2008/12/09

第80号

<コンテンツ>
マスコミや出版界では、100年に一度の経済危機と大騒ぎ
一挙に人員削減・整理解雇が! 年末までに100万人が失職!
そこで個別企業で、何をどうすればよいのか
政府でしか出来ない:雇用対策、本当の公共事業とは
残業代引上げの労基法改正:解説 平成22年4月1日施行
労働市場・需給調整行政が明らかに変化


¶マスコミや出版界では、100年に一度の経済危機と大騒ぎ
昭和大恐慌以来の恐慌と言われ始めた。出版業界も、日本経済が崩壊するとか、経済危機などの言葉を表紙に並べて、皮肉にも、出版業界自身も経済危機の様相なのである。自費出版の陰には、お金を出せばビジネス書であっても、老舗のK社は700万円、新書で有名になったT社のグループは1,000万円、日経新聞によく広告の出るN社は600~1,000万円を支払えば、全国有名書店に配本するとの誘いをかけて来る(200ページ本の初版1,000部:製造原価は300万円止まり)。著作者の買い取り増刷どころではない。すべての本が、こういった類とまでは言わないが、出版社や出版業界のノウハウを信頼した上での情報の集積としてのビジネス書といった有り様は昔話、ここにきて信頼できる情報の宝庫との書籍イメージは崩壊をしてしまったようだ。
あるジャーナリストは、日本の新聞社やテレビなどはジャーナリズムではないという。本来のジャーナリズムと言うのは、自らの信条や主観に一貫性を貫き、それを読者などに踏まえてもらった上で、事象を報じるに留まらず、一歩踏み込んで解説や批評を加えるものだと主張する。確かに、グローバルのジャーナリズムはそうなっている。今時の日本の新聞・テレビ記者は、「通信員」が圧倒的に多く、マスコミは通信社に脱落したと話す。だから、単なる通信員なのに、それを覆い隠したいがため、「客観報道?」という耳ざわりのよい言葉を持ち出し、観念的幼稚なマスコミ理論をまぶしているにすぎないと指摘しているのだ。グローバルなジャーナリズムは、自らの立場を明確にする記者が多く、保守かリベラルか、政府寄りか市民寄りか、権力寄りか反権力かの如く、「客観報道?」など不可能と考えているのだ。多くの人がマスコミの「客観報道?」情報に翻弄されたくないと思っているのだ。まして、文学部出身者の経済記者たちの、職業的裏付けに疑問を抱き、彼らの「読み物として面白いだけ」の根拠の薄い観念的記事に危険を感じているのだ。



¶一挙に人員削減・整理解雇が! 年末までに100万人が失職!
この11月から進んでいる。厚生労働省は3万人云々と発表したが、どう見ても調査方法に瑕疵・欠陥がある。有識者の間では、年末までに100万人が失職するのではと予想している人が多い。大手企業の経営破たんニュースどころではなく、何れにしろ、少なくとも、「まる3年間」は経済急降下なのである。
昭和大恐慌と違って、高度に発達した日本だから食糧問題は起こらないようだ。生活のためにどんな仕事でも就く若者が少ないから、労働力のミスマッチは激しくなる。この30年間ほどは、「母性愛」が注目される時代(:現代社会学理論)だからこそ、その裏返しなのか親子殺人や夫婦間トラブルなどの社会問題が顕在化、家族を基盤とする社会の崩壊を予測する学者もいる。昭和大恐慌時代の農家の娘の身売り話は、現代ではOLの身近な風俗への流入として既に始まっている。さらにこれから、社会秩序の混乱で、企業内秩序や職制秩序が混乱、職場での縄張り争いとなり、それは「いじめ・嫌がらせ」の現象となって表面化するのが、この恐慌の特徴だろう。放置すれば、個別企業の業務運営能力の崩壊だ。
こういった余波を、個別企業は受けるのだ。



¶そこで個別企業で、何をどうすればよいのか
が重要なテーマとなって来る。何といっても、この年末に考えなければならないテーマは、事業継続と人員削減なのだ。売り上げグラフを見て、資金繰り表を見て、先月までの試算表を見ていては、事業継続など辞めてしまいたくなる結論しか出てこない。一昔前に流行した、「従業員の生活のために!」との発想では、「そんな取引はしない!」とか「そんなための商品いらない!」と言われる。今や、それは事業継続の理由としては受け入れられない。
直面の現実を見れば、個別企業での課題は、経済が立ち直ったときに、すぐさま読み取り、打って出るための人材育成と体制固めなのである。すなわち、
第一弾は、今働いている人物の中から開拓力のある人材を探し出し(イノベーション力の人材は第二弾)、今のうちに“その時打って出る”ための人材に育てることである。
年齢、性別などは関係ない。少しだけの経験の者で十分である。
「属人的能力」はエクセルで分解・分析できるまで学問(:文化経済学)は発達している。
さあ、「これからはイノベーションだ!」といっても、
装置産業
(鉄鋼、資源、農業、観光、ホテル、総合病院、スーパーなど装置が主要な設備の産業)と
受注型産業
(建設、教育、飲食、医療、文化、技術、法律事務サービスなどは出向く産業)とでは、
業態と教育訓練内容は全く異なるのである。

“開拓力のある人材”に、
※個別企業の現在もっている技術、ノウハウ、技能を計画的に叩き込むこと
が必要である。
次に、恐慌後の次世代に不可欠な
※コミュニケーション能力を商品開発力と共に育てて行く。
(第76号=8月5日=メルマガで紹介のフィンランド方式は中堅中小企業には最適)
そのための軍資金に、
早々と「雇用調整助成金」とか、「中小緊急雇用安定助成金」も申請、「キャリア形成促進助成金」の受給も計画し、政府からもらえる助成金は大いに活用すればよい。

“開拓力が身に付きそうにない人物”は、
整理解雇を、早めに決断するしかない。
ただし、相手のあることと見ておく必要があり、「整理解雇の四要件(検索)」を整え、合法的に進め、賠償金、補償金、解決金などの労働債務を背負うようなリスクを避けることである。裁判になれば、判決は2年分の年収を覚悟しなければならない。(弁護士費用:70万円の着手金プラスαは別だ)。
ワークシェアリング、
短時間正社員への労働契約切り替え
などを進めていっても差し支えないのだ。
むしろ法人組織自体は何とでも出来るから、事業継続の一点にベクトルを集中する必要があるのだ。



¶政府でしか出来ない:雇用対策、本当の公共事業とは
派遣、業務請負、期間工その他余剰労働力に対して、今こそ、国家が職業能力育成開発を行うことが重要なのである。それを民間の個別企業にさせるのは酷、国家の責任放棄である。
例えば、雇用保険の失業手当を支給する際は、1日5時間の職業能力開発教育を受けさせれば、恐慌後の次世代経済にかならず役立つ。それこそ
※朝の挨拶ができない(業務上意思疎通を朝から)
※業務上文書が書けない、
※業務用信書の宛名が書けない、
※パソコンが使えない、
※インターネットができない、
※報告・連絡・相談ができない といったことに対する、
職業やコミュニケーションの基礎能力の開発から行えばよい。
※職業能力評価基準を政府が整えつつあるので、これをモバイルやパソコンと共に、教育すればよいのである。
※足し算、※引き算、※九九算・掛算
のできない若者には、小学校や私塾と協力して訓練することだ。
仕事は団体戦であるから、個人の人生に、国が意欲を持たせる手を打つことも要るのだ。
こういった基礎的職業訓練を国家が行えば、日本経済や日本文化の基礎力は一段と引き上げることができる。北欧諸国などでは何年も前からやっている。
その後に失業対策として、「環境、介護、福祉などの公的就労事業」を行えばよいのではないか。
民間が雇用保険料とか所得税その他を納付しているのだから、こういった財源の使い道こそ重要なのである。新しい日本経済のインフラも整備できる。
「金を渡すだけ」の失業対策、「金を貸すだけ」の政策融資は、人間の意欲を減退させ、刹那・堕落を煽り、危機の根本解決先送りの末に、切羽詰まった破局を招くだけなのだ。官僚たちが保身と権益を前提とした経済政策を進めるのであれば、日本は沈没し荒廃してしまう。



¶残業代引上げの労働基準法改正:解説 平成22年4月1日施行
12月5日、参議院で、投票総数230票、賛成217票で可決された。
とりわけ重要な時間外労働の割増率等についての解説は次の通り。
改正条文
「第三十七条第一項に次のただし書を加える。
 ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
……の解説。
時間外労働として法律でカウントされるのは、1週間40時間を超える労働時間である。これは事業場ごとに扱われ、合法的に時間外労働を労働者に依頼するためには36協定が必要であり、重要なポイントなのだが、就業規則や労働契約に「時間外労働の規定」を盛り込んでおかなければ、労働者の義務とはならないことである。正確にいえば、自動的に残業命令を出せば不法行為となり損害賠償の対象にもなり得るのだ。ただし、義務と規定されても強制労働はさせることができない。
ところで、この事業場は、個別企業が「事業場の範囲」を定めることが可能な部分がある。場所的に労働者が働く所在地が一つであれば事業場は一つである。注目は、この事業場は場所が異なるのであれば、事業主が個々に独立した事業場とするかしないかを決めることができるのである。事業主が決めた事業場の範囲に基づいて法律が適用される。すると、10人未満の事業場も発生することとなり、就業規則その他労働基準法の適用方法が変わって来る。ただし、中小企業主に対する「60時間」の経過措置(3年後に検討)は、個別企業単位の人数であって、事業場の人数ではないから、事業場を分割したとしても経過措置は受けられない。
さらに、特例措置対象事業場、すなわち常時使用する労働者が10人未満であって、商業、映画演劇、理美容、倉庫、保健衛生、社会福祉、接客娯楽、飲食の業種であれば、18歳以上の者は1週間44時間を超える部分からが時間外労働としてカウントされる緩和措置がある。したがって、1ヵ月60時間といっても、この場合は実際75時間を超えてから150%の割増賃金といった具合なのだ。

改正条文
「第三十七条第二項の次に次の一項を加える。
 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。」
……の解説。
60時間を超えた部分の時間について、別途に休日を与えた場合は、その時間分の割増賃金(150%分)を支払わなくてもよいことになる。休日であるから、午前零時から24時までを労働させない暦日の所定労働時間に休ませなければならない。この休日には時間外労働ができない。有給休暇の取得とは別途に休日を与えなければならないということである。別途の休日は、60時間を超えた賃金計算期間内に与えるのが原則となるだろうが、実際に与える方法は施行規則や厚生労働省の通達を見て判断することになる。
影響としては、業務遂行と労働時間の詳細管理が必要となり、生産性や効率性の向上が不可欠、働き方に変化が生まれることになる。高付加価値製品や高水準サービス提供の商品構成で恐慌から経済を脱出させようとする戦略と一致する法改正であるのだ。

改正条文
「附則に次の一条を加える。
第百三十八条 中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。」
……の解説。
中小事業主であれば、月60時間超過時間外でも125%のままでよいという規定である。150%が実施されるとしても、3年後の平成25年4月1日の話である。中小事業主の定義は、ここにあるように、
資本金の額又は出資の総額が、
3億円以下で常時使用する労働者の数が300人以下
小売業又は5,000万円以下で労働者の数が50人以下
卸売業は1億円以下で労働者の数が100人以下
サービス業は5,000万円以下で労働者の数が100人以下
に該当すれば中小事業主となる。一旦、何れにも該当しなくなれば、あとで資本金減資とか人員削減に至ったとしても150%が適用される。
ここで注意しなければならないのは、事業場ごとの人数ではなくて、企業全体の人数としていることである。昔、1日8時間労働制から1週間40時間労働制に労働基準法が改正されたときには、事業場の人数によって週46時間や週44時間の経過措置があったから、多くの中小企業で、事業所(事業場)の分割が行われた。その後週40時間なれば、再び事業所を結合していたのである。今回は、“事業場”ではないことから、分割するのであれば法人を分割しなければならないことになる。特例措置対象事業場をはじめとして、法人分割が得策と判断する事業主も出て来るのである。

条文
「  附 則 (施行期日)
第一条 この法律は、平成二十二年四月一日から施行する。」
……の解説。
施行の日を法律で定めたことは珍しい。これは、改正内容の施行や下準備を、施行日から逆算方式で厚生労働省に実施させるところのものである。ややもすると、官僚に任せておくと業界団体などとの折衝などで、事実上の監督指導の緩和や猶予期間の設定を生むことになるかもしれないので、これを防止する意味でもあるのだ。



¶労働市場・需給調整行政が明らかに変化
派遣法改正に先立って、都道府県労働局の民間需給部門も一斉に動き始めた。現在の法令で実行できる指導を進めているようだ。「規制緩和」の波に乗って、現行法令の違反自体を見逃す傾向にあったかの様だったのが、一挙に風向きが切り替わったため、現行法令通りの適正水準まで引き上げようといった感がある。
そもそも、97年、99年の職安法・派遣法改正とともに、厚生労働省の民間需給部門(旧:民営職業紹介部門)は、提出書類中心の業務処理になってしまい、現在までそれが続いている。立ち入り調査の交通費までが削減されたとの情報もあったぐらいだから、多くの都道府県労働局の民間需給部門では、今、活気が生まれているようだ。
だが、労働局の職員は、長年に渡って現地調査を手控えていたために、昭和61年の派遣法施行当時と比べれば、立ち入り調査のノウハウ、質問技法、書類調査技法などの機能水準は低下しているのが現状のようだ。ただし、立ち入り調査に長けた職員も、OBとして未だ健在であることから、一挙に立ち入り調査ノウハウの向上は図られる。
今回の派遣法改正が労働市場の再編、とくに派遣先の労働力調達に大いに関係する。経済恐慌を控え、今から、「恐慌から立ち直る」ための労働市場政策に着手し出したといっても過言ではない。