2008/09/09

第77号

<コンテンツ>
二人続けて、内閣総理大臣突然の辞任、政変続きのイタリアもびっくり!?
個別企業をとりまく、経済・経営・労働市場の筆者の「占い」は次のとおりだ。
解説・労働契約法:労働契約の成立(第6条・第7条)と終了(退職)


¶二人続けて、内閣総理大臣突然の辞任、政変続きのイタリアもびっくり!?
 この背景にある経済や社会状況を、よく検討しておく必要がある。すなわち、目前に迫った世界的金融危機と経済不況期間の到来、日本社会はグローバル化=社会共同体のあり方も、「法手続主義」(何事も正当な手続きを必要とする法概念)を超えての変化が、この秋から巷にあふれることは間違いない。ところが誰しも、どういった具体的事象となって現れるかを確証できるシミュレーションを持ち得ないのである。ただひとついえることは、この数年間のコンプライアンス無視も含めた規制緩和や違法事業の横行といった状況の惰性では、個別企業は経営環境適応不全を起こしてしまうということである。アメリカ経済は金融危機、中国経済は(バブル崩壊ではなく)支払い遅延の不良債権化が問題となるのである。

¶個別企業をとりまく、経済・経営・労働市場の筆者の「占い」は次のとおりだ。
1.すでに、金融庁は無担保不良債権を、毎年度3月31日の年度末までに処分せよと言っている。その価格は何十億の債権でも、一律たったの壱千円だ。不良債権の絶対総額の多い銀行は、吸収・解散対象銀行となる。……こういったことを知らないで、いつまでも借金返済に苦しむ個別企業は、さほど生き残る必要がないと、これは誰もが思う時代が到来するのではないだろうか。これがマスコミの言う、焦げ付き担保の流動化、焦げ付き資産の流動化政策である。

2.日本政府がどのような政策を立てようと、日本経済は、「高付加価値製品&高水準サービス」商品の提供でしか、世界で生き残る道は無い。それも、国外の富裕層に直接販売をする方式が必要となる。商品を直送するか:訪日外国人販売となるかは販売テクニックの問題でしかない。(昔は韓国人が樋屋奇応丸を自国へ直送、今や中国人は正露丸やパンシロンを一杯詰めて帰国)。5億円以上の金融資産を持つ日本人は百数十万人程度と言われるが、同じ富裕層が、中国はその10倍と言われ、アジア・東欧・中東・南アメリカとなれば、その数は無限である。その多くが made in Japan を追い求めているのである。

3.日本は世界の金融経済で太刀打ちできる能力・実力はない。まして、金融経済に国籍は無いのである。ブルドックソース事件は、年間経常利益ほどの7億円を弁護士事務所に支払ってでも、企業防衛を果たそうとする日本文化の姿勢を世界に知らせた。これが、日本企業に対する投資にブレーキがかかり、東京はじめ日本への金融投資市場は、当分の間、活性化することもなくなった。日本の金融業界は海外へ進出することになるが、金融資金総額も小さく、まして軍事的背景のない金融資金など、世界で誰も相手にするわけがないからである。

4.「高付加価値製品&高水準サービス」商品の提供の目的に向けた、個別企業での人材確保(ただし、正社員採用ばかりが定石ではない)、人材育成(現行日本の教育では限界)、が重要となってくる。そういった意味での、「非正規労働者問題」である…方向は、「常用労働者」がキーポイントであり、(社員ではない)「常用労働者」とすることで、職人芸的技能と技術者を育てる施策が本命である。忠誠心や非効率温存のための正社員化を押し付けると、労働者は拒絶することに注意をする必要がある。

5.社会が変わり、文化が変わることから、それに適した自社の商品を、新商品に転換させることは定石である。新しい財貨やものの発見、新しい生産方式、新しい市場の開拓、新しい原材料・半製品の発見、新しい事業組織といった、経済理論の原点に立ち返る必要がある。究極的なものの考え方をすると、グローバル時代の到来とは、国内販売は国際販売のためのモニター市場の役割となるのでもある。

6.企業間競争が激しくなり、それまで蓄積した資金力を、(米国社会と同様)コンプライアンスに疎い会社は、労働者の公益通報や消費者の商品排斥によって、一挙に損害賠償や補償に回さざるを得なくなる。泣き寝入りは罪悪、正当な損害賠償請求!その基礎となる法律知識の宣伝・啓蒙や解決期間は、経済産業省や厚生労働省から、盛んに行われつつある。

7.「ひとつの大企業を育て、その組織力で事業を安定させる?」ことはできない。「大きな組織に所属すれば?」…、労働者の能力開発は頭打ち、自ずと年収も頭打ち、果ては年々収入が低下する法則が待っているのみだ。こういった社会経済環境に歯向かえば、個別企業は倒産、労働者はいずれ解雇となる。その時代の社会や経済の要望に合わせるためには、適切な事業転換と地域をひとまとめにした労働力移動が必要となる。そのための事業転換に関わる法整備、労働市場に関する法整備、労働紛争解決に関わる法整備などの基盤は、着々と整いつつある。その方向性世論づくりも経済産業省や厚生労働省あたりでは盛んである。

8.おそらく、政府や現社会制度からすれば、「セーフティーネットの網を張るから…」、これを活用することができない無能力者は救済されなくても良いといった発想になるであろう。社会制度や経済に無関心であれば、もちろん網目の間から落ちてしまうといったわけだ。日本人の数は救済される人数だけで十分とするとする「救済人数制限論」まで現れるかもしれない。「経済格差が学歴格差を生み、階級格差を作る」といった短絡思考は、救済人数制限論の裏返しでもある。アマルティア・センのケイパビリティーに似ているが、究極のセーフティーネットは北欧のような超高水準教育(デンマークやフィンランドを過去のメルマガで紹介)を施し、個人ごとの生産能力を高める教育をすることだとの考え方は、経済発展&豊かな日本を合わせて考える人たちの主流となるだろう。中国やインドの技術者1000人に匹敵する日本の技術者1人を育成できるかだ。

9.ところで、こういった新商品開発、企業間競争、事業転換、労働力移動、高水準教育は、時の政府や社会制度の変化を待つまでもなく、個別企業の中から、個別企業だけでも、十分に行なえることである。こういった個別企業の蓄積が、初めて政治に影響を与えることを歴史は物語っている。さて問題は、こういったことを成し遂げる逸材である人物を、逸材を、如何にして個別企業ごとに確保・育成するかである。高水準教育というものは、個々の事業所で来週からでも実施できるものだ。

10.社会の変化に伴い、民間経営者だけが事業の担い手になるとは限らない。今は世間の中に潜んでいるが、社会起業家と言われる逸材たちも、いよいよ日本でも活躍する時代が来る。NPO法人の流行とは異なり、「Everyone a chengemaker」との声が出て来るだろう。とはいえ、日本の中小・中堅企業は、事実上社会起業家と同様の役割を果たしていたり、経営者の報酬は社会起業家程度の収入かもしれないのである。

個別企業の作戦参謀である読者のあなたは、どのように「占い」ますか?時代を見据える力は、「まず、自らの考えを持つことから…」と言われる由縁である。



¶解説・労働契約法:労働契約の成立(第6条・第7条)と終了(退職)

 この第6条は、日本で初めて労働契約の成立について定めた法律条文である。労働契約法成立までは民法第623条に雇用契約の成立を定め、労働基準法13条、15条及び93条で、いわゆる公共の利益のために制限をかけているといった状況であったため、雇用契約と労働契約の区別も曖昧となっていた。そもそも、民法の規定だけであれば、「雇用に関する、申し込みの意思表示と承諾の意思表示の合致によって契約が成立する」との想定しかしておらず、労働の現場に適応しないものであった。
すなわち、(労働)契約締結においては、就職インタビュー、面接、採用に至るまでの交渉過程で、だんだんに合意が形成されて行くのは現実である。意思表示の合致の時点以前には、何らの債権債務も存在せず、合致時点以降は債権債務関係が存在するというような単純なものでもない。また退職をしても、秘密保持義務であるとか、競業禁止義務などは雇用関係が終了したからといって、こういった義務が消滅するものではない。したがって、契約締結前の段階から移行完了後に至る連続的な一連のプロセスを念頭において、この第6条が定められることになったのである。

第6条条文は、裁判官が判決を作成する際に用いる要件事実という手法(労働基準法の場合は構成要件)の通説を導入した。すなわち、
 「使用者に使用されて労働者が労働」すること、
 「これに対して使用者が賃金を支払うこと」、このことに関して、
 「労働者と使用者が合意すること」
が要件事実である。この3つの要件事実のうち、ひとつでも欠ければ労働契約が成立したことにはならない。たとえば、労働はするがお金を払わないとか、労働しなくてもお金を払うとか、労働者の代わりに友人が合意するとか、使用者の代わりに単なる従業員が合意したケースなどは、労働契約が成立したことにならない。

したがって、解雇や雇止めの紛争が生じたときには、最初に必ず、この3つの要件事実を確認して労働契約が成立しているかどうかを確かめなければならないのである。労働契約が成立していないのに、労働契約の解除である解雇あるいは退職は存在し得ないからだ。反対に労働契約が成立しておれば、使用者の都合で労働者が働けない場合は、その賃金を支払わなければならない(民法536条の危険負担の法理)ことになるのである。

解雇と言われるには、先ほどの雇用契約成立のための3つの要件事実にあって、
 「使用者が労働契約終了と主張した事実」があり、
 契約終了の合意がされていないこと
が補足される必要がある。解雇とは労働契約を将来に向かって解約する使用者側の一方的意思表示であるから、労働者及び使用者の合意がなされるとか、労働者からの一方的意思表示は解雇とはならない。

解雇権濫用とならないのは、今述べた一連の解雇に関する要件事実に加えて、労働契約法第16条に定める要件事実、すなわち
 解雇理由の客観性を基礎づける事実、
 解雇理由の合理性を基礎づける事実、
 解雇は社会通念上相当であること
の3つの要件事実が、使用者側から立証されなければならないことになるのである。

もとより労働契約の期間が定められている場合は、その契約満了期日が到来することによって契約が終了するから、解雇の要件事実が存在し得ることはない。すなわち、雇止めが有効となる要件事実が整わない場合は、形式は雇止めでもその実態によっては解雇同様に取り扱われて、解雇無効との判断が下される。雇止めが有効となる要件事実は、労働契約が成立の3つの要件事実に加えて、およそ
 「臨時的又は補助的業務を基礎づける事実」
 「労働契約の更新回数が少ないこと」
 「労働契約が通算して3年を超えていないこと」
 「更新手続の実態が存在したことを基礎づける事実」
 「労働者の継続雇用期待を排除したことを基礎づける事実」
 「労働者の継続雇用期待の防止をしたことを基礎づける事実」
といったことになる。
労働契約に関して紛争が生じた場合には、その7割方を要件事実でもって、今述べたような論理展開で判断して行くことになる。

ところで、注意しなければならないのは、労働基準法の適用範囲は事業所に使用される者を念頭においているが、労働契約法の適用範囲は第2条で、使用者に使用され賃金を支払われる労働者と使用する労働者に対して賃金を支払う者を念頭においているため、業務委託、外注、請負労働、インデペンデントなどの名称の如何に関わらず、第2条の定義に該当すれば、労働契約法の適用となる。就労場所も何所でもかまわない。
(第2条の適用範囲や定義については、後日のメルマガで解説)

第7条は、労働契約に際しての労働条件の提示についての規定である。就業規則が、労働契約の内容になるための、2つの要件が定められている。
 ひとつは、「合理的な労働条件が定められている就業規則」、
 2つ目は、「労働者に周知させていた場合」である。

合理的な:とは、労働契約法の9条から13条の内容である。また、これとは別に就業規則の変更にあたって注意しなければならない事柄は、労働者に対して誠実説明義務、合意納得努力義務の内容程度である。加えて、従業員代表者選出に不備がある場合は、誠実説明義務などと相まって、原則的には合理的と判定されないこととなる。

周知させていた:とは、既に、書面、パソコンで公開するとか、就業場所にいつでも張り付けまたは吊り下げられて何時でも見られる状態にあることをいう。こういったことが使用者から立証されなければならないことになっている。

第7条の但し書きは、就業規則よりも、労働者にとって良い条件は有効とする規定である。第12条は、就業規則よりも低い労働条件の労働契約内容は無効として、就業規則を適応させることを言っている。就業規則を上回る労働条件が、優先されるべきことは、労働契約施行前どおりの取り扱いとなる。