2017/02/07

第178号:大統領は混乱のムードメーカー、それだけだ

<コンテンツ>
経済混乱の ムードメーカー 登場
  【結論をいえば、政治位置は変化しない】
  【パフォーマンスも打上げ花火程度? にすぎない!】
  【経済問題は、世界→国内へと軌道を転換する見通し】
    <アメリカ国内第一とキッシンジャー>
    <そこで米中国交回復とは何だったのか>
    <彼と彼らの経済政策の大戦略>
    <そのための、ISなどの対テロ対策>
    <アメリカ企業のロシアへの直接投資>
  【日本はどんな余波を受けるのか、いくつかの推測!】
  【新大統領を支える政治・経済・社会志向とは】
  【それを見通せたのは筆者独特の勘! ではなく大阪の経験だ。】
  【そして、彼ら作戦スタッフの使っているかもしれない世論操作の学問】

労働時間把握の、「新ガイドライン」(その解説第一弾)
  (1)新たに現れた「労働基準法第41条に定める者」
  (2)「名ばかり管理職」の理論的な封じ込め
  (3)監督行政の法解釈での苦い経験
  (4)4月から本格的に新ガイドライン指導 :筆者の予測。
  (5)「働き方改革」と比べ実行力がある。
  (6)【逐項解説】いよいよ「新ガイドライン」の詳細。
  (7)留意しなければならない事柄がある。


§経済混乱の ムードメーカー 登場
アメリカをはじめとした世界の政治経済そして社会が一気に変わるのか?
といった雰囲気で、日本のマスコミはセンセーショナルな報道を続けている。

【結論をいえば、政治位置は変化しない】
よく見てみると、国の基本となる政治位置は変化をしそうにはない。新大統領の躍り出る様は、表面の混乱ムードを醸し出しているように見えるが、それは彼独特のパフォーマンスでしかなく、後ろに控える作戦スタッフの演出そのものが見えてくる。ヒットラーの再来か? スターリンの再来か? といった雰囲気をあえて得る新大統領が、演出することは、その当時その国の貧困層に受け入れられた、「刹那的な威勢のよさ」を、現代アメリカに適用する彼と彼らの作戦スタッフの演出と見てよい。だから、新大統領に反発する動きが出るほどに、かの新大統領はアメリカ社会での存在意義を見いだすというわけである。それは、彼の彼なりの政治経歴を見れば察しがつく。ただ今回は、とにかく「彼は大統領になりたかった + 共和党は政権を取りたかった」といった思惑が一致したにすぎない……。その理由は彼らの政治・経済・社会志向にある。

【パフォーマンスも打上げ花火程度? にすぎない!】
テロリスト入国阻止のパフォーマンスは直ちにとん挫。憲法裁判所の判決や公訴棄却、政府機関の回復対応の速さといったことは、かの新大統領は「瞬間花火であることを」十分に予測していたと見てよい。メキシコ国境の壁についても同様である。すなわち、センセーショナルな出来事は、選挙目当てと支持者存続のパフォーマンスということである。自動車の国内製造もパフォーマンスの領域を出ていない。日本のマスコミ報道に思惑があるのかもしれないが、トヨタ自動車に対する多くのアメリカ国民の認識は、「トヨタ=アメリカ企業」なのである。そして、それらのパフォーマンスに対する反対運動が巻き起こることは、彼と彼らの作戦スタッフは織り込み済みなのである。要するに、彼と彼らの作戦スタッフは、そういった反対運動を組み込んだうえでの、「一連のパフォーマンスの演出」で、支持者と世論の誘導を図っていると観ることが妥当だ。…その理由はここでも、政治・経済・社会志向にあるのだ。

【経済問題は、世界→国内へと軌道を転換する見通し】
<アメリカ国内第一とキッシンジャー>
を掲げているが、かの新大統領の話やツイッターだけでは、客観性も合理性も見いだせない。いやしくも、アメリカ合衆国の政府機関が機能しなければ、何事も夢物語に終わってしまう経済政策であるから、彼と彼らの底流の動きを見なければならない。ただその動きは、今回ばかりは筆者も時間を要した。そこには意外な動きが漂っていた。
米ソ冷戦さなかに、突然に米中国交回復が成り立つ、その立役者はキッシンジャーであった。かの新大統領とキッシンジャーの面談は目撃され、合衆国の新政府機関にはキッシンジャーの弟子と言われる人物たちが就任している。黒子に徹して国務長官などの表から目立つポストにはいない。
<そこで米中国交回復とは何だったのか>
を振り返ってみることにする。キッシンジャーの学説は、主要国の均衡バランス形成による平和秩序と外交である。当時、アメリカに対して強大となったソ連にブレーキをかけ均衡を図るために米中が手を結んだのである。中国は文化大革命による経済の崩壊に陥っていたからこそ応じ、そこにアメリカは手を差し伸べて中国の改革開放を後押し、その後のソ連のペレストロイカに至る過程で、アメリカ自身は世界経済の安定に伴い経済成長を果たした。そしてソ連は内部崩壊し社会主義国からロシア(実は正教のキリスト教国:志向)へと変化して、世界をかけめぐる利回り金融資本の横行と破綻(リーマンショック)へと、現在に至っている。そして中国は今や、経済経営的採算が合っていると思わないが、軍事力や経済外的強制で以って、表向きの世界経済を牛耳るような覇権と活躍(中国の文化大革命派に言わせれば「張子のトラ」)なのである。かのアメリカ新大統領は、これを危険と見ている。
<彼と彼らの経済政策の大戦略>
が浮かび上がってくる。米ロが経済で手を握り中国の覇権を阻止する。それはアメリカが旧来の世界警察で以って対峙するのではなく、今度はロシアが中国に対してブレーキをかけることで、世界均衡を図るとともにアメリカ経済が回復する基盤を形成しようとする戦略なのだ。その中国に対するロシアのブレーキのさなか、アメリカ国内の法人税率を15%まで引き下げるとする「税金天国」の合衆国を作ろうというわけだ。これが彼らの最大目標である経済政策と考えれば、彼らの発言や行動での矛盾は解消、筋が通ることなのである。
「税金天国」となった合衆国内での雇用増という政策志向だが、筆者の見解からすれば先行きは不透明だ。それは、アメリカ経済の発展基盤は
①第一大戦中の1913年からの体験教育(日本のゆとり教育の元祖、但し日本は失敗)から~。
②1929年大恐慌後のニューディール政策、同時に将来のアメリカを見据えた芸術家への失業対策事業による経済基盤(特にアメリカンドリームやアメリカ文化)の形成から~。
③戦後のアメリカ経済の技術革新と世界進出といった。アメリカ経済史を踏まえての政策~。
④どうしても筆者には、こういった成長過程を彼ら彼らには考えられないのではないかと推測するからである。突然、彼ら彼らの「この世の天国」は訪れるとは思えない。
<そのための、ISなどの対テロ対策>
なのである、あくまでも。ISを組織し昨年まで裏からの援助を絶やさなかったのは合衆国CIAである。それは世界警察としての策略ではあったが、今のCIAは新大統領側に付き、ISへの援助停止、それに続くロシアの大空爆によるIS殲滅(せんめつ)の容認に至っている。そして新大統領は、シリアのロシア海軍への港湾基地提供とかロシア空軍への飛行場提供について何も語らない。それこそが、ロシアの経済進出を認める行為そのものなのである。中東に進出する中国に対するロシアの進出動向に、新大統領は口をはさまない。(旧約聖書のエゼキエル書38章には、今で言うロシアが中東に進出する件があると言い出す解説者もいる)。イスラム:テロ対策とは、こういった背景があるから、イスラム入国拒否の大統領令が合衆国憲法違反となっても、彼と彼らはパフォーマンス以上のことをしないのである。新しい大統領は、その全てが経済である。確かにまた、彼と彼らの支持基盤は、「頭の中は、聖書とイエス・キリストの神秘で満杯」といった人たちなのである。
<アメリカ企業のロシアへの直接投資>
は盛んになってくる。そのためのエクソンモービル:ロシア通の国務長官就任である。それは、法人税15%の「税金天国」に世界の企業を誘致して、そこからアメリカ経由で再びロシアへの進出を狙っているのかもしれない。そこには、アメリカがEUへの進出を促進する基盤が、思わぬイギリスのEU離脱によって、失われた事情が存在もする。日本のマスコミでも、しばらくすれば、こういったアメリカ企業のロシア進出のニュースが次々と飛び込んでくることになるだろう。
ロシアからすれば事、経済投資の呼び込みならば、極東の軍事情勢、はたまた北方四島の領土問題などどうでもよいことである。まして、日本側が「北方領土の二島でよい」などと言い出す始末であり、シベリアからの石炭出荷を大量に受け入れる日本の状況からして、ロシアへのアメリカの経済投資は一気に優先課題となってくる。そして、その極東のロシアとの国境線に中国は大陸間弾道弾ミサイル基地を配備した。

【日本はどんな余波を受けるのか、いくつかの推測!】
★日本企業の本店のアメリカ移転が、二国間協定で以ってあり得る。
法人税15%であれば、アメリカに行きたい大手企業は目白押しである。日本での消費税の還付金で輸出企業は優遇されているが、いっそのことアメリカに移転してしまえばと考える企業が出てくるかもしれない。日米首脳会議では焦点となるだろう。
★日本の年金基金の資金をアメリカ国内インフラ投資に。
これは、さっさと進んでいるようである。現在年金資金の投資結果は大損状態である。これ以上のアメリカへの資金提供が日米首脳会議では焦点となる。
★日露の経済交流は、米ロ経済交流の「お墨付き」の範囲内。
おそらく、日米首脳会談で、そういった「お墨付き」程度のことが話し合われるであろう。アメリカの国防長官は韓国に対しても日本に対しても、「俺のいう通りにしろ」と迫るような人物だから、おそらくアメリカを差し置いて、日本が交易促進することはご法度であろう。ところが、日露の非公式取引(密輸)は、大手企業が介在して戦後も必要に応じて行われていたのだ。近いうちに、ロシア流行ブームが出現してくるであろう。
★日本の対中国経済への牽制(けんせい)。
ロシアを使って、中国経済にブレーキをかけようというさなかに、日本の中国との貿易増加をアメリカが歓迎することはない。世界銀行とアジア開発銀行(日本主導)と、そしてAIIB(中国主導?)の三つは、今現在は共同歩調をとっている。金融・投資の純然たる目的からすれば、本来は国境や国家は関係ないからだ。主要幹部の人事交流も存在している。AIIBに力をつけているのは、日本の官邸サイドだけだ。だから今後、その動きに注目する必要がある。どうなのか全く予想がつかない。
★日本の官僚は、今もそうだが、右往左往する。
官僚にとっては、間違いなく新アメリカ大統領の発想が分からない。政治家も右往左往するだろうし、すると政策も右往左往する。そういった右往左往は、ニュースのネタになるし、そういうニュースなら理解出来そうな読者・視聴者は多いから、益々マスコミのそういった商売っ気はひどくなるだろう。日本の教育が受験戦争一辺倒だったからなのか、戦前から続く計画経済を続けてきた官僚思考だからなのか、日本でメジャーと言われる思考パターンの人たちには、本当に、新アメリカ大統領の発想が分からないのである。
☆そこで筆者のお勧めは
世界各地のお金持ちに魅力のある商品を作ればよい。
お金持ち優先で観光などで買いに来てもらえばよい。世界は広いから、お金持ちに焦点を絞って商品を売りこめばよい。当分の間は、日本や日本各地域の独自文化を、物品にして観光やリゾートにして具現化することで売ればよいのである。世界で売れている日本料理(これが、割烹とは違う)がそうだし、日本にあって山村の自然との調和風景もそうだ。すなわち文化価値商品である。人海戦術や労働力だけの「ありふれた商品」から決別して、世界のお金持ち相手に高利潤商品・高水準サービスを提供すればよいのである。
☆なぜ高利潤や高サービスかといえば、日本の(広義の)労働者の労働全般能力・職業能力や、それを支える生活水準を維持するための費用や教育投資が不可欠だからである。「より良い物をより安く」といった世界の下請工場的な商品着想では、先進国から、途上国までの諸国との貿易摩擦を生むばかりである。今更日本は、植民地的な経済活動とか滅私奉公哲学では成り立たない、様々な評価は別として日本は17世紀初めに世界で初めて奴隷制度を廃止した国なのだ。

【新大統領を支える政治・経済・社会志向とは】
かのアメリカ新大統領はプロテスタントの長老派である。慣例なのか必ずイギリス国教会の流れを持つ聖公会の教会(ホワイトハウスの筋向い)で、就任前の礼拝に出席している。情報筋によると、その礼拝には聖公会の牧師に加え、バプティストとメソジスト(この二つはプロテスタントの派閥)の牧師も同席(アメリカの社会や教会では、重要な意思表示としての同席)したそうである。ことに共和党は聖公会の影響が強く、イラク戦争当時にブッシュ大統領の法案が、イギリス国教会のカンタベリー大主教の日曜礼拝での横槍で、多くの共和党の議員がブッシュ反対に回り、法案が流れたこともある。アメリカとは、そういった国である。身近な人物ならば、浦賀に来たペリー、戦後のGHQマッカーサー司令官らはアメリカの聖公会メンバーであった。こういった事情は、全く日本ではなじみがない話ではある。だが、ヨーロッパのEUにあっても、政策議論と同時並行でキリスト教にかかわる宗教と哲学の議論は必ず行われている。いわゆるキリスト教国と言われる一帯は、こういった政治・経済・社会志向を知らずして、その分析は極めて難しいのである。
これが、就任式前の礼拝があった、ワシントンの聖ヨハネ教会だ。
https://en.wikipedia.org/wiki/St._John%27s_Episcopal_Church,_Lafayette_Square
そして、副大統領に就任した人物が何者か、その人物が就任した意味が重要。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%82%B9
副大統領に就任した彼は自称エバンジェリカル、「頭の中は、聖書とイエス・キリストの神秘で満杯」と揶揄もされている。その存在はトランプを大統領を当選させた勢力の代弁者、トランプの不測の事態(暗殺や転向)のみならずエバンジェリカル勢力の大統領志向の担保機能と見た方が良い。これらは、日本では考えられない複雑な習慣でもある。
保守派キリスト教徒エバンジェリカルついての、某解説もある。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaokanozomu/20161027-00063742/
これらの情報は、日本のマスコミでは報道されないのが通例、あるいは記者たちが、全く理解出来ない情報なので、アメリカ大統領の動きの見れない人が多いのだ。

【それを見通せたのは筆者独特の勘! ではなく大阪の経験だ。】
大阪では一昨年春に住民投票=「大阪市を先ず廃止して、大阪都構想?」なる大阪市民限定の投票が行われ、大阪市廃止は71万票の1万票僅差で否決された。それまでの、センセーショナルな言動で踊り、傍らでは政策後退を続けてきた、あの「お騒がせ知事→お騒がせ市長」は結果、事実上政界から失脚してしまった。大阪特有の昔から統制力を持った政党が存在しないといった状況にあって、マスコミの政党得票数を根拠にした勝敗予想は大きく外れ、住民投票は「空中戦」となって最後の一週間で決着した。その住民投票日の二週間後の住民投票の勝因と敗因の分析にあっては、実に両者の作戦参謀の勝敗根拠が一致していたのであった。そして大阪の諸政党やマスコミにいたっては、未だ勝因敗因をつかめないままでいるようである。
すなわち、この大阪の「お騒がせ知事→お騒がせ市長」の動きと、かのアメリカ新大統領の動きが、きわめて似つかわしいのだ。だからある程度、かのアメリカ新大統領勢力の成すことは予想ができるのだ。ただ、異なることは、かのアメリカ新大統領勢力には、先ほど述べた「彼を支える政治・経済・社会志向」の勢力が強く存在する。日本の「お騒がせ知事→お騒がせ市長」には、そういった「政治経済社会志向」の勢力は存在しなかったし、そういった勢力は味方をしなかった。大阪の「お騒がせ知事→お騒がせ市長」が業務委託し選挙ビジネス屋の算段した「オレンジシャツの国会議員・地方議員」集団(目標1,000人が政策も異なる300人しか集まらない)お粗末のところ、その闊歩(カッポ)する姿は大阪市民の強烈な反発を買い、感情的な裏目に出たのであった。

【そして、彼ら作戦スタッフの使っているかもしれない世論操作の学問】
今から紹介する学説は、マーケティングの世界でも定着しつつある。ただ、「バカとハサミは使いよう」ということであって、大阪の「お騒がせ知事→お騒がせ市長」が発注した選挙ビジネス屋は、その使い道を誤り、勝利した反対陣営の作戦参謀にその使い道を見透かされていたのだった。さてそれの要点を紹介しよう…。

アメリカ ジョナサン・ハイト  2014年
<道徳基盤・思考の偏り>
 (アメリカ捜査結果の関心事を ○ 印の図表にしてみると次の通り)
  配慮ケア 公 正 自由解放 忠 誠 権威敬意 神聖ピュア
リベラル      
保 守
   
 ↑ 教養層・高収入層・若者層・クリエイティブ層 
   
 低学歴層・低収入層・ルーティンワーク層・高年齢層  


§労働時間把握の、「新ガイドライン」(その解説第一弾)
平成29年1月20日、厚生労働省の本省:労働基準局監督課は、17年ぶりに、
「労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
を策定しWebで発表した。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
いわゆるガイドラインとは、法令ではないが、事業場に対して労働基準監督官が監督指導をする際に話すべき内容を示すといった類のものである。

そのため現実には、勇み足の監督官も出てきたし、監督指導を権力からの圧力と感じて過剰サービスをする事業主も出てくることにもなっている。日本は全体主義や社会主義国ではないから、何でもかんでも監督官様の「お話」を鵜呑みにして従うことはない。無理をして従うと、結局は無理がたたり法違反を犯してしまう現実がある。だから、その新ガイドラインの理解には歴史的経過と高度経営センスを含む専門性を要するのである。表面の字面だけを追っていては誤解をしてしまう。そこで、幾つかの留意点を示しながら解説をする。

(1)新たに現れた「労働基準法第41条に定める者」  以前のガイドラインなどに存在した、「いわゆる管理監督者」の語句が、「労働基準法第41条に定める者」へと変更がなされている。これについて労働基準局監督課は電話インタビューで、「内容は変わっていないが、正確さを期するため」としている。ところが、この語句の変更こそが“新ガイドライン”の全体を貫く前提として念頭に置かれているのである。(あくまで行政機関の書面は、学生の作文ではない。だから各々それなりの背景や思考パターンを読み取る専門性が必要である)。

(2)「名ばかり管理職」の理論的な封じ込め  すなわち、「いわゆる管理監督者」の語句が原因だとまでは言わないけれど、従来の本省:労働基準局監督課が、「いわゆる管理監督者」の語句を使い続けたことによって、いわゆる「名ばかり管理職」が世間に横行している現実を是正しようと図っていると監督課が考えるのは自然である。どうしても経営者も総務担当者もが社内だけを見てしまうから、広い視野に気がつかないのは当然だ。それは筆者の如く長年数多くの事例を見ていると一目瞭然である。またそれは、監督官たちも同様なのである。それは異なる角度から言えば、いわゆる「名ばかり管理職」と指摘されないように様々な経営者や総務担当者が浅知恵を絞ったところで、本省:労働基準局監督課からすれば全部を見通しているのであり、ある意味で浅知恵が後を絶たないことに対する用語対策なのである。「労働基準法第41条に定める者」と表現することで、改めてこの際、法令に基づいた判断基準を末端の監督官にまで徹底しようという訳なのである。社会保険労務士の大半も「右に倣え」である。そうすれば巷では、ほぼ間違いなく素人の考えた「名ばかり管理職」論は崩壊すると、彼ら官僚はみているのだろう、筆者もそうなるだろうと予測する。たぶん、これに法律論議で以って合理的に彼ら官僚に太刀打ちできる、そんな素人も専門家も存在しないだろうから。

(3)監督行政の法解釈での苦い経験  労働基準監督行政の歴史には、解雇に関する条文解釈にかかる苦い経験がある。現在の解釈通念は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」(濫用=定められた以上に権利をミダリに用いるとの意味で乱用ではない)である。ところが2004年1月1日の法施行(当時は労働基準法第18条の2)当時までは、裁判所の判例とは裏腹に大半の監督官はそうでもなかったのである。それまで多くの監督官は、「30日分の解雇予告又は予告手当支給をすれば、解雇は可能です」と電話でも気軽に事業主に対し応答(書面でない方向で)していたのである。そう、それはつい13年前のことである。ここでピンと来た人もいるだろうけれど、旧ガイドラインの労働時間把握の時代である。ついでのことだが、労働時間把握に本省:労働基準局監督課が本腰を入れだしたのは、1988(昭和63)年の週40時間労働制(それまでは1日8時間労働制)の時点からである。当時のエピソードを話せば、Webが無かったから、「週刊労働ニュース」の新聞で以って監督官の意思統一の徹底を図っていた。ビル退出時刻の警備員記録、夜8時の事業場臨時検査、その後はパソコンの差し押さえ、メール発信時間解析などなど、そういったが摘発や監督のニュースを「週刊労働ニュース」が目白押しに掲載していた。

(4)4月から本格的に新ガイドライン指導 :筆者の予測。  =平成28年度内に、新ガイドラインの徹底を監督官に図り、4月からの一斉人事異動で従前の事業場と人間関係を断ち切り、4月から本格的に新ガイドラインを運用するであろう、これが毎度の労働省のノウハウである。経団連への説明会は、1月25日に行っているが、1月20日策定したとする「新ガイドライン」の説明を、本省:労働基準局監督課ではなく、労働基準局総務課長が行った事(多数の質問に対し、正確な微妙な説明が総務課長では出来ない)には意味がある。おそらく、4月まではマスコミに対する労働時間賃金未払いニュースを流して世論づくりをするであろう。4月以降は、有無を言わさず監督指導に入るであろう。だから、個別企業内での3月中の基盤整備は極めて効果的である。こういった事は、筆者が約40年に渡り携わってきた労働行政の底流に基づく独自考えである…。

(5)「働き方改革」と比べ実行力がある。  「1億総活躍」とか「働き方改革」とか「残業禁止の法改正」は、耳触りの良い口先だけのこと。現在の社会状況からすれば、それらに実行力が無いのは、いつもの通りである。だが、その陰にあって、政府の表面政策とは裏腹に、この「新ガイドライン」は徹底されるであろう。近年、旧労働省の労使が協調して労働基準監督行政を推し進め検察の書類送検を進めてきたのであり、それらに現大臣も同調している。ことに、大手企業の大半はサラリーマン経営者が占め、その許に人事部門が配置されていることから、そのほとんどの企業は行政機関の権力に弱く、後先考えずとりあえず従う実態だからである。終戦直後、労働省は戦前(工場法で)立案していた内容の労働基準法案を早速国会提出、法案がGHQの指示だと偽って、さっさと成立させたのである。ところで、新採用監督官の数は、来年度は3倍の150人、再来年は230人との情報で、その研修施設が不足との動きも存在するくらいであるから、徹底してくるのは間違いないだろう。監督署は何時もの如く、新入社員の「お試し営業」ではないけれど、今年秋から(約半年の宿泊研修後)は新入監督官を単独で事業場訪問をさせるであろう。その際に、「新ガイドライン」が効力を発揮するのである。そこには、使用者に対して「本ガイドラインを踏まえ…」労働者に自己申告をさせる様にといった、新たな手法の内容(4項(3)号のア)が監督官に指揮されているのである。

(6)【逐項解説】いよいよ「新ガイドライン」の詳細。  専門家でない方、ペーパーライセンス社会保険労務士、現場を知らない弁護士といったみなさんは、逐条とか逐一順を追って解説する手法が、とても好きなようである。だが、ここまでの背景と監督行政の底流を垣間見ていただいた読者の方は、既に貴方が深い視点になっていることに気づくだろう。気づくからこそ、貴方の話には共感と「深み」が備わり説得力が増していくことになるのである。実務能力が向上するのは、前回のメルマガ=共感精度の解説の通りである。逐条解説ばかりに気が向いている人に実行力は備わらない。ではとりあえず、気をつける必要がある箇所を指摘する。必要に応じ要望カ所や焦点になる部分を後日YouTubeを作成しようと考えている。

☆では順番に、
2項、5行目、「労働基準法第41条に定める者」→名ばかり管理職の排除!
3項、労働時間の考え方、→ここは新設項。
  2行目、「黙示の指示」→アイコンタクトはもちろん無言も黙示の指示?
  5行目、「使用者の指揮命令下」→自宅持ち帰り作業、一見自発的作業など
  8行目、「指揮命令下に置かれたものと評価…客観的に」
  11行目、「これを余儀なくされていたなどの状況の有無など」
  ア~ウの具体例は、毎日の労働時間増、あるいは作業開始時刻の遅延と早退

4項、(2)号のイ 「パソコン使用時間記録等の客観的な記録を基礎として」
   同じく2行目、「適正に記録すること。」→システム説明とタイムカード連携管理
   (3)号のア
     「労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、…十分な説明」→提示?
   (3)号のイ
     「実際に労働時間を管理するものに対して…説明」→チェック
   (3)号のウ
     「入退場記録やパソコンの使用時間記録など…労働時間の補正」
   (3)号のエ
     4行目は、電通事件の逃げ口上の=Netでの検索・調査・学習の事態含む
       →自己申告の労働時間が少ないならば合理的説明の有無がポイント
   (4)号、4行目、賃金台帳への無記載・虚偽記入への、30万の罰金を表示

………といったところである。こういった項目による未払い賃金の確定とか、賃金支払い並びに個人所得増は、間違いなく現労働大臣の了解を得ている。
したがって、労働時間管理に曖昧さを残さないためには、客観的な管理を求められることになるのである。時間外労働指示書とか、残業禁止指示書、退去命令といった客観性を要する。そうすれば、時代に適した適切な時間管理は可能というわけだ。後先考えずとりあえず従うといったことでは、事業経営(収益性、生産性、労働意欲、効率性)の各分野にわたって矛盾を起こし、それは労働者の反発を招く。いずれを選択するかの2次元的思考の知恵のなさでは対処できないことになるのだ。

(7)留意しなければならない事柄がある。
One. いくつもの事業場を抱える大手企業(中小企業基本法に規定する「中小企業者」以下を除く)に対して、2箇所の事業場の是正勧告で以って代表者の呼び出しをする。その場合は、本社(「中小企業者」以下を除く=第3次産業で資本金5000万以上の企業は相当数が対象)への立ち入り調査も行うとしている。
http://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html
もちろん、社会的影響のあるとする(大手などの)企業はマスコミ対策をあわせもって行うことは通例である。単なる氏名公表や単なる呼び出しの監督行政を行うことはない。すると、サラリーマン経営者などは、外注化で下請けに責任を回し、これも、乗り切ろうとする愚策も現れるだろうが、セブンイレブンFC加盟店の賃金カット事件の如く世論の風当たりは強い。本来なんとかアウトソーシング企業に委託したいところではあるが、労働者の経営センスを併せ持った職業訓練をなおざりにしてきた労働政策からは、真のアウトソーシング企業が数少ないのである。そのことから実に現在、アウトソーシングは売手市場であるから安値発注が出来ない。
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/151106-05.pdf

Two. 本省:労働基準局監督課の監督行政の戦略方向は、労働基準法などの取締法規を超えて、就業規則を細かく作成させる指導により労働契約扱いとすることで、結果的には労働契約法の適用を図ろうとしている。そうやって、裁判所、弁護士、社会保険労務士の機能や外部参加を組織しようとしているようだ。マスコミ対策との連動はもちろんだが、監督官の動員(例えば、捜査本部なら40名といった具合)だけには頼らない戦略のようだ。労働基準法や労働契約法の法律的論理展開は、裁判所、弁護士、社会保険労務士たちに反対される要素がないから、約2万人の労働基準監督官の人海戦術で功を奏するというわけだ。

Three. さて、対応の要点は、行動経済学や産業心理学を踏まえての高度な専門性のあるアドバイスを、貴方が手に入れた上で、貴方の個別企業が対策を打つ必要があるといったことだ。巷にあふれる判例や逐条解説は、冊子として売れるものだから数多く出版されるが、貴方のご理解の様に、個別企業内のジレンマと不毛な手間と暇にさいなまれるのである。ドラスティックな対策は、経営トップに押しつける仕事ではない。総務部門の貴方の創意工夫に委ねられているのである。

Four. 違法な長時間労働の要件を、現行の月100時間から月80時間へと引き下げ、加えて過労死や過労自殺等での労災支給決定の場合も違法要件とする。月の時間外・休日労働が100時間を超えれば、産業医への情報提供の省令を改正する。過重労働事業場への、医師の緊急面談問診の実施を、都道府県労働局長が指示できることも省令を改正する。これらは、企業にとっては、即効対策をとらなかった場合の損害賠償の民事事件での、敗訴や大幅不利を招来するものとなる。