2010/07/06

第99号

<コンテンツ>
日本経済、益々の落ち込み、
従来と違う新事業の立ち上げ!
旧態依然の金融資本投下型の事業形態
政府や金融資本投下の事業が前提の教育訓練
緊急! 管理部門での能力養成の一例
育児休業法改正を取り巻く論理


日本経済、益々の落ち込み、
大手企業の景況判断は大幅プラスとなったが、中小企業は依然と低迷している。ところが、所詮、景況判断とは雰囲気的な景気見通しだから、現代では意味もない。意味があった時代とは、政府や金融資本が大量の資本を投下し続けていた時代の判断基準だった。景気が持ち直した状況を示す具体的ニュース報道には至っていない。海外向けの輸出が好調といっても利益が出ているわけではなく、話題の新規事業といっても未だ軌道に乗らず、海外向けや新規事業の利益が経済全体に波及し、豊かさを増すまでには、まだまだ遠い道のりなのである。
正社員の減少・解雇は進行し続けでおり、一向に歯止めがかかっていない。ハローワークでのパート求人も、時給は下がり続け、交通費もカットといったものが急増している。
たとえ利益が出たといっても、契約社員制度、常用パートなどでもって、即戦力の労働者を確保するとともに、人材育成段階の労働者の育成費用をカットして、総額人件費を抑えた結果である。先日、契約社員の活用目的のヒアリング記事が某専門誌に掲載されていたが、ヒアリング7社すべてが、前述のような目的を答えている(運輸、卸売、ホテル、百貨店、情報通信、書店、コールセンター)。また社員の「会社の命運」を掲げての、(非効率な)サービス残業による「会社決算の帳尻合わせ」も、未だ流行している。これでは、将来の日本経済を支える人材育成基盤が先細りしてしまい、ある日突然、契約社員・社員の年齢と共に、個別企業が収縮してしまう危険がある。


従来と違う新事業の立ち上げ!
これしか日本経済を豊かに再生する道はない。マーケティングの視点から解説すれば、世界に住む人々と、海外から来る人を相手に、Made in Japanの商品提供をするしかないのだ。あくまで対象は「人々」である。
中国経済のような現代版「朝貢貿易」とか、世界の開発途上地域経済であっても、商品提供はあくまでも個人消費者を焦点(個人買手への最終供給方式)に絞って取引をすることが重要だ。そのことで政治的な損を防ぐことができるのだ。数千年の歴史を持つイタリア地方とか、世界に漕ぎ出すバイキングの北欧のマーケティング視点を見習う必要がある。
その重要なポイントは、高付加価値製品と高水準サービスの商品提供だ。これを日本国内で活発にする体制を抜本的に再構築・再創造する必要があるのだ。アメリカ方式のマーケティングは、(最終的には)米軍の軍事力の縮小が=取引の縁の切れ目の論理展開であることを、よく認識しておく必要がある。(世界的な三大経営管理論は、アメリカ、北欧、イタリアの三つである)。東に萎縮し続けるアメリカ、西に現代版朝貢貿易の中国、その立ち位置で豊かになる方法を考えなければならないのだ。海賊などの無法者も国際的情報ICT機関を所持する時代である。


旧態依然の金融資本投下型の事業形態
を、まだまだ真似ているようなパターンが多い。すなわち、大量資本投下 → 多大物量投下 → 予定売り上げ向上 → コスト削減で予定利回り確保といた道をたどり、それが富の飽和状態に到達すれば、サービス(服務作業)はカットされることになるといったパターンだ。
その背景には、消費者の目線を無視して、「これなら売れる」との規格商品を、利回り優先のマーケティングにかけ、目標達成の需要を喚起し、流通方式・交通手段をコントロールし、生産・流通コストを抑えて、代金回収を安定させることで、借入金に対する利息利回りを確保し、再び金融資本投下を呼び起こすといったスタイルであったからだ。ついこの間までの経営に関するビジネス書や経営学の流行は、すべてがこういった話ばかりであった。
A.サービス業と言われる業態の真髄は、サービス・レス(省く)であると久しく言われ続けて来たのである。
B.消費者の商品需要喚起のために心理学、文学、芸術、アイドルまでも利用した。
C.宅配サービスは、旧来の同業者間の競争に加え、異業種企業との市場争奪を日常化させた発明だった。
D.クレジットカードは、信販会社を通じて百%代金回収をあきらめた未回収損金を分散する発明であった。
こういった本質に注目しておかないと、これからの時代で通用する新事業を企画することは出来ない。表向きの経営学では教えて来なかったものばかりだ。「戦略的」と口にするだけでは具体性はない。


政府や金融資本投下の事業が前提の教育訓練
が業務をこなすために労働者に施されて来たのであった。だから、根本的に消費者目線の需要を促進するとか、消費者目線での消費を促進するための、労働者の能力開発にはなっていない。
テーラーシステム(科学的管理法:作業計画と作業実施を分離したことが発明)やTWI監督者訓練(やって見せて、やらせて見せて、できたところを誉めて、出来ないところのコツを教える:戦前のハーバード大学)をはじめ、ドラッガーの経営学、アメリカのSQC(日本ではこれがTQCに改訂)、アメリカ発のICT系経営管理方式、最近流行の北欧方式、そのいずれであっても、「今や金融資本の大投資」が見込めなくなった時代を前提とせずに、ただ単に真似る(学ぶ)だけであれば、何をしようが失敗をするのは当然である。
例えば、
イントラネット依存で意思統一の不具合、
主軸のないコミュニケーション促進で職場の気まずさの増加、
部下への間違ったアドバイスと数値一辺倒チェックによる意欲喪失、
ノー残業Dayで非効率な風呂敷残業増加などである。
歴史的には、
空想的社会主義者の代表である英国のオーエンは、紡績業者であったが、当時の工場で働く女工たちに競争とか品質向上の意識を持たせるために、グループ内の優秀者には小旗を立てて、その作業ぶりを誉めて称えたのである。ソビエト革命後、テーラーシステムをヒントにして、レーニンが世界に先駆けて小集団管理「НОТ(ノット)」を導入、一挙に農業国から工業国への転換を図った。戦前日本では、満州国建国からスタートした戦時経済体制のために、ケインズ経済からヒントを得た社会主義計画経済を、(元総理大臣の)岸、大平らが導入、「日本は社会主義経済だ!」と実態評価される戦後経済の礎を築いた。
すなわち、「道具は使いよう」であり、時代環境に合わせた、手練手管なのである。


緊急! 管理部門での能力養成の一例
個別労働紛争向けの「あっせん代理人育成プログラム」の例であるが、貴方の知っている社員教育とは異なるから、各段階の養成項目に注目してほしい。
 1.知識習得:学習したことの記憶を助ける
    従業員代表の選出が必要な場合は、どんなときですか?
 2.理解能力養成:学習したこと理解を助ける
    懲戒解雇と普通解雇は、どこに差異がありますか?
 3.適応能力養成:ある情報を違う場面に応用する
    整理解雇の四要件は、恣意的解雇の排除に役立ちますか?
 4.分析能力養成:異なった事柄を明確に分離する
    あっせん機関での和解と、裁判所での訴訟上の和解はどう違いますか?
 5.統合能力養成:創造力が必要な問題を解決する
    部下に対するイジメの発見を向上させる方策は、業務システムの面では、どういった変更が考えられるか例示してみましょう。
 6.評価能力養成:複数の基準で適切な判断をする
    人事評価制度による労働条件の切り下げは、賃金、退職金、労働時間、労働意欲、労働密度、職場人間関係その他労働契約に、どのように関わりますか?
この例示は、
人事総務部門の最高級幹部クラスを養成する場合に効果があるもので、社員としてのスキル習得・能力向上訓練である。こういったものが、日本の社員教育で教えていなかった「帝王学?」に通じる教育訓練である。ただし、使い道を誤ると極めて危険だ。
内容習得には、ある程度は自己学習で、ある程度はグループ学習で、ところが大半はケースメソッド方式などの訓練が必要な代物である。ケースメソッド方式は、個別企業内部で行なえば、参加者の劣等感を増殖し、精神的イジメ教育と揶揄される危険が必至である。それほど効果があるのだ。だから、社外機関での実施を前提にしての教育訓練、それも日本で導入するなら、手始めに大学院とか公的機関から実施することが望ましい代物だ。
ところが、フィンランドでは、これに似通った方式を、意思疎通向上の名目のもとに、小学生から実施しているのだ(フィンランド・メソッド:英才教育を避けるグループ教育)。だから、残念ではあるが、生産性の高い労働者教育では、現在の日本では勝てるはずがないのだ。子供の時からの教育が必要で、今年から始めても15年後にしか実らない。
ただし、フィンランドの人口は530万人、北欧全体では約2000万人だから、今の日本でも、もう数年は余裕があるのだ。


育児休業法改正を取り巻く論理
6月30日から、改正法の施行であるが、堅苦しい法令の表向き遵守だと、とりわけ女性社員と矛盾を起こしてしまう。それほど今回の改正はインパクトが強い。
今まで、間に合わせ程度の労働力として女性社員を採用しているのであれば、有能な女性社員の実績、提供できるはずの商品供給が進まないばかりか、育児休業や6時間労働義務化がトラブルや解雇事件を引き起こしてしまうことになる。この種の労働事件は、個別企業側に勝ち目はない。裁判が起こされる前に、紛争調整委員会の調停に持ち込まれて出頭義務を課せられることが予想される。
時代は変わりつつあるが、日本社会の構造も一挙に転換するからと、本当に割り切ってしまうしかない。個別企業が費用を掛けて育児休業法改正に抵抗するのか、それとも時代の経営環境の波に早く乗ってしまうのかである。だとしても、個別企業で予備の人員増は無理である。派遣会社に頼んでも、適切な短期派遣スタッフがいる訳もない。
そこで抜本的に考えてみると、すなわち、産休、育休、時短などの育児によって職業能力の習得が中断されるとか、育児退職で能力習得・発揮までに中途半端に辞めてしまうところに原因があると思われるので、こういった不安定な立場を改善して女性社員にも能力向上してもらうしかない。どうしても能力向上したくない女性は、ほぼ出産退職するから、当面心配はいらない。
具体的には、その応急措置のために、残業が付きものの業務とか、締め切りを迫られる業務を、日頃から徐々にアウトソーシングをしておく方法がある。アウトソーシングをすれば、担当窓口の女性社員の能力と質が向上することは実証済みである。本質は、女性社員にいつまでも、同じ作業ばかりさせてでは、業務改善もなくでは、能力低下を起こしてしまうのである。その上で、職場の保育所、公営保育所の充実が、功を奏するのだ。