2007/08/08

第64号

<もくじ>
外部労働市場を活用するには
請負と非請負を時代別に追跡すると
昭和27年、職業安定法施行規則改正
昭和61年、労働者派遣法施行
そもそも、業務請負は
 A.法令の定義をクリア
 B.長期にわたる経済性の確保
 C.事業の社会貢献性
業務請負の拡大期
なぜ、業務請負に比べ、偽装請負が拡大したのか
偽装請負、彼らの営業手法は
偽装請負によって立ち行かなくなった工場
社会保険事務所は調査しない?
ところで一転、資金面からは
地に足のついた労働力需給

¶外部労働市場を活用するには、
工場をはじめ大量生産や大量業務処理を行う場合での生産管理などの上で、注意しなければならないことがある。どうしても、現場担当者では適切なコントロール措置が行ない得ないことから、総務人事部門の役割は重要となる。日本の経済展望である、「高付加価値製品と高水準サービスの商品」の提供を、個別企業においても社会においても、下支えができるかどうかの視点が重要なのだ。何れの産業も人海戦術では世界に勝てず、外部労働力活用といえども、それでは赤字転落は必至の事態だ。
外注の業態ひとつとってみても、請負、構内下請、業務請負、アウトソーシングといった具合となってしまう。賃貸の業態をとるものもあり、労働者派遣は人材レンタルで賃貸契約、物品レンタルにオペレーターの労働力が付随して来るものもある。こういった経済性に基づく実状は、すべてが法律で定義できるものではない。かつて、ローマ時代においては、労働、請負、貸借の三つの契約関係を、別々の概念と区別が出来無かった。
所詮、法律や政府の政策課題(製造業請負事業の適正化に向けてガイドライン/厚労省6月29日など)は、せいぜい自由平等原則や社会共同体ルールの侵害を防ぐ手段としてでしかないのだ。そして、現在日本の法体系では、請負か、それとも派遣や労務供給であるのかの判断は、一貫して「作業工程の進捗管理」を発注側が行っておれば、請負とはならないとする定義に変わりはない。

¶請負と非請負を時代別に追跡すると、
昭和27年の職安法施行規則改正は、それ以前の同一工場敷地内であれば発注側が進捗管理を行ない、支配しかねないと念頭においていた懸念を、請負業者が、工場の構内であっても別途、設備や建屋を別に設置するとの条件であれば、発注側は進捗管理を行ない得ないとの概念を形成し、構内下請なるものが開発・始業した。
昭和61年の大臣告示は、工場内で建屋を別にしなくとも、機械設備や材料・光熱費を自前で「調達」する又は専門的な技術や経験が存在するとの条件ならば、定員契約(定員1名=労働者約1.2人)による業務請負を可能にし、これが工場でも開発・始業したのである。(従前から、ビルメンテナンス業、警備業では通例であったが)

¶昭和27年、職業安定法施行規則改正
により、請負と労務供給事業の区分、昭和23年のものが現行に改められた。これによって、当時の政策担当者の誰もが予想していなかった「構内下請」が開発され始業した。それ以前は、発注者の工場敷地内での外注業者により製品が製造された場合は、とにかく偽装請負と判断された。必ず工場敷地内で製品を完成させ、製品個数を数えた上での現物納入でなければ請負と見なされなかったのである。ところが、この施行規則改正により、発注者の工場敷地内であっても、外注業者が別棟の建屋であれば、問題がなくなったのだ。いまだ昭和27年当時の施行規則で、請負区分をする行政職員や専門家と称する者も存在する。

¶昭和61年、労働者派遣法施行
により、派遣と請負の区分が大臣告示された。昭和27年から構内下請は合法とされていたが、これとは別に当時、いわゆる「業務委任契約」と称されていたものが偽装請負であった。これが、61年の派遣法施行で労働者派遣と定義されると同時に、昭和61年当時は13業務以外(生産ライン等)の労働者派遣が禁止されたのである。禁止に併せて、派遣と請負区分大臣告示が出され、これが工場現場の現状と刷り合された後、研究を重ねた結果、「業務請負」の業態を完成したのである。(事務系労働者派遣は業務処理請負と呼ばれ、派遣法によって合法化された)。

¶そもそも、業務請負は、
土木設計技術者、ビル維持管理技術者、警備員を念頭において考えられていた。これらは派遣業構想当時に労働事件問題として取り上げられ、当時の労働組合は、一足飛びに個別企業との交渉は行わずに、制度の根幹に位置する建設省や労働省あるいは都道府県との団体交渉を繰り広げていたのである。官公庁のビル物件管理の発注において、落札業者が変更しても同一のビル維持管理技術者や清掃員を雇用しなければならないルールが、労働組合との交渉により成り立っていた時代であった。
確かに、当時の厚生省は工場内でのことは念頭に考えられていなかった。従前からの構内下請に限って念頭においたものだから、単なる肉体的な労働力を提供の領域を超えた業態は想定をしていなかった。ところが、次のA~Cの条件を満たすことで、社会に受け入れられる業務請負の業態が開発されたのである。

A.法令の定義をクリア:
告示条項の上では、大臣告示の内容を満たし、とりわけ業務ごとに定員を定め、その定員を充足するために約1.2倍(有給、欠勤その他)の労働者を配置したうえで、マニュアル書を用い工程進捗管理を進めれば、業務請負の業態開発の見通しが立ったのである。

B.長期にわたる経済性の確保:
業務請負業者として事業の継続性や採算性などの長期にわたる経済性が問題となった。賃金との利ザヤが稼げる発注価格だけでは事業としての将来性は無かったのである。初めて業務請負の業態で、受注がなされたのは、大阪市と京都市の中間に位置する大阪府茨木職業安定所管内であった。M電器テレビ事業部の常用パート一斉解雇とM電器系列の掃除機組立の常用パート一斉募集がきっかけで、労働力の需給がマッチングしたのを皮切りに、京阪北部:名神高速沿いの工場地帯周辺での労働力需給調整を担うようになった。

C.事業の社会貢献性:
職業安定法や労働者派遣法の法律趣旨を満たすためには、一般労働者の常用雇用やパートなどの短時間安定雇用の期待や願いを充実させるところの、「事業制度設計と事業維持の担保」をする社会貢献性が必要なのであった。ただ単に労働者を雇用し、各作業所に配属するだけでは、事業規模が大きくなればなるほどに、社会からは非難されることになるのは想定されていたのである。すなわち、昨年事件となったクリスタルグループの如くである。

¶業務請負の拡大期
昭和61年から平成10年ごろまでは、業務請負が全国に拡大し定着していった。安定所も偽装請負業者を徹底してあぶり出し、請負要件を最低限は満たすようにとの行政指導を行ない、指導に従わない業者系列の、事務系を含む労働者派遣業をも許可ストップしていった。こういった動きは業務請負の拡大を促進させ、偽装請負業者は業務請負業者や発注者からも、その反社会性が批判されていたのであった。偽装請負とされるものは、大臣告示の条項上の請負要件を満たすことがない。そればかりか、偽装請負個別企業の長期経済性や社会貢献性にいたっては、そのカケラもない。偽装請負として摘発される根拠は、この部分に他ならないのだ。偽装請負のとりえとは、一般人が手を出さない非合法なだけなのである。

¶なぜ、業務請負に比べ、偽装請負が拡大したのか
平成9年11月30日から、それまで労働者派遣事業における社会保険適用優遇?措置が廃止されたのである。それまでは、社会保険の適用は、2ヵ月以内の雇用の繰り返しを行う雇用契約においては、被保険者適用除外とされており、派遣スタッフが希望して2ヵ月を超える雇用契約を結ばない限りは、社会保険に加入する必要がなかった(正確には適用除外)のである。当時の官僚の中には、これを派遣業界への育成援助措置と明言する者もいた。この措置は業務請負業者も一般個別企業も同様であった。そこに事件がおきた。当時の厚生省と労働省は、行政手続法に基づいて大阪の天満社会保険事務所長宛に請求された、「社会保険の被保険者資格にかかる行政指導の趣旨及び内容の書面交付」をきっかけに、この年の夏に両省が協議を行ない、2ヵ月以内の雇用繰り返しの最大業界である派遣業界(併せて業務請負)での社会保険適用方針を変更したのである。(平成9年春の会計検査院調査において、派遣社員の被保険者適用基準が大問題となり、1社で数億円・大阪府下で100億円規模の保険料支払の攻防が行われていた)。
偶然にも、同じ平成9年に職業紹介と労働者派遣にかかる法律が、現在の労働力流動化を促す端緒となるための改正がなされた。この流動化方向を見てとった偽装請負業者たちは、「将来、社会保険に未加入であっても、業務停止処分をされることはない!」とタカをくくり、営業(発注勧誘)活動を展開した。今日に至るまで社会保険事務所は、「業務請負」と称する看板をあげている業者には、社会保険の被保険者適用調査に立ち入ることは無いのである。

¶偽装請負、彼らの営業手法は
とはいっても、社会に受け入れられる業務請負とは異なり、反社会性を以って事業を維持する偽装請負である宿命から、彼らの営業手法は、発注担当者(工場であれば資材課長など)に対する飲食・旅行・講師料その他で当人と家族を接待・誘惑、発注企業での背任・横領が立件されないスレスレの偽装請負契約を締結させるといった具合なのである。コンプライアンスの中心である総務や人事部門に、こういった接待はしない。大阪労働局の事件となったクリスタルグループでも、このような噂は絶えなかったのである。

¶偽装請負によって立ち行かなくなった工場
さて、よくよく考えてみれば、発注工場などは、偽装請負業者によって、
技能者育成の熱意に水をかけられ、
水増しの労働者数を派遣され、
発注担当者は骨抜きにされ、
偽装請負に頼らなければ工場は動かなくさせられ、
ところによっては労務・教育部門の生血を抜かれてしまった
工場まで出て来たのである。事実、M電器とかSグループを除けば、クリスタルに対する嫌悪感や反発は、あちらこちらの経営トップの口から、幾度も出されていたのであった。

¶社会保険事務所は調査しない?
それにしても、社会保険事務所が、業務請負の看板をあげている業者の、社会保険被保険者適用調査に、何故立ち入らないのだろうか。それは、低賃金の労働者が集積している事業所であることから、社会保険の適用をさせると採算が合わなくなると考えているからのようだ。折しも平成10年以降は、社会保険加入事業所率が低下し続けているのである。今日、年金記録問題が起きているが、「年金に加入しているのに、会社が保険料を払っていない」といった言い分の真相は、こういった偽装請負業者の個々労働者の社会保険適用における信義則違反(だまし、裏、ペテン)にまつわる事案ではないかと、社会保険労務士などの専門家の間では噂されているようだ。

¶ところで一転、資金面からは
平成9年以降のメガバンクなどの偽装請負会社への融資の実態である。この当時は平成恐慌・日本初の金融危機か?と言われ、銀行はプライドを捨てて利回り第一の貸付先探しに血眼になったのである。大和銀行が突然、数ヵ月前の方針を転換、9月連休に地方銀行転落との発表したのも、この年の秋であった。そこでメガバンクの銀行員は、偽装請負業者に甘くささやかれ融資させられたのである。偽装請負業者からすれば、資金をつぎ込んで資本と派遣労働者の回転率を引き上げ、そのための銀行からの借り入れには、坊ちゃん育ちの銀行員をハメてしまう事ぐらい、コップ一杯の水を飲むようなものである。ほとんどの偽装請負業者の社長は、倒産や破産をしたとしても、「坊主になれば鐘をつくさ」といった具合であった。(だが、もう今は老齢を感じて、クリスタルグループの社長のようにグッドウィルに事業を売却する者もいれば、夢くずれ50半ばにして老後の年金生活ばかりを毎日考えている社長もいる)。もちろん、暴力団とのつながりも強くなってきている。
だが、ここで考えなければならないことは、経済のグローバル展開によって、今からおよそ3年後には、メガバンクをはじめ多くの金融機関が、貸付利率3%以上を確保するために国内融資資金を回収→海外投資に回す動きが確定していることである。アメリカ国債は利率5%で大売り出し中だ。だとすると、この3年の間が、請負、業務請負、偽装派遣をめぐる方針転換の正念場とならざるを得ない。

¶地に足のついた労働力需給
しかしながら、残念なことに、厚生労働省の6月29日の研究会報告、ナショナルセンター連合の報告などには、こういった歴史的文化的背景や経済社会の将来を見据えた視点が、極めて不十分であることが伺える。ひとえに、民間現場から遊離しているせいか、抜本的に研究強化せざるを得ないものばかりである。高級官僚の立場から物事を分析しがちになると、表面の統計やマスコミで報道された現象が頭に残り、どうしても施策や方針は甘くに流れる論理建てとなってしまいがちなのである。
実際の経営管理や地に足のついた労働力需給業務といったものは、歴史的変遷と現場実態のインテリジェンスから着想・発想された参画が実態を動かしているのである。