2008/11/04

第79号

<コンテンツ>
《改正》労働者派遣法:取舵いっぱい:法案要綱
株価暴落は、いつ下げ止まるのか
81年前の昭和大恐慌のような状況?
昭和大恐慌から実体経済が立ち直ったのは
資源のない日本経済にあっては
個別企業での、もう少し具体的な話
個別企業に秩序を、柱を一本通して構築することが第一に重要!
(労働契約法の解説は休み)


¶《改正》労働者派遣法:取舵いっぱい:法案要綱
厚労省は、“派遣制度のあり方の根幹にかかわる問題にメスを加える”考えだ。
労働者派遣法改正の法案要綱が発表された。施行日は来年、平成21年10月1日からとしていることは、現時点から着々と行政指導の範囲で促進することを示している。改正法案要綱の内容は、マスコミなどで報道されている問題点を超え、規制緩和や新自由主義の名のもとに人材派遣会社が不安定雇用を助長しての「荒稼ぎ」と疑われていた利益部分を、ことごとく消滅させる内容だ。平成11年の派遣業規制緩和、そのずっと以前の状態にまで落ち着かせる狙い。
結束力の弱い派遣業者団体だから、これから人材派遣会社などはビジネスモデルとマーケティングの変更を余儀なくされる。すなわち、専門的技術や専門的技能の裏付けがあるアウトソーシングや、請負要件を満たした業務請負業に転換することを迫られるのだ。派遣業の規制は世界先進国の時流でもある。高付加価値製品や高水準サービス商品などを提供する労働力の裏付けを整備しての経済立国を目指す日本戦略でもあるようだ。個別企業の労働力政策は、一挙に変化する。
改正要綱の 主なもの は次の通り。
1.派遣先に厚生労働大臣が、賃金を低下させることなく労働契約の申込をするよう勧告するようになる。勧告に反することも自由ではあるが、ハローワークの恩恵が制限されることは間違いない。勧告するとしている対象は、港湾、建設、警備の禁止業務の派遣の場合、派遣会社以外の派遣の場合、派遣期間制限の規定に違反した派遣の場合、派遣法の脱法行為の恐れがある派遣の場合である。本人の訴えは、すぐさま派遣先の直雇用となる。
2.いわゆる対象業務26にあって、定年又は65歳まで終身雇用の派遣労働者を除いて、3年を超える期間を継続している派遣労働者に対しては、派遣会社が労働契約の申込をしなければならないこととなる。(そもそも、4年目突入の有期契約は終身雇用の扱い)。
3.派遣労働者を、履歴書や面接などで特定することが一部で認められる。ただし、その部分は、「期間を定めないで雇用される労働者」、すなわち定年又は65歳まで終身雇用する派遣労働者に限られる。実際には、いわゆる対象業務26のうちの、ほんの一部である。もちろんこの場合、年齢、又は性別を理由としての差別的取扱いを禁止されている。事実上の事前面接禁止。
4.派遣先は、特殊な場合を除き1年を経過する期間内に、以前働いていた労働者を再び派遣で受け入れられないこととなる。すなわち、同一人物を忙しいシーズンだけに来てもらうような派遣契約は出来なくなる。もちろん、不法行為となれば、非派遣期間の収入損害を賠償することにもなる。
5.派遣法違反をしていた派遣先に対して、あくまで行政処分または司法上の処分を行う前に指導又は助言をした上で、今は、是正勧告をすることになっているが、これからは指導や助言を要しないこととなる。すなわち、突然の是正命令となる。フライングや“言われてから改善”はできなくなる。
6.労災事故が起こった場合は、派遣先にも、必要な報告、文書の提出、出頭を命ずることとなる。派遣先事業場への立ち入り、関係者の質問、帳簿書類などの検査も実施する。不法行為を形成するに至るので、派遣先は、完璧に安全配慮義務が問われることとなる。
7.派遣会社が派遣実績総時間のうち“特定派遣先”に対して80%を超えて労働者派遣することが禁止される。80%以下となるよう特定の派遣先以外への新規開拓ができなければ、勧告の後、派遣事業の取り消しや廃止命令を受けることとなる。企業の第2人事部的な派遣会社は、猶予期間の後、廃業を迫られる。
8.日雇い労働者の形態で労働者派遣することが禁止となる。この法案要綱でいう日雇いとは、日々改めて雇用する者又は30日以内の期間を定めて雇用する者を指す。例えば今日と明日に来て欲しいと雇用すれば、これは2日間の「期間雇用」である。ただし、日雇い労働者の派遣は行政指導によって、現在も事実上実施することが難しくなっており、特殊な業務を除いて採算が合わなくなっている。日雇い派遣が許可される特殊な業務は、1号、2号、5号、6号、7号、8号、9号、10号、11号、12号、13号、16号、17号、18号、19号、20号、23号、25号の18個との見通しが強い。
9.人材派遣業会社は、事業所ごとにスタッフの賃金と派遣料金の差額であるマージン率の平均を発表させるとしている。多くの派遣会社が平均的な派遣料金を公表しているなかで、マージン率はスタッフの平均賃金を公表することとなる。派遣労働者を雇用する場合、募集や面接の段階で、賃金の見込額だけでなく、労働条件その他の待遇の説明も義務となる。こうなると、労働者の賃金・労働条件を向上確保し、半面に人材派遣業者の利益率を一方的に低下制限することにつながって行く。いくつかの地方自治体では、これが既に入札条件となっているところもある。加えて、派遣労働者の賃金を、派遣対象業務と同じ業務を行う派遣先社員の賃金相場を下回らないよう、賃金決定努力を課せられる。これによって、派遣会社のマーケットが縮小に向かうことが考えられる。
10.派遣労働者の希望に応じて、定年又は65歳まで終身雇用すること、職業紹介許可を持つ派遣元は就職紹介をすること、教育訓練を施すなどで終身雇用を推進することの3つの措置を、派遣会社は努力しなければならなくなる。努力措置といえども、1ヵ月から3ヵ月程度の細切れ雇用契約を反復更新することで成り立っている非技能系パートタイマーの派遣を規制することとなる。
11.紹介予定派遣を行う場合、派遣する前に、社員入社就職の業務内容、賃金その他の労働条件などを定めておかなければならないこととした。就職紹介を予定して派遣されている労働者の労働条件が、土壇場で変更されることによるトラブルを防ぐ狙いがある。
12.新たに一般派遣業の許可基準として、派遣業の取り消しや廃止命令を受けた法人の当時の執行役員、取締役その他支配力を有していた者が、取り消しや廃止命令から5年を経過していなければならないこととなった。5年を経過すれば事実上業界から手を引くことになる。これは、かのクリスタルグループの企業が、摘発を受ける度に新しい法人に作り替え処分を免れた。そのグループ企業の数が約70社も存在していたことからの教訓である。また、行政手続法を持ち出したのは、厚生労働大臣からの取り消しや廃止命令が行われる前に、自ら廃止届を提出して処分を免れようとする企業に対する防止策である。


¶株価暴落は、いつ下げ止まるのか
巷に関心を呼び起こすようなマスコミ報道が流れている。だが、実のところは、現在の経済状況について、専門家筋は何らかの「恐慌」状態に突入することは間違いないと見ている。
3年内までに株暴落と実体経済破たんの神出鬼没が繰り返され、落ちきってから、初めて成長の可能性が生まれるとするのが、経済学の常識だ。
この疑いのない見通しに対して、要するに
A.経済政策や金融対策を次々と実施しようとの人たちと、
B.「人間のばかげた行為」が原因だから落ちるところまで落ちろ!とする人たち
の二手に意見が分かれているのが根本のようだ。ただし、このA/B二手の人たちそれぞれは、心理状態むきだしで原則を貫くばかりでは政権や地位が脅かされることになるから、何らかの激変緩和政策を打ち出すことともなっている。「緊急経済対策」などは、その典型的なものである。
だとしても、今の経済状況の分析は、
経済専門家でも見通しがつかず、「これから先が分からない」と言い、
経済素人は、何が起こっているのか見当がつかず、「ワケが分からない」状態に陥り、
何かの専門性をもつ評論家は、専門家特有の心理的不安から、的外れながらも何か専門的なことを口にするにすぎないのだ。
町内の評論家も平穏な心を求めて、その人が得意とする趣味と専門分野が、「時代分析の話によく現れる」といった、心理的逃避現象や「我田引水」までが横行、これに陥った文学部出身のマスコミ記者も続出。そこまで人心も混乱しているのだ。


¶81年前の昭和大恐慌のような状況?
は再来しないとの話がある。確かに、それはその通り当然だ。当時の日本は農業中心、国内向け消費財産業は皆無に等しく、生産財産業革命が一段落した明治経済の延長線であった。当時は、今の日本の経済構造とは異なっていたのである。だから、当時の現象は、都市での経済破たんが農業経済を破壊、直に飢餓や貧困をもたらし、株式大暴落の金融危機、被害は地方や農村の保証人への取り立てとなって現われたのである。
今回の恐慌での現象は、
既に始まっている金融資産の大幅目減り、政府が緊急金融政策を実施する後の大幅増税、国民の長期借金返済生活である。恐慌に因る一発クラッシュ惨事は分散され神出鬼没の形態には出来たものの、今から始まる恐慌の展開は、まだまだ現象の予測不能なのである。本質は恐慌、これから繰りひろげられる現代的現象は81年前とは大きく異なるというわけだ。
ひょっとして恐慌という経済現象を学んだことのない人にとっては、この単なる現象だけで、天地のヒックリ返る思いになるのは間違いない。また、旧東側諸国の計画経済学者は、こぞって、「経済恐慌!だから何? 独占(寡占)資本主義が破たんして、独占資本を救うために国家が介入する“国家独占資本主義”になるだけだ! それは歴史の必然!」と、極めて冷ややかな反応ばかりである。
まるで社会現象が、“一喜一憂と冷淡”が織りなす下世話な世相にもなりかねない。


¶昭和大恐慌から実体経済が立ち直ったのは
昭和12年ごろの恐慌から8年後であった。それは、洋服、洋食、洗面器、弁当箱、キャベツ、リンゴなど、それまで存在しなかった内需向け消費財の商品が大量に出回ることによって、実態経済が回復していったのである。実に、日本の「社会」制度を左右する法律とか、「社会」保障の着想・第一歩は、戦前の、この時期だったのである。金融経済面での回復は戦後しばらくまでなされなかった。実態経済が回復の途端、昭和12年から、戦時計画経済に切り換えたため、成長は小幅にとどまり続けた。
戦後の経済民主化による輸出立国、人口増加政策、自動車、住宅政策、家電を柱とする高度経済成長政策に至ったのである。その後に経済をバブルさせ、はじかせ、不良債権の穴埋めをし、今の世界的な金融危機となり、経済恐慌を迎えることとなったのである。
従って、
今からの恐慌後に実体経済を立ち直らせるには、今までになかった新商品を、今度は世界的に売り出すことが肝要となるのである。歴史的所産を引き継ぐ都道府県の豊かで多様な地域性は経済民主主義の要となる。こういった社会の動きを、個別企業は見ていれば浮上できる。
決め手は、とにかく、直接・間接を問わず衣食住の生活関連商品マーケットが軸だ。
原則的には経済学者のシュウペンターが発見した新商品理論
 1.新しい財貨、新しい物の発見
 2.新しい生産方式の導入
 3.新しい市場の開拓
 4.新しい原材料、半製品の発見
 5.新しい(社内&社外)組織の実現
加えて、先進国や外国人客に売り込むには、文化経済に裏打ちされた新商品
 A.他社他店にない特色を出すこと
 B.取扱商品の絞り込み、販売地域の絞り込み
 C.他社とは変わった技術(技能ではない)を売ること
 D.高水準のサービス(非セルフ・非効率)を売ること
が、個別企業ごとで必要となるのだ。


¶資源のない日本経済にあっては
このような新商品(例:高付加価値製品&高水準サービス商品)を提供するための労働力の育成・確保に、成功のすべてがかかっている。
ということは、労働基準法(戦前は工場法)、職業安定法、健康保険や厚生年金その他の、昭和大恐慌からの脱却のために、戦後の高度経済成長政策を支えるために着想・制定されて来た法律も、時代に即することができるように、体系から根本的に見直す必要があることになるのだ。もちろん、商法をはじめとした会社法も然り。憲法や民法が変わることはないが、そこから派生した民事法の類は、改めて着想改訂されることとなる。労働契約法は出来たばかりで玉虫色であるので、そのまま。派遣法は、ここに来て、制度問題にメスが加えられる。
中小企業向け融資に不可欠とされる個人保証人制度も、その廃止が望まれる民事法のひとつだ。恐慌の時期だからこそ、個別企業の経営体力を蓄えるためにも、融資返済の3年間元本棚上げといった法律制定も着想(徳政令?)されるべきなのだ。
例えば、注目の年金制度(文化・価値観の変化を招く)
そもそも厚生年金は昭和17年当時、退職金が充実していないことを背景として、退職手切れ金の性格をもって制度化した。国民年金は、米ソ対立を背景に、日本国民の西側確保のため、財源確保の見通しの無いまま、無理強いで作った社会保障であった。いずれも今、既に破たん状態。そこに、この10月15日にアメリカ政府は確定拠出年金(401K)充実の規制改革を要求。このアメリカの「年次改革要望書」、実は在日アメリカ商工会議所の綿密なマーケティング調査が基本になっている。だから、今は悪評の401Kも、ここ数年内に資産が目減り仕切った所(実体は御破算)で新たな401Kとして再出発する可能性も高くなってくるという具合だ。
ただし、
従前からの新自由主義の名のもとでの規制緩和、これは単なる昔の焼き直しの発想であったし、失敗続きの原因でもあったことから、どうも新しい時代に即するという評価は、長い歴史に立ち返るほどに、今後はあり得えない代物とされる。


¶個別企業での、もう少し具体的な話
新自由主義の名のもとでの規制緩和とは、経済や社会秩序を維持する制度(法律など)が存在しても、制度を無視してやり放題=新自由といったもの。その展開パターンは、個人さえ納得すれば良いとする個人の新自由とか、未必の故意まがいの自己責任といった方式が実態であった。
この展開パターンに対して、どの法律制度も、誰もがストップをかけなかったことから、経済や社会の秩序が崩壊するとともに、経済構造がイビツになり → ゆがみが生じ → ストレスがかかり → 亀裂が入り、一挙に経済が崩壊したと分析し、教訓とすることだ。
よって、再び時代にあった経済や社会の秩序を、
“柱を1本通して構築”することが、最重要課題となるのだ。これは、個別企業の秩序、組織の構成、受注販売方式、生産方式、業務遂行・運営方式での話であり、政府や社会が行ってくれるというものではない。バブル崩壊後に慣れ親しんだところの、出来上がった企業秩序を長持ちさせるための調整具合とか妥協延命ではないのだ。もちろん、政府官僚の行って来た、社会主義経済模倣の計画経済でもない。

¶個別企業に秩序を、柱を1本通して構築することが第一に重要!
経営資源(人、物、金、情報、ノウハウ)を個別企業の外壁や間取りの如く、新しい時代へと組み直す、その実行は、今年内は二の次となるのだ。
企業は個人プレーではなく団体戦、その中で
総務部門は個別企業の経営情報を集積・加工し、経営戦略や方針草案を提起する舵取りセクション。
人事部門は個別企業を運転するのに必要な人材・労働力を確保・育成・配置するセクションなのある。