2009/10/06

第90号

<コンテンツ>
CO2=25%削減のグローバル的ビジネスチャンス
銀行借入の「返済猶予」の施策は、猫に小判?
退職(離職)後の健康保険料などの「支払猶予」はどうなる?
政権交替、フロンティアな政権運営に未来をかけた
臨時国会に派遣法改正案を提出する予定
労働裁判 裁判官は示談屋に変身か?
【書評】『中国貧困絶望工場』『菜根譚(さいこんたん)』


CO2=25%削減のグローバル的ビジネスチャンス
9月22日に開かれた国連気候変動首脳会合で鳩山由紀夫首相が演説、途上国支援の原則として4つのポイントを示した。
(1)わが国を含む先進国による追加的な官民資金での貢献
(2)途上国の排出削減について測定、報告、検証可能な形でのルール作り
(3)資金の使途の透明性、実効性確保のための国際システム構築
(4)低炭素技術の移転に絡んだ知的所有権の保護
これにより、日本の環境保護関連産業、すなわち、ばい煙防止装置や脱硫装置プラント産業、自然エネルギー(太陽、風、波など)産業、農地開発・かんがい用水路工事その他の発展途上国援助の方向が定まった。日本と途上国との“2国間協定”であれば、途上国援助にかかるプラントや工事の受注を日本企業が独占することが可能となる。OECD:経済協力開発機構の援助であっても、日本の環境技術でもってすれば、相当のものを受注することが可能である。排出削減ルール、資金使途の透明性、知的所有権が制度化されれば、途上国側の資金の不透明な雲隠れも抑制され、工事代金へと還元されるといった仕組みだ。
中堅中小企業であっても、JICA:国際協力機構を通じれば、こういった国際貢献としての進出は十分可能なのである。個別企業の総務人事部門では、「高付加価値製品&高水準サービス」の人材確保を今から計画する必要がある。そのための個別企業内の予算配分や政府に対する景気対策助成金を企画することも重要である。
とかく、人事問題といえば、受動的な削減の話ばかりであるが、この分野については、積極的な起業の話が中心になりそうだ。


銀行借入の「返済猶予」の施策は、猫に小判?
金融担当大臣の、「返済猶予の提言」に対して、マスコミ関係や多くの評論家の素人発言には呆れる。財務大臣の論評は次元の異なる内容でもある。とりわけ、「貸付金」とか「返済猶予」などの表面的語句の解釈に、素人的にこだわるばかりで、内容が独り歩き、真意も確かめることなく、国語辞典程度の論議が繰り返されているに至っている。経済専門家からすれば、それなりの経済政策も、「猫に小判なのか?」と投槍的にもなる。
日本の中小企業の金融機関の融資というのは、8割方の本質は「資本注入」といったものだ。高度経済成長政策を始めるにあたって、当時の商工中金、中小金融公庫、国民金融公庫主導によって、大手工場のすそ野である中小企業に対し、民間金融機関からの資本注入をして、産業構造の補完を図ったのが中小企業向け金融の始まりである。株式投資では配当に不安があるとの金融機関への配慮から、利息回収の形式をとったにすぎない。だから、融資を完済しても改めて融資を開始、以後も延々と銀行との付き合いが繰り返され、その利息(配当)で金融機関は生き延びて来たのである。中堅中小企業経営者が銀行に盾突くことが出来ないのは、大株主だからである。その後、護送船団方式により、その基本的構造は今も続いている。
【銀行の経営が立ち行かなくなる?】
というが、先ほど説明した通り、利息を回収している限り、銀行収益としては極めて安定的なのである。元本棚上げが不本意な中小企業は、一生懸命元本を返してから、改めて融資を開始してもらえば良いだけだ。銀行経営が不安に…の裏には、手間のかかる中小企業向け貸付手続であり、利息も2%程度では採算も合わないから、アメリカをはじめ外国の国債を買えば利息は4%が間違いないから、中小企業向けの貸付資金を回収して、外国の国債買い付けに資金投入したいとの計画があるからだ。ここには、都銀・大手地銀と、地銀・信用金庫・信用組合との経営計画に目論見の差があるのは歴然としている。
【不良債権が発生するのでは?】
と、ある人は言うが、それは実態経済からかけ離れた、(架空の)理屈である。住宅ローンも然りである。中小企業の経営が立ち行かなくなり、不良債権が次々と発生しつつあり、裁判所が競売価格を引き下げ、これが今や、資産デフレを引き起こす最大要因になりつつあるのだ。マスコミ関係者の多くが、こういった視点からの指摘が出来ないのは、文学部出身の記者ばかりが多すぎるからである。
【10月9日予定の金融庁の法案は?】
具体的にはどのようなものが出て来るかわからない。が、妥当なところは、
(1)中小企業のうち、希望者に対して3年以内の元本棚上げ、利息だけの返済
(2)銀行が拒否する「対等な返済条件変更」を、不良債権扱いすることの禁止
(3)不良債権化(現行:利息支払が3ヵ月以上停止)防止には、利息棚上げ
(4)住宅ローンは、住宅金融支援機構(旧:住宅金融公庫)主導での不良債権化の防止
その後に、不良債権化しそうな不動産は、景気が回復してから担保不動産を任意売却させて回収した方が、銀行としても有利なのである。


退職(離職)後の健康保険料などの「支払猶予」はどうなる?
といったことは、意外と知られていない。職を失ったことによる、市民税(正確には住民税)、国民健康保険、国民年金の支払いが不安となり、トラブルの原因にもなる。
【住民税】:減免措置があるが年齢や扶養家族によりバラバラ、妻1人子1人の中高年なら前年収入300万以下程度は無税になるようだ。それ以上なら減額、所得が多いと減免は無い。離職票(雇用保険受給者証)か雇用保険受給者証を持って市役所へ。
【国民健康保険】:保険料決定に所得割部分があり、これが免除となる。1ヵ月1万数千円程度(自治体によって差がある)の保険料になるようだ。健康保険の傷病手当を受給しないのなら国民健康保険への切り替えでも治療費負担は同じだ。離職票(雇用保険受給者証)か雇用保険受給者証を持って、離職後20日以内に市役所へ行くと円滑処理できる。
【国民年金】:減額と免除は、早く行かないと期限切れがある。年金手帳と離職票(雇用保険受給者証)を持って市役所か社会保険事務所へ。減免措置をしておけば、保険料は1人14,600円/月。減免措置をしておけば、基礎年金国庫負担2分の1を納付したことになる。数年後に加算額上乗せで正規分の追納も出来る。
【失業保険】:正確には雇用保険の失業給付である。離職者が、離職票に退職の旨を記入したことを根拠に退職が成立するわけではない。各種保険手続きによって労働契約の有無の決定はされない。解雇無効の訴訟を提起した訴状の写しがあれば、失業保険は受給できるから注意が必要だ。病気になれば雇用保険の傷病手当がもらえる。
「返済猶予の提言」と比べ、個々人の規模は小さいが、こういった猶予施策は、ニュースにならないところで行われている。旧厚生省(戦前の内務省系)の「言ってきた人だけに対応を」といった姿勢が、まだ残っている現われだ。


政権交替、フロンティアな政権運営に未来をかけた
ものが無党派層の意思である。だとしても、具体的な政策にまで提案が及ぶかといえば、まだまだ無党派と言われる人たちは、そこまで慣れ親しんでいいない。
労働分野に限っていえば、従来、厚生労働省本省の官僚に企業や労働組合が接触して、その圧力でもって本省各課の課長代理などに、政策の企画立案をしてもらっていたのだ。誰かの紹介なしに行くのが怖いから、行政から目を付けられると怖いから、“議員さん”にお願いすることが流行していた。でも、実のところは腹さえ決めれば、電話で十分なこともあり、会社や労組の名刺を持って本省を訪ねることもできたのだが……。私も、要するに代理人として、電話もするし訪ねることもして、阪神大震災の雇用調整助成金や失業給付、あっせん代理人(特定社会保険労務士)派遣禁止などを実現したことがある。トヨタ自工・販売&トヨタ労連の事業外みなし労働、関東百貨店業界の3ヵ月変形労働制、といったところだ。話題の労働者派遣は、昭和50年代の中ごろに某全国労組が提案:労働省が運命をかけて労働政策の転換をして今日に至ったものだ。要するに、政治家や官僚では、そこまでの政策立案アイディアは持ちきれないのである。今の官僚があわてて作ると、旧来の(社会主義:○ヵ年計画と同じような)発想だから、補正予算の7000億が執行停止になるのも当然なのだ。やはり現場の実態からの着想がものをいうのだ。
さて、今度の政権は、企業その他からは、何処へ政策提言を持っていけば良いのか調べてみた。どうやら労働問題は、衆議院第二議員会館(〒100-8982 千代田区永田町2-1-2)細川律夫:厚生労働副大臣あての書簡が有効なようだ。
そこで私も、日本のこれからの産業育成と雇用創出・人材育成の場を創造する観点から、とりわけ、「高付加価値製品と高水準サービス」の人材育成のための雇用調整助成金の使い道を立案(厚労省10/01提出)してみた。
1.現在の雇用調整助成金の一定部分は、解雇・失業を防止するあまり、衰退産業のマイナス方向の延命策効果や、衰退産業での労働者滞留が懸念されている。中小企業であれば助成額「賃金の10分の9」ともなると、日本経済の育成とか財源の有効な使い道からすれば疑念が生じるかもしれない。また、労働者の国家資格その他の取得やoff-JT訓練は、新産業・事業分野育成を想定して実施されていないことから、これらの手法では日本経済育成に役立っているとは言い切れない。まして、産業育成とか人材育成は、大手企業や大手事業所からすそ野に広がって行くといった時代や社会経済構成ではなくなった。
2.これからの日本を支える産業・事業分野の人材確保や育成のために、雇用調整助成金を活用することが重要である。この産業・事業分野の常用労働者を採用すれば、1ヵ月10万円を2年間助成することで、「一人前」への教育育成を促し、労働条件を改善し、有能な労働者の確保育成に資することができる。
3.助成対象は、日本の「ものづくり」とか「匠」や「文化経済」を支えることが出来る産業・事業分野の職種を確保しようとする事業所や事業場等である。
(ア)中小製造業の「ものづくり」や「匠」の事業所
(イ)介護分野(グループホーム、教育制度を確立した介護施設)の事業所
(ウ)安全安心事業分野(教育制度を確立した中小警備業者)の事業場
(エ)建築物・マンション等維持分野(教育制度を確立したビルメンテナンス業)の事業場
(オ)省エネ・エコ事業分野(ソフト部門人材育成思考を持つ事業所)
(カ)アニメ芸術分野(人材育成思考を持つ事業場)
(キ)料理飲食加工分野(料亭その他の教育制度を持つ料理飲食業)の事業所
(ク)音楽家分野(芸術育成と週3日常用雇用の事業場)
などが挙げられる。
4.医療、農林水産業は、日本を支える産業・事業分野としては期待されるところであるが、前項と同じに雇用調整助成金を支給するには、今少しの検討を要する。例えば、開業医は、「健康保険適用」の看板を掲げた厚生労働省のフランチャイズチェーン化とされている実態がある。農業も「農協システム」に組み込まれた下請け制度化が実態として残り、漁業も「漁協システム」に組み込まれて然り、林業に至っては産業そのものとして壊滅状態にあると思われる。したがって、闇雲に助成金投入をした場合の効果は不明であって、産業育成や人材育成に資するとは限らない。したがって、医療、農林水産業は、こういった分野の改革とともに考えるべきものである。
5.助成金受給事業所(場)等は、都道府県単位に受給アドバイザーを配置し、目的に適う事業所(場)等を訪問開拓し支給事業所(場)等を掘り起こし、支給審査ノウハウを蓄積する方法(大まかな支給審査基準)が、積極的な産業育成と雇用・人材育成の場を創造するに有効であると思われる。支給期間は、採用者1人当たり2年間を区切りとし、採用者の離職率が20%又は離職者が5人を超える事業所(場)等は、その時点で支給対象事業所(場)等から排除することで、教育育成に関心のない事業主には支給しない。
6.受給アドバイザーは2人ペアで活動を行ない、ひとりは地元情報をよく知る職業安定所職員、もうひとりは民間でマーケティングなどを知る者を配置する。たとえば、(財)産業雇用安定センターの準備・設立当初は「職安と民間のペア」が行われたから、ある程度のノウハウ蓄積はあるものと思われる。ただし、(財)産業雇用安定センターと助成金の使い道は目的が異なるので、大手企業の人事部門などからの出向を一律に配置するわけにはいかない。また、「緊急人材育成・就職支援基金」により(財)産業雇用安定センターが受託したものとも目的が異なる。
7.助成金の1ヵ月当たり10万円は、事業主を経由するも採用者に賃金等の上積みがされるものとし、労働契約に反映させるものとする。支給期間は2年ではあるが、その間に労働基準法、労働契約法に違反で告訴や民事処分を受けた事業主には、違反該当労働者が在籍するまでの助成とし、悪質な事業主には返還をさせる。
8.初年度は、ある程度の予算額を計画確保するも追加予算を認めることとし、次年度からは受給アドバイザーによる受給事業所(場)等の掘り起こし状況や見通しに基づいて予算計画を立てることとする。決して、「予算取り完全消化合戦」には巻き込まれず、無理に予算枠を消化しようとすることもしない。有効な予算消化と計画確保のためには、受給アドバイザーその他のメンバーによる全国研修の実施、あるいは受給事業所(場)等の掘り起こしや支給審査ノウハウを蓄積の全国研究集会を充実させ、積極的な産業育成と雇用・人材育成の場を創造する観点から、地方任せ、担当者任せによる無駄遣いを抑制する。
以上 - といったものである。
読者のみなさんのご意見やご批判を募集する。
加えて、皆さんからも、様々な政策提言をお願いする。


臨時国会に派遣法改正案を提出する予定
と政府筋の話である。法案要綱の政府案は出ていないようであるが、民主・社民・国民新党3党合意の派遣法改正案の概要は次の通りであった。
1)派遣労働者の保護を法律の名称に盛り込む
2)原則として日雇い派遣禁止
3)直接雇用みなし規定
すなわち、禁止業務派遣、無許可・無届業者派遣、期間制限を超えた派遣、その他違法行為を行った派遣を直接雇用とみなす
4)就業の実態に応じ、社員との均等待遇の派遣労働条件
5)派遣元からの、派遣労働者や派遣先への通知義務事項を拡大
6)マージン率等の、HP等への公開
7)未払賃金や社会保険未払いでの派遣先の連帯責任
8)グループ企業への派遣は単一の派遣先とみなす
9)原則として製造業派遣は禁止
10)罰則の最高額を300万円から3億円に引上
これらに対して、実態にそぐわないとの意見が根強いが、今の政府が「チームで論議」する手法をとっていることから、参議院で可決される瞬間まで結果は分からない。
雇用政策全体から判断すると、日雇い派遣や製造業派遣は原則禁止となり、いわゆる「新自由主義」的な派遣会社の営業方式は大きく規制されることになると思われる。すなわち、「派遣法や職安法違反をしても摘発されない」と豪語するに至った行政指導の甘さ(職員の人手不足との言い訳も含め)の時代は、再び訪れることがないということだ。


労働裁判 裁判官は示談屋に変身か?
正確な統計資料があるわけではないが、各方面から流入して来る情報によると、労働関係の裁判は、とにかく裁判官が示談を強硬に進めている。その傾向は、この夏以降と推測できる。
日本の裁判制度において、示談や取引は、「裁判上の和解」の中に含まれる。端的にいえば、裁判上の和解とは、
第一に訴訟を取り下げることであり、
第二には、そのための条件を整備すること、
と言えるのだ。この傾向は、労働事件だけではなく、損保関係の事故にかかる事件、金銭トラブルの事件でも、和解?を裁判官が強硬に持ちかけるとのことである。
はっきり言えることは、うなぎ登りとなっている裁判件数に対して、これを裁判官が処理をすれば裁判官として出世出来るといった制度に原因があるのだ。一つの事件の判決を書くのに、おそらく4時間程度は必要となる。ところが、とにかく和解だろうが判決だろうが、処理できたかどうかが成績となるシステムなのだから、成績をあげるには効率の良い和解を目指すしかないのだ。「判決文を書くのが邪魔くさい」とは質的に悪化している。その方法は解雇事件の場合、ほぼ全国共通の強硬パターンのようである。
(1)労働者に対しては、
「確かに、貴方の主張はよく分かる。ところが、仮に金銭解決するとすれば、何年分で納得出来るか、考えてください。次回期日までの宿題です」と密室で話す。
(2)他方、会社に対しては、
「会社が勝てると思いますか。負けたらどうするのですか。勝算は薄いですよ。ところで話は変わりますが、仮に金銭解決するとすれば、会社は何年分出せますか」と。これも密室で裁判官は話を持ちかける。弁護士を代理人として立てていない場合、裁判官が直接、社長に電話して来る場合もあった。
(3)労使双方ほとんどの場合、弁護士を代理人として
立てている。すると、日頃から培っている法曹界(裁判官・検事・弁護士)の、資格者のみの独占業務であるから、『暗に明』に密室がシガラミとともに形成され、「偉大な裁判官」からの和解の持ちかけが行われるのである。
(4)それは裁判所では
労働事件を取り扱う裁判官は限られていることから、「あの(弁護士)先生は変わっている」と偏見を持たれないために、弁護士の多くは萎縮してしまう。こんなことだから、若手の裁判官の中には、(成績優秀?もあってか?)弁護士をなめてかかる「若僧」まで出る始末なのだ。こういった悪循環が、裁判所の中では渦巻いている。なので、弁護士を雇わず、本人が期日に裁判所に来るとなると、裁判官からすれば、それは非常事態となるかもしれないのだ。
(5)強硬パターンに話を戻せば、
仮の話を繰り返し、裁判官が敗訴ポイントの懸念を示し、示談額の接点が見えた途端、仮の話が突然、和解の話に化けてしまうのである。
(6)裁判官からすれば、
「会社があれこれ理由を並べるよりも、さっさと金を出して和解してくれ。要は、金があるでしょ」といった具合が、あちらこちらで目に付く。こんな裁判官は、不安をあおろうとし、足元を伺うような発言を繰り返し、とにかく若手の出世欲系?裁判官はシツコイ。
加えて、これを悪用する労働側(示談目当ての雑駁な訴状とか)も湧き出てきている。
これでは、真理がどこにあるのか探求するといった「裁判の精神はどこやら!」なのだ。裁判を起されたら、会社側はとにかく損をするといった、自由平等とは程遠い世間体の論理が、またもや浮上しそうである。
厚生労働省が、個別労働紛争解決制度(紛争調整委員会、府県労働委員会のいくつか)を平成13年に創設・順次に制度改善すれば、これに“負けじ”と法曹界が労働審判制度を、あわてて平成18年に制度化した。これを受けて、労働行政は監督署や総合労働相談コーナーを総動員、他方の法曹界は弁護士を通じ裁判所を挙げて事件獲得と調停促進、この両者が労働事件の「あっせん」とか「調停」での解決制度陣地を奪いあっている構図が見えて来る。民間人の感覚からすれば、この両方の公務員が、当事者の利益を片隅に追いやって、熾烈な数字と法制度陣地争いをしているようにしか、見受けられないのである。
私の診るところはこうだ!
【労働行政側】には、「真の(創造的)和解」を成立させるだけの素質と理論を備えた、相談員、あっせん委員、あっせん代理人の不足が目立ち、
【法曹界や裁判所】にあっては、なによりも「対決システムに陥った裁判制度」を元に養成された裁判官や代理人に、調停をさせるとしても、「真の(創造的)和解」を取仕切れる社会的訓練をどう施すかの課題が目立つのである。
封建時代の如く武力・暴力に訴え出ることは少ないかもしれないが、「真の(創造的)和解」とか「再分配の正義」の視点を追い求めない限り、「法廷での正義(目には目を、歯には歯を)」では、表面的に解決したとしても、紛争当事者の「心に怨念」が残ってしまうのである。これも現代社会共同体の意思である。


【書評】『中国貧困絶望工場』『菜根譚(さいこんたん)』
『中国貧困絶望工場』:日経BP社(本体 2,2000円+税)は、
元フィナンシャルタイムズの女性記者が書いた中国工場地帯の実態報告である。中国輸出産品が、どのような実態で製造され、偽造され、汚染を広めているかは、中国との付き合いを避けて通れないグローバル展開にとっては、非常に考えさせられるインテリジェンス情報である。また、品質・製造・労働をめぐる社会的責任が、如何に「監査人制度」によって覆い被さることとなり、それに対抗して偽造がはびこり、挙げ句には、「監査人代行コンサルタントが=実は偽造請負人」に化けている実態が浮き彫りにされている。その社会システムに一歩踏み込み、この社会システムがある限り、中国の工場が高付加価値製品製造には絶望的であると結論づけている。なぜ中国では、そうなってしまったのかを考えさせられるインテリジェンス情報である。日本国内での、「他山の石」となるであろう。元の題名は、「The China Price」である。

『菜根譚(さいこんたん)』:日本能率協会(本体 1,500円+税)は、
元々は中国の明代の書物であるが、日本では流行・座右の書とする人も多い。最近、改革解放政策で、日本から逆輸入されていた、「日本風菜根譚」ではあるが、中国国内の寺院から清朝時代のものが発見され、毛沢東の愛読書であったことも知れわたったこともあってか、現代中国人の編集・解説で出版しなおされたものが、この書籍である。従って、従来日本で出版されていた項目編集とは大いに異なり、これが現代中国大陸人の間で受け止められているトレンドかと、改めて中国社会なるものを考えさせられるインテリジェンス情報である。この本は、処世術に類するものであって、いわゆる儒教・仏教・道教の混合思想に因る。欧米西欧社会はキリスト教思想と言われるものはフォーマルな話で、実は旧約聖書の中の「箴言」の題名での処世術(著者はソロモン王?)が存在し、インフォーマルな世間体を形成しているが、それと似かよった位置づけになるのが、新しく出版された菜根譚である。おそらく、東南アジア全域に共通性があると思われる。ところで、中国のフォーマルな話とは一体何であるのか、私には知識偏重型刹那的マルクス主義?と思えるのだが、実のところは不明である。中国大陸の権力順位は、1番:人民解放軍、2番:地元暴力団、3番:共産党組織、4番:各地の人民政府であることは間違いない。この構図を理解した上で中国と付き合うことが大切なのだが、この本は極めて現代中国を理解するに有用である。