに、何れの個別企業も対応せざるを得なくなった課題である。おりしも国会では、労働関係法案が6本、60年ぶりの大法制改革となっている。限定勤務制を導入しない限り、企業倒産させる以外に整理解雇は難しい。限定職種制を導入しない限り、不採算分野であっても雇用の責任は残る。労働時間を明記しなければ、週40時間分の賃金保障は当然のこととなる。使用者側の都合だけで労働条件を変化させたいのであれば、ほとんどのケース、その想定される行き先は、「逝去するまでの終身雇用」にならざるを得ない。ところが、このようなことは、個別企業でも日本経済でもありえないのはもちろんのことだ。ところが、多くの労働判例が逝去するまでの終身雇用を後押しするために利用可能となっており、そのいくつかは労働契約法として法制化される予定だ。とりわけ労働集約型の事業においては、これが人件費を直撃することになる。個別企業の雇用システムをグローバル時代に適したものに替えない限り、机上の採算は黒字でもトラブルにより累積赤字を抱え込んでしまう。個別企業が事業を組織的に運営しようと思えば、限定勤務地や限定職種でもって労働契約を明確にでもしておかない限り、いくら優秀な中間管理職を配置したとしても、トラブルの続発防止は不可能な時代になったのである。理論上はともかく実務上はそうならざるを得ない。トラブルが発生すれば、営業利益から損害賠償などを捻出するしかない。そんな社会制度に変化してきているので、個別企業が単独で社会に抵抗しても無駄なのである。さて、こうした矛盾事態を続けるのであれば、個別企業は、売り上げや営業利益の企業内争奪をめぐっての泥池地獄と化してしまう。とりわけこの数年間は、この矛盾解決に投入する総務人事部門担当者の能力が必要とされるのである。

4月1日から、改正雇用機会均等法で、男性にも同性同士にもセクハラが適用されることとなった。女性が男性に対して行うセクハラは、「目つきが嫌らしい、仕草がエロい、そばにいるだけで気持ち悪い」といったものが典型的で、女性が男性に抱き付いたりするようなセクハラは少ないのである。男性が女性に対して行う、「お前の仕草やその胸がエロいんだよなぁ」といったもの、の逆バージョンである。同性同士のセクハラは意外に認知されていない。女性が女性に対して、「お前の胸がエロいのよ」とか、「あんたの胸はぺちゃんこ!」といったものもセクハラである。男性が男性に対して、「真ん中の息子が、でかい」とか、「おかまホルぞ~」(同性愛者を揶揄するものではありません)も完全なセクハラである。もちろん、環境型セクハラでは、同性同士であっても腰、胸、お尻などに触り苦痛を感じさせる行為、同性同士の性的内容の情報を意図的継続的に流布すること、「ゲイやレズビアン」(概念を説明するための表現で差別目的はありません。ホモ&レズは差別用語として用いられる場合が通例とのこと)のヌードの図画や写真の意図的開示も含まれるのである。セクハラ加害者が、たとえ、「愛情に基づくものだ」と言い逃れようとしても、調査において LOVE、PORNO、HARASSMENT の三つが全く異なることをわきまえておれば、事件の解明は簡単である。要するに、自らの無能力さを補完するために、性的な言動を用いて、相手方を支配・服従させる意思表示を禁止したのである。そして、セクハラを防止する環境整備義務が事業主に課せられたのだ。それは、高付加価値製品や高水準サービスの日本経済を作り上げるためには必要不可欠となっているといった具合だ。また、セクハラで被害者に損害が生ずれば事業主が賠償しなければならない法律制度が定められたわけだ。このことは、単なる女性保護から質的に転換する制度に発展、すなわち、セクハラは労働問題を遥かに超えて社会問題と位置付ける方がよさそうだ。ところで、セクハラに関する調停制度が設けられたが、これを拒めば、その後に訴訟が提起されたとき、極めて不利な立場に立たされることは間違いない。セクハラ調停制度には、時効の中断で賃金請求権その他を保障し、目新しく訴訟手続の途中で訴訟をにらみながらの交渉の道も開いている。セクハラ行為者にも出頭を求めていることも、注目点である。

「全労連」関係者の偽装請負の追及トークや追及理論の内容が手にはいった。偽装請負については、「請負といいながら、実際には派遣先企業が労働者に対する業務指示をおこない、派遣先企業の労働者と混在して仕事をする状態」としている。使用する機械や材料も偽装請負業者が責任をもって調達することなどはないとして、「リース契約でやっている」、「材料は支給する」などの口実ですりぬける行為をしていることに対して、「それでは機械を動かす電気代は誰が払っているのか」とのトークで鋭く追及するとしている。ひとりあたりの時間単価を決めた契約の証拠や請求資料を入手すれば、それだけでも「偽装請負」との証明が容易だとしている。極めつけは、「ごまかしにくい問題として、業務指示を誰がおこなっているかがポイント」と現場からの告発を重視している。徳島県の光洋シーリングテクノの例では、面接の際に、「がんばれば正社員になれる」というような話をされた仲間もいたとして、こういうなかで、「ぐち」や「怒り」をまとめた仲間(オルグ=organizer)がいたとのことである。そして、「いくら怒りや要求があっても、それをまとめる人がいなければ闘いは組織できない」としている。インターネットでJMIU徳島地本にたどり着いて、組織化と闘いが準備されたと報告している。また、徳島労働局や徳島県に通報する方法で、光洋シーリングテクノに是正の圧力をかけた作戦の目的は、偽装請負会社と光洋シーリングテクノの契約が、ひとりあたり1時間1,700円であることから、「経費等を考えればボーナスや退職金は実現できない」といった由縁から、行政から圧力をかけ直雇いにさせ、賃金源資を確保をするためであったとのこと。法律違反の告発に重点はなかった。この作戦は、同じ徳島県の発光ダイオードで有名な日亜化学でも成功したとのことである。彼ら全労連は、合法か非合法かの判断をしたのではなく、驚くべきことに、「生産性や労働力調達の根幹からのアプローチ」を行っていたのである。彼らの論理展開は、単なる野党やレジスタンスではなかったのだ。このことは、我々総務人事部門からすれば、大いに教訓とすべき事柄を含んでいる。

特定社会保険労務士とは何?労使のあっせん制度(紛争調整委員会、労働委員会)や均等法の調停制度の代理人となることを可能とする、社会保険労務士向けの試験合格者が出そろった。社会保険労務士の試験合格者は10万人程ではないかと推測されるが、そのうち昨年度末までに5,000人ほどがこの試験に合格した。とはいっても、これは現代社会の権利義務関係が理解出来ているかどうかに重点が置かれ、けっして和解や調停の技術・技能を保有しているかどうかまでのチェックをする試験ではなかった。実際に、あっせん代理人として活躍できるには、ある程度の技術や技能と実務経験があって、特定社会保険労務士として登録を済ませておかなければならないのではあるが。これで、社会共同体の合理性を支える基盤となっている私的自治(契約の自由、統治の自由や義務など)、私的所有、過失責任主義の三つの考え方から著しく的がはずれた人物は不合格となり、紛争の表舞台から排除されるに至ったのだ。たとえ、社会保険労務士会の都道府県幹部、地元に接する支部会長、全国を束ねる連合会の幹部などであっても、容赦なく落第させられた。すなわち、旧来の世間体を重視する人物に資格が与えられなかったのである。この試験の実施で、社会保険労務士が人事労務管理の職業能力を持つ者と、保険事務手続き能力を持つ者とに区別が出来上がったのも、否めない事実だ。厚生労働省は、特定社会保険労務士の資格を持たない社会保険労務士を、紛争調整委員会のあっせんや調停の手続きなどから完全排除する行政方針を3月26日の通達で示した。労使紛争解決において、示談屋、事件屋、世間体や浪花節の解決を得意とした者たちは、社会保険労務士から基本的に排除され、いよいよ無資格の「闇の仕事人?」でしかなくなった。

ホリエモンの実刑判決は、コンプライアンスの試金石となった。有識者といわれる人であっても、コンプライアンスについて企業倫理とか法令遵守といった程度の理解であれば、この事件での判断を迷ったのだ。その点、弁護士などの法律家はブレる事が無かった。要するに、社会共同体の合理性(この場合の合理性とは道理のこと)に与える秩序破壊が問題となったのだ。一口に経済事件と言っても、カネボウや日興とは著しく内容が異なっているのだ。社会共同体の秩序破壊に対しては、極めて厳しく対処されるべきであって、これは個別企業内の秩序破壊に対する懲戒処分と同様なのである。千円を着服したとしても、業務上「着服」したことに重点が置かれ、処分がされなければならない、といった具合だ。

大手メガバンクは今後3~5年の間に中堅中小企業との取引を中止し貸付金の回収に入るとの信頼筋からの情報。回収の対象となる中堅中小企業は優良企業と言われている150万社とのことで、不良債権処理の時代に対象となった中小零細企業ではない。その金額は、あの不良債権処理の規模を大きく上回るとのこと。大手メガバンクからの金利引き上げ要求、元金返済要求、私募債発行による資金調達の誘惑、M&Aを勧誘などは、貸付金回収の兆候とのことだ。大手メガバンクの回収動機は、現在、中堅中小企業の貸付利率は2.0%~2.5%だが、大手メガバンクの収益目標は5%以上であるので、貸付金を回収して、アメリカの国債を買って5%の収益にしようといった具合だ。この経営課題を切り抜ける手法の成功と失敗は、人事管理にも大きな影響を及ぼす。資金さえ回れば企業組織の運営も、何とか回せるといった経営管理も、いよいよ終焉に近づいて来た。