2007/07/10

第63号

うつ病対策、現場からのインテリジェンス
うつ病の頻発は、日本の経済や産業が、「高付加価値製品や高水準サービス」の商品提供の事業戦略の足を引っ張り、その実態を示すバロメーターともなっている。このように結論付ける理由と、目前のうつ病対策を含めてのインテリジェンスを提供。
(うつ病早期発見・緊急措置シート:次のURLの左下からダウンロード可能)
http://www.soumubu.jp/download/

近頃は、職場の「うつ病」について一般マスコミでも取り上げられるようになった。
しかしながら、経営管理面からの、うつ病発見、未然防止とか、復帰プログラムといったものは、まだ皆無といった状況だ。
人事労務の専門紙誌のほとんどが、
「成果主義的な人事賃金制度や個人業績や部門の業績」を流行の枕言葉に、原因究明をしていないと言っても過言ではない。確かに、一般素人には受けが良いから、素人的発想をまかり通らせたほうが雑誌としては安泰なのである。
では、専門家であれば、何に気付かなければならないのか。
まずひとつは、産業心理学が発生した背景、すなわち、20世紀初め、当時のアメリカでは農業労働者が北部の工業地帯に移動して、工場で働くようになった時 代の歴史的経験である。始業時刻に出勤して分業・流れ作業などの慣れない仕事のため、多くの労働者がノイローゼを多発して、労働力の確保と品質の水準確保 (歩留まり)に極端な支障をきたしたのである。この時代の経済社会の抜本的発展は、科学的管理法(テーラーシステム)とか、フォーディズム(フォード生産 方式)が開発され定着したことにある。これを補完するために、産業心理学が生まれ、禁酒法(13年間で終わり)が試されたのである。
もうひとつの歴史が示すものは、旧ソヴィエトの経済発展である。農業国で工業後進国であったロシアとその周辺を、それなりの先進工業国にまで引き上げた実 績の基盤には、革命直後の戦時共産制脱却のために、レーニンがテーラーの開発した科学的管理法を導入し「ボルシェビキ小集団活動」を加味したところの НОТ(ノット)方式を開発定着させ、経済七ヵ年計画とか五ヵ年計画を実施したことにある。ここでの補完は、「ウォッカによる二日酔い」の徹底した対策で あった。余談ではあるが、日本国官僚が推し進めた、昭和大恐慌後の経済政策、満州国経済政策(岸信介、大平正芳)、戦後高度経済成長政策は、「ソヴィエト の経済〇ヵ年計画」の実績ノウハウと教訓が取り入れられたものである。(日本が資本主義国の中の社会主義経済といわれる由縁のひとつはここにある)。

さて、世間一般のうつ病対策といえば医師の話ばかり。ところが、ほとんどの医師というのは、一般の企業や職場の中でどのような実態になっているのかを、全 くもって知らないと言わざるを得ない。精神科ともなれば、医者も患者もまるで別世界の人たちと思えてしまう。これを、産業心理学と心理学の差異の如く分類 すれば、現在の医師の治療は「心理学」の手法といったようなもので、アカデミック?で現場無視なのである。加えて、大阪地方であれば、(小説)白い巨塔の ナニワ大学?の調子の治療手法や「医者は復帰支援など知ったことか!」のような悪夢を肌で、ヒシヒシ感じざるを得ない。

私どもは、昨年の春あたりからのうつ病頻発の事態から、うつ病関連の仕事をしているが、うつ病発生現場では、次のような共通点が存在するように考える。
(1)人海戦術単純労働で、まるで高校3年生が監督、高校1年生が作業といった職業教育ゼロの状態
(2)管理職は、OJTで育成されていない為、部下や新入社員を育成する術を知らない
  「言ってみて、やって見せて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」
  -日本帝国海軍 元帥 山本五十六- も、OJTの導入事例。
(3)Plan・Do・Check の積み重ねで仕事をしないから、工程管理は無きが如く、反省も向上も闇雲
(4)ミーティング、朝礼を行っていないから、組織的運営はなく、部下は業務より人目を気にするばかり
こういった組織的事業経営基盤が崩れていることから、相当多くの収益・生産・意欲・効率が空回りしており、そこへ意味も分からずに、成果主義?やコンピテンシー(流行終わり)が導入されて大混乱しているといったところだ。
なので、「高付加価値製品や高水準サービス」の商品提供の事業戦略の足を引っ張り、その実態を示すバロメーターともなっているとの結論に至ったのだ。

ここから、私どもは、うつ病対策と業務改善を併せ持った、センセーショナルな対策の実績を築いた。
導入基盤もないのに、ZD、TQC、Aタイム、コンピテンシーを流行のように追いかけ、経営が左前になった事例は山のようにあった。そこで、先ほど述べた20世紀初頭の成功事例他をもとに考案したのだ。
管理職の「うつ病発見チェックシート」作成=
(うつ病早期発見・緊急措置シート)http://www.soumubu.jp/download/
=発病2週間以内の早期発見
+本人への「うつ病疑い」通告と強い受診勧奨
+2週間以内の治療を産業医に要請
を進めた。1年半で、うつ病休職率6%が1.5%までダウンしてしまった企業も現れた。
ところが、この対策の狙いの本質は、うつ病発見をきっかけに、業務の計画的工程管理定着にあったのである。「発見チェック」に狙いは無かった。幸い、当該 企業は人件費に若干余裕が持てたので、OJT手法の定着は後日に回すことができたのであるが、全対策構想の片肺飛行でも、大きな実績が生まれた事例だ。

今や、日本国中、仕事が空回り、人生も空回り、努力や能力は成果に結びつかず、といったことも見られる(本質は現代社会共同体への適応不全)ことから、 「うつ病」がまん延しているのではないかと思われる。職場でも家庭でも、人目に振り回されて、うつ病やパニック症候群に陥っていると言えるのでもある。短 絡的対処で、人目を気にすることに現される日本的世間体になじんだとしても、世間体を拒否したとしても、グローバルに発展する未来社会での生存(社会共同 体への参加)は困難なのである。
だからこそ、先ほど述べたような人類の英知が歴史の中から生み出したところの、組織的事業基盤を、徹底して定着させることから始める必要があるのである。
現代の社会制度では、いわゆる「職人」は育成されることは無い。そのままでは、単純作業労働者ばかりを生み出し、この人たちが、個別企業や社会経済の足をひっぱるのである。
個別企業で、ノウハウ蓄積をしたいと思えば、組織的事業基盤を定着させたうえで、「知的所有権と経済活動にかかる文化経済学者たちの研究」から理論解明さ れたところの、ノウハウ蓄積プロセスの工学的実用化を目指すべきなのである。これこそ、近年、IT環境が整ったからこそ技術的に工学的実用化が可能になっ たのである。昔なら、大量印刷機とPaperと電話のセットで現代までが支えられていた如くである。
(ノウハウ蓄積プロセスに関するご質問はfree@soumubu.jpまで)

日本の発展過程を振り返ってみれば、
「昔の労災は怪我や死亡、今や労働不能や廃人!」という時代の変化。
人間はミスを犯すが、間違うから発見発明をする。
新たな事業を展開すれば、非効率な部分で、うつ病発生を覚悟しなければならない。「落ち目の会社に、うつ病は無関係!」の逆もまた真なりかもしれないのだ。
ところが、こういった視点まで掘り下げて自覚することが、うつ病発生・自殺防止をはかることが可能となり、その結果、誠の人道的立場も、初めて維持できるのである。
こう考えて創意工夫することこそが、個別企業と日本の経済や社会制度の壁を打ち破る発展に資することになるのである。



年金記録の「雇用主の証明?」
第三者委員会の基準が固まったが、これから、旧厚生官僚の巻き返しが出てくるのは当然で、具体的な巻き返しによる空洞化は、(筆者の30年余の経験から)
1.基準自体を「雇用主の証明」の意味を悪用(今から解説)
2.個々の水際での不支給決定では「人柄、態度」を捏造
といった方法で、巻き返しの突破口を開くものと、予想される。
このメルマガの先月号で、
≪社会保険法令の強制適用方針からすれば、話題となっている「領収書に代わるもの」とは何を指すのかを考えてみると、次のようなものが提題される。事業所 の雇用記録、健保組合の記録、雇用保険被保険者記録、給与明細、離職票(職安の公文書)、社員証、名刺、同僚の証言(報告書)、技能検定受検資格、児童手 当受給書類、厚生年金基金書類、給与振込み銀行通帳、源泉徴収票、社員旅行の写真、官公庁への技術者届などが考えられ、これらを総合的に判断するといった ものが考えられる≫と「雇用主の証明」以外、すなわち、被保険者資格有無を裏付ける証拠となる物を、著者は例示した。要は、従来から社会保険審査会で使わ れていた、「事実が真実であるとの論拠があり、その裏付けがあること」程度でよいのだ。
ところが、社会保険庁?あたりから、「雇用主の証明」といった言葉の表現句が、ことさら躍り出て来ていた。そもそも、厚生年金は保険料納付の有無にかかわ らず、加入期間と月例給与総額で支給されることになっており、これが米ソ対立を背景に、当時、日本政府が国民に約束したところの厚生年金保険法令に定める 強制適用という意味なのである。決して保険料強制徴収とは意味が違う。
したがって、「雇用主の証明」を強調する、その意味するところはこうなるのだ。
まず、「あの頭脳明晰な厚生官僚」が、事業主の中には、本人の給与から保険料を控除し、社会保険の加入手続きをせずにポケットに入れてしまった現場の事例 を、本当に?本当に?長期にわたって、想定出来なかったとでも言うのだろうか、といった疑問だ。現場の社会保険事務所は、今もなお、保険料未納企業の預金 等の調査発見能力は税務署より上位だと位置づけられている状態において。
たとえば、昭和61年当時は、都市部のある県では、常用パートタイマーは社会保険に加入させるなと、法令を無視した行政指導で厳格に排除していたから、事業主が届けても、社会保険事務所から拒否をされた。
一昔前は、保険料が払えない事業主に対して、被保険者の「社会保険脱退同意の連判状」を用意させ、国民健保・国民年金への切り替え、社会保険を脱退させる指導を、全国の社会保険事務所は行った。
社会保険事務所の調査においては調査官が、パートなど給料の安い労働者一人ひとりを個々に保険適用から排除をした歴史は、最近まで続いている。
偽装請負を繰り返す業務請負会社には、圧倒的に所得水準の低い労働者が集中しているせいか、社会保険事務所が、常用労働者の届出漏れ調査に入ることは皆無の現実だ。
こういった「さじ加減適用?」を全国の社会保険事務所でやっていたのだから、相当数の事業主が保険料の「さじ加減?」をしてもらったと、社会保険事務所調査官や専門家に「感謝の気持ち?」をしていた時代もあったのだ。
「強制適用の法律建前」の下であっても、それとは違う行政実態に、「雇用主の証明」といった表現句が相まると、それは、「口止めの為の、会社経営者への恫喝ではないか!」との受け止め方も出ているのだ。
さらに、歴代の社会保険審査官や審査会が「個人の虚偽請求を見破る能力」を、十分に培っていることからすれば、社会保険庁の上に立つ厚生官僚たちが、徹底 して、「年金記録が存在する人に限って救済!」といったことにこだわる理由が、年金支給額を少なくしようとする抵抗だと決めつけられても仕方がない。その 本音には、官僚たちが年金資金を不良債権化させてしまったとか、使い込んだといった釈明?でもしたいのだろうか? 年金記録事件の不備の大半を占める厚生 年金の穴あき部分は、本当に、厚生官僚たちは隠したいようだ。
いずれにしろ、総務・人事部門は、物事を様々な角度から、観察することが必要なのである。