2008/05/06

第73号

<コンテンツ>
 松下電産の子会社との偽装請負関係者の労働者
 突然、外国人を労働力として受入れるとの動き
 中国と日本の経済関係はどうなる?
 解説・労働契約法:就業規則不利益変更(第10条)
 有給休暇の管理ソフト開発(日本初バージョン)


¶松下電産の子会社との偽装請負関係者の労働者
について、大阪高裁は4月25日、子会社との直接雇用が成立しているとの認定の判断を示した。
これは、一昨年来のクリスタルグループ偽装請負事件に関連するものであるが、今後の労働力調達方法に大きな影響を及ぼすことは間違いない。偽装請負を勧誘していたクリスタルグループの受注活動は、工場の資材課長等に対する利益供与とその弱みを握るといったうわさが絶えなかったが、そのクリスタルグループの悪質性ばかりではなく、違法契約の結果に対する判断が示されたものとして重要なのである。
判決内容は省略するが、
「業務請負でなく違法派遣労働だったことから当初から無効と認定」していることは、民法の雇用契約についての極めてオーソドックスな判断であり、基本的人権とか社会権よりも以前の判断基準(いわゆる社会契約論)なのである。
そのうえで、「無効にもかかわらず松下子会社で勤務し続け、派遣先から指揮命令を受けていた状況を踏まえると、法的に根拠づけるのは労働契約以外ない」としているところだ。これは、事態を重視する労働契約成立の判断として、従前からの労働基準法の解釈を踏まえたものであり、定着している判例法理である。要するに、
違法な契約は無効であり作業進捗管理を行っているものが直接の雇い主であるとの判断だ。
これは、厚生労働省の曖昧と言わざるを得ない行政指導を真っ向から否定したものとなった。厚生労働省の行政指導は聴き様によって、雇用が3年超えれば、その後に派遣先が新たに雇用を申し込み、それを受けて労働者が承諾の意思表示を表して、そこで初めて契約が成立するとの代物であるが、大阪高裁はこうした手続きとは無関係に実態としての契約が成立するとの考えを示したものだ。
会社は最高裁に28日付け上告したが、その場合、すぐさま棄却される場合は3ヵ月程度、判例が出されるには数年後となるが、こういった民法の契約法の原則が最高裁でも貫かれることについては間違いない。
したがって、その準備と覚悟は今から必要となる。
その理由は、派遣であれば社会保険料の費用負担が発生するが、業務請負の名称であれば社会保険事務所が保険加入の調査に入ることは稀である実態から、派遣法関連一体のものとしての実情がある。1999年まで派遣業務の専門性が強化されていたものの、これが原則解禁となり、一般単純労働までもが派遣の対象となったのである。そこでの単純労働力の安値乱売は、業務請負であれば社会保険の実態コストは不要なものだから、業務請負の装いなのだが、派遣先指揮命令(進捗管理)により派遣労働となっているのだ。この実態に対する大阪高裁の判断だったのだ。
ひいては日雇派遣は禁止となっても、業務請負の日雇は温存されているが、影響を受けざるを得ない。
なお、今回示された判断は、偽装出向(出向に名を借りた労働者供給)、偽装派遣(派遣に名を借りた労働者供給)についても同じで、違法性が明らかになれば直接雇用が命じられることとなる。
つい1年ほど前までの世論は、
経済成長・コスト削減のためには派遣やフリーター(業務請負に集中)の労働力も必要といったものが強かった。ところが、食品偽装がきっかけとなってコンプライアンス・違法性に対する関心が高まり、そこへ戦後最大の世界経済危機、スタグフレーション対策、中国オリンピック後の不良債権の大波などを期に、日本経済成長のためには個人所得増が不可欠との世論に変わって来たのだ。年収2百万円以下が3分の1程度に迫ったことは、社会経済の足をひっぱることが目に見え、社会不安の到来が懸念される世論と変わった。もとより、政治の世界も各党おしなべて内心は個人所得増加を決意している。
こういった経済背景や社会の動きが、司法判断に影響するだけでなく、労働者派遣法や労働契約法の運用にも影響してくるのである。



¶突然、外国人を労働力として受入れるとの動き
が表面化して来た。4月20日のサンデープロジェクト(テレビ朝日)に出演した自民党中川元幹事長の構想によると、日本国籍を最終的には取得(帰化)する意思があることを前提に、日本語をマスターしておれば、労働力として認めるというもの。「日本や日本文化が好きだという人を、日本人として受け入れても良い」といった主旨のようである。総理大臣も了承済とのことだ。外国人労働者受け入れを、この時期、自民党の大物が言い出したことに、「まさかあの人が?」との大きな反響が出ているようだ。この裏にはアメリカからの外圧、「中国人研修とは名ばかり。労働でありその実態は人身売買に等しい!」に反応したからとしか考えられない。厚生労働省は、これに真正面から反対の姿勢とも言われる。
国の富を作るのは人間の数であることは17世紀からの定石である。それも広い土地にではなく、高い人口密度が重要でもあるのだ。その場合唯一の問題は日本国籍を取得する外国人の日本語であるが、結果的には子供の代には問題がなくなるのである。日本国籍取得は外国人を誘うが、特定一民族の集団生活が形成され日本人に馴染まなければ問題が残る。ドイツの移民政策によるトルコ人集団の形成といった失敗例もある。また、外国人といえば東アジアの国々の人ともなりがちであるが、今や、ジャポニカに共感するフランス人、東ヨーロッパ人などのバランスを持った国籍取得政策も重要なのである。ブルーの瞳に金髪の日本人といったところだが、仏教の般若心経はブルーの瞳の僧侶が説いたことを知れば、受け入れ抵抗感も消滅するというもの。ある社会学者は、世間体や家父長制家族が日本社会の豊かさや経済発展の阻害となっているとして、一挙に価値の多様性を認め合う社会とするために、外国人労働力の自由化が必要と述べる。
国籍取得を視野に入れた外国人労働力の自由化は、個別企業のグローバル展開の追い風となるかもしれない。



¶中国と日本の経済関係はどうなる?
中国経済の話題までもがオリンピックに終始しているが、戦後初の世界金融危機を迎え、いま判明しているだけでもサブプライム関連だけでも95兆円の不良債権(IMF集計:日本のバブル崩壊は85兆円程度)の影響がどのように現れるかのシミュレーションがない。今や多くのマスコミ論調は、「日本は中国から大変な量の輸入をしており、輸入超過ともなっていて、中国には日本経済は語れない」などと言われている。
ところが、何事も決めつければ、社会科学は無縁の分析になってしまうので、いくつかの指摘をして正確な分析のために一石を投じる。
(1)中国に進出している外資企業には、
ある程度の海外輸出が事実上強制されていること。日本から進出した企業が、日本へ利益を送金するためには、生産物の日本への輸出が必要とされるからくりとなっているのだ。
(2)日本が輸入超過であるといっても、
日本から香港への輸出額を合算して判断しなければならない。それは、香港へ荷揚げされた日本の輸出品はトラックに積まれ、大陸をめがけて出荷されているからだ。
(3)中国経済は海外からの投資によってのみ成長
していると注意してみておく必要がある。中国自体の生産技術ノウハウ、効率的経済システム、技術開発力などの蓄積は弱く、「投資がなければ成長もできない!」といった統制経済特有の短絡的様相である。中国模造品、官僚の汚職、食品・衛生・社会不安といったエピソードは、これらの現象面であることを知っておく必要がある。「改革開放」の合言葉を隠れみのに、官僚が経済を牛耳って私腹を肥やし、反社会的行為を繰り返している実態に対して中国上層部に解決の道筋がないといったところだ。チベット問題しかり、毒練り込み餃子しかりである。
中国の改革開放は、天安門事件で政権が危うくなった途端に統制経済で以って改革開放の規模を収縮させた歴史がある。天安門事件は、学生以上に中堅一般市民が参加、ストライキや鉄道線路への座り込みが行われた一大政治危機、大手マスコミなどの報道した「学生運動」などではなかった。その後再び官僚主導の統制的成長を進めたが、数年前からは中国上層部は成長にブレーキをかける統制を実行している。オリンピック閉幕後をにらんでのことである。上海万博は、盛り上がっていないようだ。
そこに降って湧いて来たように、基軸通貨ドル経済圏の金融危機である。早速中国政府は、金(Gold地金)の確保に動き出したとのことである。金融危機で、アメリカの投資が減少することは、=中国経済のマイナス成長となるので、中国は、おそらく外資系企業に輸出増加を強制するであろう。中国系企業には、統制経済下のドップリ官僚体質、商品力で輸出する気力も能力もないからである。そうすると、日本国内でも、中国進出企業が中国製品を日本国内で売らんがため、中国ブームが益々あおられることになるかもしれない。(中国食料品の輸入減少は、ひとえに中国政府の輸出ストップによる)。
ところが、もとより中国経済はオリンピックに向けての「水ぶくれ経済」、何時バブルがはじけて、代金支払停止や延期が起こっても不思議はないのである。今でも官僚による数字水増し虚偽報告の経済指標、その時には不良債権の額は計算できない見通しなのだ。オリンピックに向けて、中国政府がことさら威信をかけているのは、こういった中国が「腹に一物、背中に荷物」に陥っており、自らだけのことに必死なのかもしれない。
さて、これを日本経済の輸出のチャンスとみるか、どうかである。日本政府の計画経済政策に慣れ親しい人にはチャンスの有無すらが、判らないのだが。こういった動きを既に織り込んで、関西や福岡の経済復興を目指して動き出している人たちも出て来た。ちなみに、この人たちの共通しているところは、投資=成長といった短絡的発想ではなく、グローバル水準からみれば、日本の高品質高水準を多国籍展開できる人材の育成・確保から始めようと計画している戦略である。官僚支配と武力行使(解放軍や地元ヤクザ)の中国統制経済に対する戦略として、的を射ているかもしれないのだ。もちろん、中国富裕層の絶対量増加と豊かさの水準引き上げを対中国経済の底流におくことは欧米各国の視点と異なるものではない。ただし日本の選択にあっては、日本国内から発送する「高付加価値製品と高水準サービスの商品展開」、すなわち、日本よりも絶対数の多い富裕層に向けてのmade in Japanの耐久高品質製品の直接出荷であるとかアニメ・グルメ・景観・文化といった癒しの観光などなどの高水準サービス商品なのである。これらは対中国一国経済に限られるものではないが、資本輸出総額の絶対量が少ない日本であり、覇権争いの大国に翻弄され続ける「利回り資本投資」に比べれば、日本の文化経済活用や豊かさへのはね返りに極めて安全で効果的な経済路線となるのである。政府官僚に依存することもなく、小零細企業の個別企業であっても即刻・身の丈サイズ・自力で展開できるから、この経済路線は「イケる」のである。
今や、個別企業は、直接的にも間接的にもグローバル世界経済につながっている戦略に焦点を当てて、その実現のための人事政策や賃金体系のバックアップを必要としている。
それが人事総務部門の最優先課題なのである。



¶解説・労働契約法:就業規則不利益変更(第10条)
今年3月1日施行の労働契約法によると、
(1)労働者への周知
(2)不利益の程度
(3)変更の必要性
(4)内容の相当性
(5)労働組合などの交渉状況
(6)その他変更に係る事情の内容
が、就業規則を不利益変更する場合においては、これらを問われることとなっている。不利益とは、あくまで個々の労働者にとって不利益かどうかが判断され、平均すれば不利益ではないといった内容や経営者の不利益は労働者の労働条件に跳ね返るといった論述は、一切想定されていない。「合理的なもの」の意味内容は、法曹界の特別用語で、道理にかなっているとの意味が強いものではあるが、未だ法科大学院や司法研修所で適切に解説されたものが存在しないようで、「経営の合理化」などで使用する場合の語意とは異なる。これら6つの要件には従来の判例から、不利益の内容についての誠実説明義務ではなく、不利益と利益の関係について、労働者の合意納得性が重要であることは、これからも変わりがない。注意が必要なのは、このポイントだ。
就業規則でもって労働者との契約を、代わりに行おうといった考え方を、「就業規則法理」と専門家の間では呼ばれている。その口火を切ったのは、秋北バス事件の最高裁判例。昭和32年4月1日の新就業規則55歳定年をめぐって、当初、仮処分や秋田地裁は、「同意のない就業規則変更は無効」とし。これが日本で初めての判断であったため、多くの労働組合が、この地裁判決を活用して闘争を行った。当時、数多くの労働組合用学習文献がこの内容で出版された。その後、最高裁判決で逆転、その理由として初めて就業規則法理の考え方が打ち出されたのである。ところが、昭和43年から平成20年までの間の40年間にわたり労働紛争の現場や労働裁判の場において、いわゆる労働側からの巻き返しである法的論理構成が展開され、その末に労働契約法の成立に盛り込まれたものである。ここに、労働者の合意納得性が重要であることのプロセスがある。
厚生労働省労働基準局長の通達(平成20年1月23日 基発第0123004号)によると、就業規則の変更手続の際に労働基準法の「…遵守の状況は、合理性判断に際して考慮され得るものであること」としていることから、きわめて注意が必要な事柄となっている。秋北バス事件の如く、労働組合に対して、2日後の午前10時までに意見書の提出を求めるなどの方式が、仮処分において、「甚だ形式的で所謂意見を聴く態をなしていない」(昭和32年6月27日仮処分決定)といった考え方を踏襲しているものと思われる。ところで、最高裁の判決には、原告らの「中堅幹部をもって組織する『輪心会』の会の多くは、本件就業規則条項の設定後、同条項は、後進に譲るためのやむを得ないものであるとして、これを認めている、というのである」と言ったくだりが存在するが、ここで「決して不合理なものということはできず、」とする、こういった後から付け足したかのような論述は、現在では認められないことに注意する必要がある。こういった解説を読んで会社で実行すれば経営側は、法手続主義のパラダイムの視点から、それだけでまず負ける。
ところで、秋北バス事件は、当時の地元新聞では「芳川事件」と報道された。事情があって、個人名称を使った方が地元では良く理解できたのかもしれない。一般の労働事件にあっては、労働組合は事件に何らかの絡みがあるのだが、この事件においては形跡がつかめない。せいぜい、秋北バス労働組合は、就業規則変更に、意見書の提出を拒否(当時流行の反対戦術)するなどの積極的反対姿勢をとり続けた程度であった。この就業規則変更で解雇された芳川さんは、元大館営業所長だった。本人は、「私は役員待遇であったはずだ!」と主張するほどの経営側人物であったようで、労働組合員ではなかった。この事件はもしかすると、秋北バス内部での経営陣争いが主だった問題点であったかもしれないのだ。それは、昭和18年の戦時下、地元の13社が統合させられた時代にまでさかのぼる。
秋北バスは秋田県北東部の主要な公共交通機関、秋田犬や比内鶏、キリタンポで有名な「大館市」に本社がある。筆者は2回に渡って現地調査をした。秋北バス事件の判例そのものは、労使対立や労働運動に利用され、元々の事件は時代の要請に翻弄された感も有り、当時の関係者のインタビューが取れないことで調査が困難につきあたったものの、この事件が労働契約法の第10条の解釈を、より有効に行うことができるのであろうと実感を得ている。
(秋北バス事件現地調査080415レポートを希望の方は、会社名、役職、氏名を明記のうえメールで連絡をどうぞ。メールで本文、当時の新聞記事、現在の写真などを送ります。)



¶有給休暇の管理ソフト開発、
 労働基準法バージョンを製作し、個別企業ごとのオプションのオーダーメード
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