2009/11/10

第91号

<コンテンツ>
産業構造が、「ものづくり」産業資本に急旋回
そして、「一層の金融資本に頼る社会構造転換」を拒否
借り入れ:返済猶予法案が
社会の変動時期だからと言って
そのための労働力育成と確保が
経営環境の根本的変化に対応することを
言わずと知れた最大級の雇用対策は
厚生労働省の官僚や地方事務官などの政治運動


産業構造が、「ものづくり」産業資本に急旋回
するから、重要視される労働力や能力開発の方向性が変わることは確実となった。とりわけ大手企業は、大局的にはトヨタや日本郵便のように経営幹部が切り替えられているが、部長クラスまでの管理職の差し替えが行われるであろう。出向させていた幹部や冷や飯を食わされていた幹部などを呼び戻すこともあり得る。金融資本とは、「それは水増しした輸血の流れの如く」にまで発展したものだが、そのもとで活躍する能力と、産業資本のもとで活躍する能力が異なるからである。
そしていま、多額の資本・投資が金融資本は止めて、産業資本に振り向けられている。大々的資金投入が、世界では、昨年6月から金融資本向けは止められているからだ。一部に報道されるような、金融資本の再活発化といった揺り戻しは、少なくとも数十年先まで起こることはない。同じ福沢諭吉の顔を持った紙切れは金融機関から湧いてくるけれど、金融資本なのか産業資本なのかは、(使い道さえ診れば区別できるが)一般普通人には判らない。

【過去の産業資本の活躍】
第二次世界大戦後、一斉に資本・投資が産業資本に向かった。産業資本の活躍に力が入ったのは、終戦直後の社会構造転換から30年余の期間であった。日本の場合では、傾斜生産から始まり、高度経済成長政策が進められ、金融機関の護送船団方式を使い、その資金は中堅中小企業(産業資本の集合体)にまでも至った。その資金は、今もって中小企業への恒常的資金貸付として資本金状態となっている、それが名残である。

【昨年までの金融資本の活躍】
その後、1980(昭和55)年代からは、資本・投資が金融資本に振り向けられた。巷では、「投資利回り」が話題となり、「Payできるかどうか、Payできれば、Go!」といったことが、新規事業とか、受注・販売するか否かの判断基準となった。大手企業の新事業も、「5億円投入すれば本気、それ未満の投資は、お試しかアンテナ」などの判断基準も生まれた。金融機関の貸付が消費者金融、貸金業者に回っただけではない。資本・投資が証券、保険業界に回っただけでもない。製造業メーカーも金融資本を扱っていたし、真似をして失敗したメーカーも続出した。経済のサービス化と言われた。この時点から、日本のマーケティング能力水準は停滞し始めた。
金融資本は「利回り資本」であっただけでなく、様々な「証券化」が法律上可能となるや、一斉に架空金融(信用取引)が進行したのである。こういった時代も通して、バブル経済が認知されるようになり、金融資本向け資金投入が昨年6月から止められ、それから金融危機が発生、経済危機にと至ったのである。経済のグローバル化と言われた。この間の、「利回りさえよければ」といった発想が、個別企業の経営管理能力の衰退を早めた。


そして、「一層の金融資本に頼る社会構造転換」を拒否
したのが、日本の社会共同体の意識であり、結果、8月30日の政権交代となったのであり、その意味からも、産業構造が「ものづくり」の産業資本に転換されることは確実なのである。
世界の主要な動きも、「ものづくり」に転換の道を歩んでおり、金融機関をはじめとする資本・投資が、産業資本に振り向けられることとなった。第一級エピソードは、イギリス最大手金融機関の香港上海銀行頭取が、産業資本への投資に向けて、ロンドンから香港に居を変えたとの情報だ。
アメリカも日本も、金融資本に対し過度の投資を振り向けすぎて、産業その他の空洞化が極度に進むに至っていた経過から、経済政策の柱は、両国とも空洞化を新産業で穴埋めしようということになっている、若しくは、なりつつあるのだ。もちろん、グリーンニューディールやCO2削減といった政策も穴埋めの意味を含んで進められている。


借り入れ:返済猶予法案が
国会に提出されているが、それに先立ち、三井住友、みずほ、三菱東京UFJの大手3銀行が、年末の返済条件変更対応や住宅ローン返済対応に、窓口を開設するとかの準備をしていることが報道された(8日日曜12時のNHKニュース)。金融庁の水面下の動き(緊急雇用対策も含め)は勿論であるが、金融機関の側の動きも、明らかに転換してきていることは確かだ。日本最大の納税法人である日本郵便の動きでも、とりわけ中堅中小企業融資へのアプローチが注目の的でもある。


社会の変動時期だからと言って
落ち着いて状況を静観することが大切とする時点は過ぎた。まして、社長も社員も会社内に閉じこもっていては、受注・販売減少で → することが無くなって → 社内が雑談に明け暮れていると → マスコミやテレビの話題に翻弄されて → 全員がネガティブになって行くのは当然なのである。だからと言って、闇雲に外へ出れば、体力消耗するばかりで → 心身共、さらにネガティブを促進することになるのだ。
この際、『産業構造が「ものづくり」に転換する』と、安心して、腹を決める!ことが大切なのだ。「高付加価値製品」を商品とする会社は、製品の技術や製造技能に力を入れることであり、そのための人づくりである。「高水準サービス」を商品とする会社は、サービス提供の技術やサービス技能に力を入れることであり、そのための人づくりである。
昔、産業資本の活躍期、某鉄鋼メーカーが販売するときに出荷許可証を発行していたが、そういった30年前の、「作ったものを売ってやる」式の発想ではない。経済がサービス化したというのは、それは金融資本の「利回り」のための道具にされた側面はあるが、これからの産業資本の育成には、ここで学んで蓄積したノウハウを道具にする必要もあるのだ。
さて、その舞台は世界市場に向けての、
「高付加価値製品&高水準サービス商品」の提供(原則は直送)にある。多国籍展開をするときは、産業資本であれば進出先の国家に体よく没収されることは覚悟しなければならない、金融資本であれば、とりあえず目先は、回転はするかもしれないが。


そのための労働力育成と確保が
今からの重要な仕事となる。日本社会全体でいえば、今まで確保していた優秀な労働力を、倒産などで分散させ、再起不能にさせているのが現状である。したがって、頭を切り替えて、社内で育成し直すこと、巷から拾い集めることなのである。日本文化や文化経済が優勢を誇っているうちに。
フィンランドは、もともと林業と造船業の構造不況の国であったが、当時29歳の文部大臣が、小学生からの教育を組みかえることによって、今日の産業構造の転換に成功し、豊かな国になった。子供たちの「能力底上げ」を徹底(子供のエリート教育を排除)することにより、有能な人材を高率で育成することに成功したのだ。
今後の総務・人事部門の仕事は、こういったことに重点がおかれるようになるのは間違いない。その戦略目的で、業務改善・業務推進のシステム、人事評価システムや項目、人事制度の構造、職業能力育成方法などが一挙に作り直されることになる。旧来の方式は道具として使えても、戦略目的が変更されたから、その道具の使い道が変わることになるのだ。画一的業務推進、相対的人事評価、受動的人事制度、そのためであった職業能力育成方法は消されることとなる。
現に、従来の枠組みにハマった、総務・人事部門の出版物や著作は激減している。法律解釈、判例研究、人事制度情報の出版物を読んだところで、個別企業のマーケティングや経営管理には役立たない。人事トラブル発生の時のテクニックの参考にはなっても、生き生きとした業務推進や、受注活動には役立たないのである。売れない本は出版しないとの出版社の職業感覚は鋭いからこそ、破たんした従来の理屈の著作出版物は出さないし、売れ筋ではない出版物も出さないのである。事実、金融資本に翻弄される出版社のビジネス書では、読者が今よく知る・納得する内容に絞って書いてくれと、出版社が著作内容を制限するそうだ。(私も、内容制限に反抗して書いていると執筆依頼は減り、打ち合わせ段階で話は消えた)。とはいっても、従来の蓄積の上に発明されるのだが。
もっと平たい話をすると、高度経済成長までは繊維産業が華やかであり、高度経済成長期は家電産業に転換し、金融資本利回りの道具として経済のサービス化と今日の様々な外食やサービス産業へと、移り変わってきたのだ。……ここで共通する事柄は、数多くの非熟練女性を吸収する産業であったことと、非熟練女性を管理・取りまとめる能力の高い中堅中小企業の経営者の存在なのである。それは、今後も、ひとつのキーポイントだ。


経営環境の根本的変化に対応することを
すなわち『産業構造が「ものづくり」に転換する』との経営戦略を定めたとすれば、そのための戦術目的である様々な経営システムを築いていけば良いことである。如何に早く新経営戦略を定めるかの話である。
このメルマガを書いている最中、2日連続でNTT光電話が故障(夕刻から)、NTTは通信不通が多発するが、翌日にしか復旧工事に来ない、加えて事故関連の技術情報交換システムも存在しないというから、こんな(発展途上国並み?)身近な問題でも、戦略と戦術を変更しなければ解決しないのだ。ICT関連の各種コンピューターシステムの事故は、利回り優先の金融資本に蝕まれていて、すなわち資本回転の計算期末(例えば年度末)に追われて不具合を起こす製品でも納入してしまう現実、まだまだ未知の分野での技術開発をするわけでもなく労働力削減をする現実、こういったことから脱出するには、ここでも戦略と戦術が重要なのだ。
ICT関連の話を例に出したが、そういう意味での産業革命が、世界各国の政権交代で推進されようとしている。一般国民が、政治や政権のニュースに関心を寄せているのは、生活というよりも、「産業革命の進行に取り残されないように?」を肌で感じているからと見た方が妥当である。旧来の金融資本利回り時代の発想、古くは高度経済成長時代の思い出でもって、社会や経済の目先分析をしていては、(多くのTVコメンテーターのように)今どこを向いているのか判らなくなる。18世紀の産業革命は約100年間であったが、今回は数十年と言われている。


言わずと知れた最大級の雇用対策は、
<1>労働基準法や労働契約法を、現行の範囲内で行政機関や司法機関あげて、徹底して規制強化をする方法である。軽く200万人ぐらいは雇用吸収出来る。一部の経済学者はそう主張しているし、こういった少数の経済学者たちの主張によって、「ホワイトカラー・エグゼンプション」法案(年収400万以上は残業手当なし法)が沈没させられた事実もあるのだ。派遣村の有名人物が国家戦略局の顧問になった程度の甘い話とは違う。
<2>整理解雇の四要件は訴訟提起を背景に効力が出ているにすぎないのが現実であるが、これを行政機関が徹底すれば、(筆者の勘どころでは)9割方の解雇事案(雇止め?)がストップする。
<3>トヨタ系列では、期間工や派遣社員の増加では来春の解雇ができないとして、現下の一時期は系列会社の社員にサービス残業をさせているとの情報だ。これによく似た事情が現時点のサービス残業の特徴であるが、中堅中小の個別企業が所定時間分の仕事がなくて、雇用調整助成金に目移りしていることを前提にすれば、「ここに監督署がメスを入れれば、数十万人の雇用が生まれる」と労働組合の一部が昨年まで主張していたサービス残業をなくせば100万人の雇用が増えるとの話はもう消えてしまった経済状況である。
<4>年次有給休暇の取得、育児休業や介護休業の取得、これらを政府機関あげてPRすれば、人手不足を生み出すことは間違いない。とりわけ大手企業では有給休暇取得が、今もって出世の妨げになるとの実態からすれば、順次、雇用量の増加が見込まれるのである。
<5>そして、究極の雇用対策として、就職中であろうが失業中(ただし、安易な失業防止?)であろうが、収入に差を設けない制度の提案まで存在する。が、あくまで社会構造自体の転換で初めて可能との学説とのことだが。
とはいっても、肝心の労働者たちに、このような最大級の雇用対策を求める意識は小さく、こういった雇用対策を本気で呼びかけようとする労働組合も極めて少ないのが現実である。これについて、旧来からの左系論客は、貧すれば鈍する式に、格差のために労働者には、「無知、野蛮化、道徳的退廃」が、はびこっているにすぎないと反論する。
はたまた、今度は、そこには具体性がないとの再反論も生み出し、数千年来の論議に突入している。
要するに、前向きに、積極的に、生きようとする意思を持った人たちは、産業構造転換や個別企業の活躍に将来を託していると思われる状況なのだ。だから、誰にも託すことが出来ないとなった場合に限って、資本投下量にリンクして労働組合運動が復活する可能性も考えられる、それは、終戦直後の産業資本が活躍したころのように。
新政権の緊急雇用対策は、緊急性と方向性を示したものの、
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kinkyukoyou/
(厚労省は10月30日全国職業安定部長等会議を開催)
雇用課題の把握は、まだまだこれからのようで、具体策となっていない。雇用維持・創出政策は“貧弱”とまで評価されるとか、旧労働省のシンクタンクや人材とか、現場の専門家の英知の集約が待たれるところだ。
なお、厚労省は、意見・苦情の集計結果と現時点での対応等をとりまとめ、週1回発表していく予定とのことである。(厚生労働省に対する意見・苦情の集計報告について)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000029vz.html
政策提言その他、「ご意見・ご要望」の、入力フォーム
http://www.mhlw.go.jp/iken/bosyu_voice.html



厚生労働省の官僚や地方事務官などの政治運動
といった話題は、マスコミをはじめ、役人の中でもタブーである。しかし、連日報道される官僚動向や政府陳情取りまとめといったニュースは、表面的な話だけでは理解出来ない。実際は、官僚や有力地方事務官での政党影響力のつばぜりあいが続いているのだ。政治運動と言っても国家公務員であるから、党員であることが分かれば、表向き解雇される危険性があるから、政党の後援会活動とか(社会党では)党員協になっていた。
1980(昭和55)年代までは、旧労働省内部では田中派や三木派の自民党後援会が強かった。それに対抗する形で、今でも共産党の後援会が非常に強い。旧厚生省では、今でいう自民党の橋本派・津島派が活躍、厚生労働省に再編されてからは、それが一層有力となった。津島派といえば、財政投融資の名目で大蔵省に押さえられていた、約140兆円の年金資金を厚生労働省の自由な財源に取り戻した派閥であり、今でもそれを自慢している。
これを資金運用として株式などに投資を行ない、年金制度の構造的不備(昭和34年の国民皆年金の時点から支払い不能)を回避しようとしたが失敗に終わったのが年金改革である。この失敗尻拭いの責任追及を回避するため、官僚たちの「長妻大臣への抵抗」といった側面があるようだ。もとより支払不能だから年金記録はずさんが当たり前でもあったのだ。
共産党後援会は、厚労省内部で組織的に動くことはあり得ないが、共産党本部の政策的呼びかけには、個々末端の後援会員が同調して、草の根で陰に陽に行動する。共産党後援会は監督署、安定所、社保事務所に「しんぶん赤旗」が散在するにしても、後援会員の人物特定は難しい。法務省や裁判所あたりに進出していた公明党(創価学会の政治部門窓口)ではあるが、過日8月30日の衆議院選挙後は沈静して、厚労省内部に進出するどころではないようだ。旧社会党の後援組織である「党員協」は、社会党系労働組合の幹部であったからこその団体であったから、今事実上は壊滅状態である。民主党の後援組織は、小選挙区制を前提とした国会議員を中心に形成されていることから、厚労省内部を動かすようなものにはなっていない。また、民主党は国会議員によって政策が千差万別、「みんな独自で元気が良い!」のが民主党の取り柄といったところなので、厚労省内部でまとまる可能性はないと見て良い。
いわゆる55年体制といった、政党やその関係組織に所属していたことでのステータスが、この8月30日からは崩壊の一途をたどっていることは間違いない。しかし、それとは違ったネットワークの政治運動が生まれて来るのも当然と見ておくべきである、そもそもが、政権政治の中心直属舞台(ステージ)であるから…。