2007/03/07

第59号

<改正男女雇用均等法についての解説特集>
マスコミや一般的な解説は施行が近づけば目白押しとなってくることから、気がつきにくい視点からの重要課題を、いくつかあげてみる。

○平成19年4月1日からの改正が不備だとする人達の主張は、
(1)問題とされる間接差別は、募集採用などに限られていて、肝心の賃金についての規定がないから骨抜きだ。
(2)間接差別として禁止されるのは、厚生労働省令に定める三項目例に限定されるものだけではないか。
(3)事業主に課せられている、合理性の立証の要件が緩やかすぎるではないか。
といったところだ。
ということは、裁判紛争となった場合は、このポイントをめぐって争われるということになる。

○男女双方の差別禁止
公務員と同様に民間企業においても男女双方禁止されることになった。
したがって、「男の子だけのグループ」とか「女の子だけのグループ」を組んでしまう行為だけで、差別発生の基盤が形作られることとなった。「男らしい女性を雇い、女らしい男性を排除」するといった旧来思考パターンは死滅する。旧来通りを押し通せば「柳沢のお爺さん!」と言われるかも知れないのだ。

○差別的取扱い禁止項目の増加
改正後は、募集・採用、役職配置、部門配置、配置転換一般、権限付与、義務の配分、配置→昇進→教育訓練、福利厚生、定年・解雇、降格、雇用形態変更、労働契約の更新、退職勧奨、雇止めとなった。ここにおいて、賃金差が明確にされていないことは不備だとの批判意見がある。したがって、これからの研究・人事施策課題は、禁止項目と賃金差が、如何にリンクするのか、しないのかに焦点があてられることにもなった。

○間接差別の禁止
が盛り込まれたが、内容は厚生労働省令に定めるとなっている。
…とのことは、5年後の法改正を待たずして、より厳しい禁止内容に途中で変更される可能性があるということだ。
だとすれば、非人道的な間接差別の形態の事例が表沙汰にでもなれば、その類の間接差別が非人道的でなくとも、禁止内容に盛り込まれた省令が発表される可能性があるのだ。グローバル社会になった現在、事例の暴露合戦を誘発するかもしれない。
今回具体的に間接差別とされる場合(省令)は、
(1)募集・採用に当たって、身長、体重、体力を要件とするとき、合理的な理由がない場合
(2)転勤を条件とする総合職を採用するときに、合理的な理由のない場合
(3)昇進にあたり転勤経験があるとするときに、合理的な理由のない場合
の三つが男女ともに禁止されるのである。
合理的とは理由の事実が真実で筋道立てた論拠をもって証明できるかどうかの意味を差し、必要な社内規定も整備されているといった意味である。いくら形式を踏んだとしても、実態が伴わなければならないから、社内システムが実効的に動いていなければ責任を問われることになる。
「男女混在する応募者の中から背の高いものだけを選んだ」であるとか、
「支店もないのに、転勤可能な者に限る」であるとか、
「本社管理部門内の昇進に支店業務経験が必要」といったものは、
「それは形式ばかりだ!」と主張されれば、これに対する合理的理由をそろえるのは極めて難しくなる、といった具合だ。

○妊娠・出産・産前産後休業取得での不利益扱い
が禁止となった。加えて、産後1年以内は妊娠中・出産などを理由とする解雇でないことを、事業主が証明出来ない限りは解雇無効とされる。無効とは、初めから解雇がなかったものと取り扱われるという意味で、働いたものと見なす賃金を支払わなければ、労働基準法上の賃金不払いとなる。
ところで、典型的な想定事例はこうだ。
契約期間1年の雇用契約を繰り返している女性が中途で妊娠をして、期間満了時点を産後休暇8週の間に迎えることとなった場合、次期1年間の契約更新を会社が拒否した場合は不利益扱いとされる。よって、育児休業申し出による就労のない「から期間」を含める1年契約を更新しなければならない。また、産後1年以内は解雇禁止の制限がかけられる。気をつけなければならないことは、妊娠・出産・育児休業中は人事評価をすることが出来ないから、出産など以外の解雇理由は立証出来ないことだ。加えて、短期期間契約を繰り返していたとしても4年目に突入した場合は常用労働の扱いとされるのが一般的で、そこに労働契約法が施行されれば、理由のない雇用期間の細分化は継続しているものと扱われる。
これらを考えると、女性にかかる雇用制度全般をチェックし直さなければならなくなった。

○セクシャルハラスメント
についての就業環境配慮義務が→「措置義務」となった。
具体的な措置が無ければ、すぐさま義務違反を問われることになったのだ。
具体的な措置とは、事業主の男女双方に対するセクハラ防止基準、相談窓口、防止教育訓練などが不備となる。不備となれば、配慮義務とは取扱いが違って、すぐさまセクハラ被害損害賠償の根拠となるのだ。
「責任追及はセクハラ加害者にしてくれ」などとは言っていられなくなる。
場合によってはセクハラ防止の張り紙、セクハラ禁止社内放送、イエローカード、不利益回復、加害者の排除、加害者の懲戒などを怠ったことが措置義務違反に問われかねない。

○雇用均等に関わるトラブル発生
は、労働局の調停に持ち込むことができるようになった。
労働局の紛争調整委員会で扱われることになるが、調停の場合は参加拒否が出来ない。
調停の参加を拒否した場合は裁判を提起されたときに、あっせんに比べ一挙に極めて不利に陥るといった具合だ。
一方、労働者側からは、雇用均等法に絡めて事件を紛争調整委員会で持ち込むという戦術も生まれて来るが、これも自然の成り行きとして覚悟しておかなければならない。
この調停制度に、マスコミなどが気づいていないから、事は重大。なお、代理人は弁護士の訴訟代理人ではなく、あっせん代理人の方が経験豊富なこともあって、調停には適切である。

○労働局への報告
を、雇用均等法に関して、事業主は求められることになった。
今回の改正では、報告しない場合と虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料がかけられることになった。
この過料は刑事事件とは異なり、短期に容易に処分が下される。


<最低賃金の論議が、ますます盛んになってきた>
ちなみに、デンマークは28ドル/時間、日本円に直すと 月額約34万円で、最高額のようだが税率は50%、ただし税金は自己申告制とのこと。2005年数値の比較研究によると、日本が一時間あたり5.19ドル、米国5.15ドル、フランスが8.05ドル、イギリスが8.91ドルとのことだ。最低賃金はその国の社会制度とリンクしているものであるから、一概に高い安いと判断できるものではない。終戦後しばらく日本では失業対策事業の賃金が最低として重要視された。ニコヨンという日雇労働者の呼び名は、日額賃金が204円であった時代の社会運動・労働組合運動から言われだしたものだ。生活保護と最低賃金の比較も話題になっているが、労働基準法11条の賃金の定義には「労働の対償」といった辞書にも出てこない言葉が出て来るが、これは生活保護よりも金額が多いことを想定して法律条文化した歴史的事実を見落としてはならないのだ。


<教育再生の話題>
がぼんやりしているのだが、日本人の能力開発、高文化水準の維持を考えると、将来の日本経済を支える主要な柱であることは間違いない。江戸時代まで日本の流通経済を支えていた近江商人の地方では、室町時代には読み書き教育を行っていた形跡があり、江戸時代初期には奥深い山村集落に至るまで「寺子屋」のような組織的教育を行ない、子供達の職業能力を養っていた。
ところで、ある調査によると、私立学校の子供一人当たりの学費の平均は年間85万円程度で、公立学校の場合は年間160万円程度の計算になるとのことである。そこまでの費用をかける積算見積もりが不明なのである。これを分析して、林省之助(関西大学)という教育者は、生徒数20人の街の民間小学校を認可して、そこに就学する子供に対し保護者を通じた年間100万円ほどの就学援助金を国が使用目的を限定して援助すればどうかという構想を披露している。高付加価値製品とか高水準サービスの商品を提供することに活路を見いだす日本の経済を担う子供たちに、その基礎力をつける教育方針を、如何に見いだすかとの議論に、一石を投じている。